意識してしまいます
「着替えたほうがいいと思います。汗をかいてますよ?」
「そ、そうだな。段階は踏まないとな。それが誠実というものだからな。ユニヴェールも着替えたほうが、も、もちろん今の言葉に他意はない……っ」
シリウスがゴホンと咳をした。本格的に風邪かもしれない。
ユニヴェールも、せめて着替えたいのだが……。
「わたしも着替えたいんですが」
「俺なら気にするなっ。その辺にある石ころだと思ってくれたらいい。もちろん背中を向けておくから安心してくれ!」
「いえ、着替えたくとも、替えがなんです」
「うん?」
「神殿からもらっていた謝儀があまりに少なくて、シンプルなドレスを一枚買うのも躊躇するほどです。この服も、廃棄される聖服をリフォームしたんですよ。だから聖女に間違われるんですよね」
今朝まで聖女だったけど。
シリウスの目に憐憫が浮かんだ。
「地上へ戻ったら、俺がドレスをプレゼントする。アクセサリーも気に入ったものがあれば言うといい。いくらでも買ってやる」
「ありがとうございます。でも、いただいたスラ石を売れば買えると思います。百万メテオもあれば、着替えの他にローブも買えちゃいます」
「ローブも持っていないのか?」
「節約したかったので……」
お金がないって、切ない。
「余っているローブがあるぞ。よければ使ってくれ」
「遠慮なくお借りします」
シリウスから借りたモスグリーン色のローブは、ユニヴェールの足首に届くほどだった。
(せっかくだから、服を乾かしちゃおう)
シリウスも背を向けて着替え始めた。
彼は案外と着やせするのかもしれない。腕や背中に立派な筋肉がついているし、完治しているけど傷跡がいくつもある。
これが男の人の背中……と意識したら、途端に恥ずかしくなった。
そそくさと背を向けて、ユニヴェールも服に手をかける。
(ぬ……脱いでいいのかな)
男女が裸同然の格好で過ごすのは恥ずかしいこと。
性知識が五歳で止まっているとはいえ、ユニヴェールにもそれくらいの本能はある。
でも、地下はあまりに寒い。しっとりと濡れている服がやけに冷える。
いくら頑丈なユニヴェールとはいえ、風邪を引きそうだ。迷惑をかけてしまう。
(ローブがこれだけ大きければ、全身が隠れるよね)
ええいっ、という具合でユニヴェールは服を脱いだ。
幸いにも下着の替えはあるから新しいものを身に着けたけど、あとはローブのみだ。心許ないが、濡れた服を着ているよりはマシだろう。
脱いだ服を持っていたら、シリウスが後ずさった。
「ぬ、脱いだのか……っ」
「濡れていたので。あ、下着は着けてますよ。これだけは替えがあるんです」
シリウスがごくりと喉を鳴らす。彼の手がのびた。
「これを……っ! とりあえず、着ていろっ」
急いでポーチを漁った彼は、そっぽを向きながらシャツを差し出してくる。
「わあっ、助かります!」
寒かったからありがたい。ダンジョンに潜るときは冬支度が必要かもしれない。
でもシャツを着てみたら、ユニヴェールには大きかった。
袖は長いし、裾で膝が隠れるほどだし、襟ぐりが開いているから肩を押さえていないとずり落ちる。
(胸の高さが、足りない……っ)
引っかかりが大きければシャツも多少止まってくれただろうに……。
ギルドの受付嬢が、ちょっぴり憎らしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます