成功ですよ!

「キャアッ」

「ユニ……ッ」


 シリウスが咄嗟に手を引いてくれたけれど、二人そろって穴へと吸い込まれた。


「シリウスッ、シリウス……ッ、落ちてます……ッ」


 パニックになるユニヴェールとは違い、シリウスは冷静だ。


「オーラを使って着地する! 反動がくるから、しっかりと捕まっていろ!」

「はい……ッ」


 シリウスがユニヴェールの頭を抱えこむ。ユニヴェールもシリウスの首に腕を回してしがみついた。


「いくぞ!」


 二人の身体が青紫色のオーラに包まれた。


(これが、オーラ……っ)


 神聖力とは違う能力で、鍛錬すれば誰でも使えるようになると言われている。

 主に身体能力の強化が、オーラの特性だ。


 地面に着地する寸前、空気の圧のような反発を軽く感じた。それだけで衝撃がいくらか紛れたかもしれないけど、ドゴンッと派手な音をたてて着地する。


「ふう……」


 どちらともなく安堵の息がこぼれた。

 でもユニヴェールは、すぐにハッとする。


「シリウス……っ、足は無事ですかっ? 骨折などしてませんかっ?」


 尋常でない音がした。普通なら骨折どころか命も助からない高さだ。

 しかしユニヴェールの心配をよそに、シリウスは痛がる素振りもない。


「無事だ。階層ひとつ分くらいなら、なんてことはない」

「でも、すごい音が……っ」


「俺はもともとオーラの質量が大きいんだ。オーラを使って階層を渡るというのはよく使っている手だから、安心していい」


「そうでしたか……よかった」


 またユニヴェールからホッと息がもれた。


「さっそくご迷惑をおかけして、すみませんでした」

「同行した甲斐があったな」


 頭上から降ってくる水を浴びながら、お互いに声をたてて笑う。


 地面からビキビキッと音がした。


 二人そろって「へ?」と間抜けな声を発したとき、足元が崩落した。


「きゃああああああッ」

「くそっ、地盤が緩んでたか……っ」


 頭上から水が落ちているのに、地面に水は溜まっていなかった。地盤が水を吸収していたということだろう。そのせいで脆くなってなっていたのかもしれないし、オーラを纏ったシリウスの威力が強すぎたのかもしれない。


 再びオーラを纏うシリウスが、着地と同時にまたも地盤を踏み抜いた。

 さらに次の階層もぶち抜いたシリウスが叫ぶ。


「ユニヴェール、防御だ……ッ」

「そ、そうでした!」


 ユニヴェールはシリウスの首の後ろで手を組む。


「万物を統べる神ルミエール様、聖女ユニ、急いでいるので省きますッ! 絶対防御アイギスッ!!」


 ユニヴェールの身体がパアッと輝き、金色のベールを纏う。

 身体に膜が張ったみたいな感覚を受けて、ユニヴェールは確信した。


(いける……ッ!)


 シリウスの頭と背中を抱える。


「俺のことは構わなくていい……ッ、自分を護ることに集中しろ!」

「大丈夫です! わたしを下敷きにしてください!」

「それはできない……ッ」


「わたしを信じてください! 必ず、護ってみせます!」

「俺を護る、だと?」


 シリウスが動揺した。でも、問いかける余裕はない。


「シリウス……ッ」


 彼の名を叫ぶ。シリウスがハッとした。


「……わかった」


 ユニヴェールの身体を抱くシリウスの腕が、いっそう強くなった。


「おまえを信じよう、聖女ユニヴェール!」

「はい!」


 着地面が見えた。ユニヴェールは身体の向きを変える。


「きます!」


 衝撃が、と言う余裕がないまま肩から突っ込んだ。


 ポヨーーーン。


 擬音がつきそうな柔らかさで二人の身体が跳ねる。成功だ!


「やりました! 成功ですよ、シリウス!」


 しかしシリウスからの反応は薄い。


「……なぜ跳ねる?」


 シリウスが纏っていたオーラを一瞬で消すほど、怪訝そうに声をあげた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る