個人情報なにそれおいしいの?

「ところで、ユニヴェールの行方はどうなりましたか? 目立つ桃色の髪をしているのに見つけられないとは、どういうことです」


 ちょっぴり感情的になってしまったが許してほしい。この忙しい時期に問題ばかり起こす人物が、神杖の在処を知っているのだから心配やら腹が立つやらだ。


「ギルドで見かけたという証言を得ています」

「冒険者になったということですか?」


 補佐官が悩ましげに眉根を寄せる。


「個人情報がどうとか言いまして……、ギルドでは教えてもらえないそうです」

「聞き出しなさい。聖女ひとりが消えたのだから、どんな手を使ってでも協力させるのです。それでも聞き入れないならば、ギルドから商業権を奪うと言って構いません」

「わかりました」

「祈願祭の明かりは、ちゃんと足りていますか? ユニヴェールがいなくとも、ルミエール様の光を陰らせてはいけません」


 神聖国きっての三大祭りのひとつ、祈願祭。

 一年を健やかに過ごせるよう、賑やかに行われる祭り。

 種まきが終わった時期でもあり、豊穣祈願も兼ねている。


 神ルミエールを模した木像を引き車に載せ、皆で花を投げて飾り立てる。上手く飾ることができれば願いが叶うとされていることもあり、人の流入が多い。

 神殿は参拝者に祝福を与え、小麦粉と聖水を振る舞い、希望者にはオリーブオイルを分ける。


 夜になると神官や聖女が神を称える歌を披露し、神殿の成り立ちを演劇で見せる。

 神聖国にとっては二番目に大きな祭りだが、神殿にとっては一番派手な祭りだ。


「明かりについては、これはこれで悪くない、くらいに考えておいたほうがよろしいでしょう。蝋燭やランプよりは明るいです」


 つまりユニヴェールの明かりほど明るくない、ということだ。

 彼女はルミエールが乗る引き車を、明かりで飾ってくれる役目も担っていた。

 ユニヴェールが近くにおらずとも明かりが消えることがない。それがどれほど凄いことかを忘れてしまった者たちにより、彼女は追放されてしまった。まったく頭の痛い話だ。


「当日までにユニヴェールが戻るといいのですが」

「聖女が冒険者なんて、できるでしょうか」


 補佐官が茶を淹れてくれた。


「キノコ採取などの、簡単な依頼もあります。まして彼女は黄金の家を欲しがっていましたからね、お金を稼げる冒険者を選択する可能性は充分にあります」

「黄金の家ですか、それは可愛らしい」


 ユニヴェールは頭が悪いわけではない。たまに驚くほど純粋なときがあるだけだ。

 安易に一攫千金を狙っても、おかしくないほどに。


「ギリアンに告げ口をした聖女たちですが」


 筆頭神官長が口火を切る。

 誰がギリアンに嘘を吹き込んだのか、ギリアン本人に訊ねたらあっさりと犯人はわかった。

 普段からユニヴェールに嫌がらせをしている聖女たちだ。


「あの四人組が、どうかしましたか?」

「そろそろ懲罰房から出してはいかがですか。彼女たちは祈願祭で歌を披露しますし」

「懲罰房だなんて、あそこは立派な祈祷室です。明かりが射さないだけですよ」


 懲罰房と呼ばれる祈禱室は地下にあり、寝返りが打てないほど狭いベッドとルミエール像が飾られているだけの小さな部屋だ。そこに蝋燭一本だけ持たせて閉じ込めている。火が消えても替えの蝋燭はもらえない。


 だが彼女たちはそれほど大きな過ちを犯したと、セイフェルトは信じている。



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