もっと警戒すべきだった
「こ、これは……っ」
筆頭神官長が声を震わす。セイフェルトは唇を噛んだ。
「遅かったか」
神杖が盗まれた。
犯人はわかっている。ギリアンだ。
ただし、ギリアンひとりで可能かといえば違う。協力者がいたはずだ。
ギリアンと親しい人物、または利用できる人物。弱みを握っている人物……。
「懲罰房に放り込んだ聖女たちは、どうしていますか?」
「三日ほど部屋で休むように、伝えてあります」
「確認してください。神杖を盗んだのはギリアンなので、協力したかもしれません」
「そ、そんな……っ、あの子はそこまで大それたことは……っ」
四十歳を超えた男を『あの子』と呼んでいる時点で、やはり筆頭神官長は甘い。
「もしギリアンでなければ、私か、君しかいませんよ。当然、私は盗んでいません」
「わ、私も、盗んでません……っ。私は、神杖を使ったあとのあなたを見ていますので……手にするのも恐ろしいんです」
「私を世話してくれたのは、君でしたからね」
干からびた老人のようになったセイフェルトを一年も世話してくれた。だからこそわかるのだろう、神杖がどれほど危険なものであるのかを。
「手引きした者がいるはずです。ギリアンに近い存在。私に恨みをもっている人物です」
たとえば懲罰房に入れられていた聖女とか。
「す……すぐに、調べます!」
筆頭神官長が、急いで地下の宝物庫を出る。
大神官の私室からしか行けない宝物庫。
大神官の私室がある奥神殿には、神官長たちの私室もある。
警備もいるため、許された者たちしか入れないが、何事も抜け道はあるものだ。
神官長時代のセイフェルトはやんちゃをしていたこともあり、夜の町に繰り出して遊んでいた。真夜中にほろ酔い気分でこっそりと帰ってくる際に、抜け道をいつも使っていた。泣きながら遊びに付き合ったのは、それこそ現在の筆頭神官長だ。
そして奥神殿が無防備になる時間帯がある。
朝の禊と、祈祷の時間だ。
たっぷりと二時間かけて行われるそれは、大神官のルーティン。
神殿に戻れば一日と欠かさない日課であることは、神官長ならば誰でも知っている。彼らもまた、セイフェルトと共に日課としているからだ。
保管に適切な場所など悠長に考えている場合ではなかった。
せめて警備を増やすべきだった。
事を荒立てては変な誤解を生むと、気を回している状況ではなかったのだ。
「ギリアン……よくも」
ふつふつと怒りが湧いてくる。ギリアンに対する怒りなのか、彼を侮っていた自分に対するものなのか、セイフェルトにもわからない。ただギリアンを許せないと感じていることだけは、変えようがない事実だ。
「ルミエール様を裏切った罪、とくと味わうがいい」
神を裏切った者に、神杖が扱えるはずがないのだから。
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