よりにもよってなぜギリアンなのか
「事情はわかりました。聖騎士たちへの責任は不問とします」
「感謝いたします」
「ただし、拉致という可能性も捨てきれないため、捜索隊を組んでください。三日ほど捜しても見つからなければ、神殿に戻って構いません。祈願祭がありますからね。警備に集中してください」
「早急に部隊を編成し、出発します」
「それとは別に、男爵家を探れる人物をギルドに依頼しましょう。ギリアンが男爵家にいると確認でき次第、神殿に対する造反行為とみなし指名手配します。その際は騎士団長、あなた方に連行を頼むことになるでしょう」
「いつでも、ご命令ください」
神殿内の情報をもつ神官長の裏切り行為は、反逆罪だ。
正規の手続きを踏んでさえも簡単には解放されない。
まして彼は、神殿の秘密を知っている。
(あれを持ち出されたら、大変なことになります)
神杖。読んで字のごとく神の杖で、神の力が宿っている。
カエルム大帝国を封印する際に、初めて神殿外へ持ち出すことを許された杖だ。
人が使っていい杖ではない。使用者も命懸けとなるほど、強大な力だった。
セイフェルトは、そのせいで生死の境を彷徨った。
使用後は神聖力どころか歩くことすらままならないほど、衰弱したものだ。一年以上そんな状態が続いて、神官も諦めないとならないと希望を失いかけたころに、少しずつすべてが戻ってきた。
生きよという神の思し召しと信じ、いっそうルミエールへの忠誠を誓った。
その神杖の在処を、ギリアンが知っている。
本来は大神官と筆頭神官長しか知らない場所だが、筆頭神官長が目をかけていたせいで知られてしまった。
彼を捨ておくわけにいかない。
見つけ次第、必ず処理しなければ……。
「残念です」
セイフェルトは淡々と言ってのけた。
まるで心が籠っていないのは、セイフェルト自身が一番感じている。
(どうせなら、ユニヴェールを破門するまえに居なくなればよかったものを)
最後まで迷惑をかけてくれたなと、苦々しく思う。
高位の神官と聖騎士たちは、そこで部屋を辞した。
残ったのは筆頭神官長と、セイフェルトの補佐官だ。
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