スライムと初遭遇
「賢い選択だ。神殿のような腐った連ち……いや、すまない。破門されたとはいえ、聖女だったな」
「お気になさらず。否定しづらいところもありますので」
内部にいたユニヴェールだからこそ、よく知っている。神官や聖女だから全員が聖人、というわけではないのだ。
「あまり知られていい加護ではないが、ダンジョン内では迷わず使ったほうがいい。たまに階層に見合わない、強い魔物が上がってくることがあるからな。以前3階層に、10階層以下で見かける魔物が出現した。たまたま上位ランカーが通過中だったからよかったものの、危うく死者を出すところだった」
それは低ランク冒険者にとって、恐怖だっただろう。
「3階層に来るまで、誰も気づかなかったんでしょうか?」
「ダンジョンには無数の道があるからな。誰も介入していないなら、たまたま人が通らない道を上がって来たんだろう」
やや含みのある言い方だった。
まるで『誰かが連れてきた』とも聞こえる。
「迂闊に、道を逸れられませんね」
「ギルドが情報を買ってダンジョンマップを作成しているんだが、あまりに広大で作成しきれないでいる。たまに起こる魔物同士の争いで、地形が変化することもある。5階層以下は、今の世になっても前人未踏の地があると言われているほどだ」
「そういえば、いろんなところでダンジョンマップが売られてました」
【10階層までの近道マップ】や【ゴールデンルートの攻略マップ~魔物図鑑付き】などが売られていた。他にも【ダンジョンの帝王・これであなたもSランク冒険者!】や【魔石ガイドブック・最新版】などという本が売られていた。あとで一冊購入してもいいかもしれない。
(そうすれば、わたしもSランク冒険者になれるかも?)
依頼達成率100%の凄腕Sランク冒険者という自分を、ユニヴェールは想像をしてみる。
黒色のローブをなびかせ依頼ボードへ向かうユニヴェールの胸元には、Sランク冒険者の証であるタグが輝く。『あれが噂の』と、口々に囁かれるなか依頼書の一枚を手にカウンターへ差し出せば、受付嬢がキラキラと輝く瞳で『とうとうSSランクに挑戦ですね!』と声高に言うので、ギルド内がざわっとどよめく。『頑張れよ!』『おまえなら出来る!』と声援を受けながら颯爽とギルドを後にする……。
(いいかもしれない)
俄然、ユニヴェールの夢が広がった。
「ダンジョンには、大まかに三本の道がある。ゴールデンルート、シルバールート、ブロンズルートだ」
それぞれ方向が違ううえに、道幅や道順のわかりやすさ、出現する魔物に違いもある。その中から自分に合ったルートや目的がある道を選んで通る。ちなみにユニヴェールがいま通っている道は、ブロンズルートらしい。慌てていたので、よく見ていなかった。
ダンジョンでの心構えやエピソードを聞きながら三時間も歩いたころ、遠くでなにかが動くのが見えた。
「な、なにか動きましたよ!?」
「スライムだ」
「魔物ですね! 初遭遇です!」
ここまで一体の魔物とも遭遇せずに来たが、とうとう現れた。
「耳を澄ませてみろ。水の音がするだろう?」
口を閉ざして周囲の音に耳を傾ける。サーッと水が流れるような音がした。
「川……ですか?」
「百の説明を聞くよりも、見たほうがわりやすい」
シリウスはスライムがいても剣を抜くことなく、先へと進む。
水音が近づくにつれてスライムも多く見かけるようになった。
スライムの身体は水色のゼリーのようにぷるんぷるんで、顔らしきものはない。
「スライムって、目がないんですね」
「顔はなく目もなく危険もない。奴らは放っておいて構わない。攻撃といってもぶつかってくるだけで痛くはないし、害もないからだ。邪魔なときは、こう」
シリウスが飛び跳ねている一体のスライムを手で払った。スライムがびちゃっと音をたてて形を崩し、それこそ落ちたゼリーのように地面に広がった。
「……死んでしまったのですか?」
害がないなら生かしておいてもよかったのに……。
「あ、ああ」
若干気まずそうにシリウスが頷きながら、落ちたスライム痕からなにかを拾い上げた。
「スライムの中には、たまに石をもつ個体がいる。不純物が入り込んで結石となるんじゃないかと言われているが、解明はされてない。これを通称スラ石と呼ぶんだが、ひと粒で百万メテオになる」
「ひと粒で百万メテオ……ッ! お宝の山じゃないですか!」
スライムを生かしておく理由はなくなった。
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