絶対防御というチート
「これは……なんだ? まるで、日中の陽射しのようじゃないか」
辺りをくまなく照らす光は、ユニヴェールが得意としている加護だ。
「ルミエール様からいただいた加護です」
「温かい」
シリウスが手を伸ばして明かりに触れる。
「わたしの明かりは熱を発するようです。寒い時期などは役に立ちますよ」
「これほど素晴らしい能力をもちながら、なぜ冒険者になったんだ?」
明かりひとつで褒めてもらえるなんて、ユニヴェールにとっては最大の褒め言葉だ。シリウスの好感度はうなぎ登りだ。
「本日付けで、神殿を破門になったからです」
「破門? 神殿が聖女を手放すなんて、聞いたことがない」
「役立たずと言われて、棄てられました。わたしは明かりを灯すことと、極限られた範囲の浄化しかできないんです」
濡れ衣を着せられたことは割愛してもいいだろう。神殿の恥を晒すだけだ。
「あと、アイギスと呼んでいる絶対防御の加護があります」
「絶対防御? それは、どういうものだ?」
シリウスが足を止めてまで興味深そうにユニヴェールに向き直る。
「危険な目に遭っても怪我をしない、という加護です。魔物にどこまで通用するかわかりませんけど、神殿の階段や屋根から飛び降りても無事でした」
「そんな加護は、聞いたことがない」
ユニヴェールも聞いたことがない。
「ルミエール様が、お慈悲をくださったんだと思います」
いじわるな聖女たちから自分を護るために、並々ならぬ気合いを籠めて祈った。加護をくれない神に文句を言いながらも祈った。
するとある日、突き飛ばされても痛くなかった。神が見かねて祝福してくださったと、ユニヴェールは信じている。
「ただですね、わたし自身にしかかけられない祝福なんです」
「他人にはかけられない、というわけか」
「役立たずで、すみません」
シリウスはわずかでも期待したのだろう。ちょっぴり残念そうだ。
「いいや、ユニヴェールだけでも安全なら、充分だ」
黒革の手袋に包まれたシリウスの手が、躊躇いがちにユニヴェールの頭に置かれる。
トクン……。ユニヴェールの鼓動が鳴った。男の人の、大きな手だった。
「それほど稀有な神聖力があるのに、神殿はよく手放したな。たとえ拷問してでも他の力を引き出そうとしただろうに」
シリウスの口からこぼれた残酷な言葉に、背筋が冷えた。
(そっか……調べるためにひどいことされても、おかしくなかったんだ)
ユニヴェールは、ある意味では稀有だ。
普通は神聖力があっても、明かりを作り出すことはできない。
『そんな力があるなら、今日からあんたが明かりを灯す係ね』
幼いころにそう言われて以来、明かりを灯すのはユニヴェールの仕事となった。
そのためユニヴェールは、自分の力について疑問をもったことがない。
周囲も、いつしか当然になってしまったのだろう。誰もユニヴェールが稀有なんて思っていないようだった。
「大神官様がいらっしゃるので、稀有というほどではないのかもしれません」
神殿の最高位である大神官が、とてつもない神聖力をもっている。
実は百歳を超えているという噂もあるけど、どう見ても三十代半ば。凄まじい神聖力を肉体に巡らすことで若いままを維持できるとかなんとか……。
生きる奇跡と言われるほど偉大な大神官がいるおかげで、ユニヴェールの力も珍しく感じないのだろう。まして、大して役に立たない加護だ。
「この明かりだけでも、どれだけ素晴らしいと思っているんだ。魔道具のライトは照らした場所しか明るくないが、ユニヴェールの明かりは周囲どころか先まで見通せる。これが稀有じゃなくて、なんだって言うんだ」
「これだけが取り柄なので」
「防御もあるだろう? 防御について、神殿はなにか言っていなかったのか?」
「神殿に伝えてません。知られたくなかったので」
隠しておいた方がいいと判断したのは、知られたら容赦ない暴力を振るわれそうな気がしたからだ。そんなことをされたら、さすがに心が折れる。だから心にも防御を働かせた。
(それなのに、なんでシリウスには話しちゃったんだろう)
出逢って間もない人に、大きな秘密を教えてしまった。
でもこの選択は、きっと間違っていないと直感している。
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