冒険者登録しました

「冒険者登録をするには、五千メテオが必要です」


「うっ……」


 登録料に五千メテオは、安いとは言えない気がする。少なくともユニヴェールには高い。


(お肉に五千メテオは出せても、登録料に五千メテオは出せない……っ)


 ユニヴェールは、泣く泣く五千メテオを支払った。


「こちらで登録します。前に立ってください」


 受付カウンターの端に置かれた映写魔道具の前に立つ。受付嬢がキコキコと高さを調整してくれる。水晶玉のようなものを、ユニヴェールの顔の位置に合わせてくれた。


「ギルドカードに映像として登録します。まず、名前と生年月日をお願いします」


 映写魔道具が淡く光る。


「名前はユニヴェールです。神聖歴825年、3月3日生まれです」


「住所はありますか?」

「今は……ありません」


「緊急連絡先があれば、お願いします」

「ええ、と……」


 神殿、というわけにはいかないだろう。


「特になければ構いませんよ。冒険者はいろいろな事情を抱えているので、連絡先がない人も多いです。ただしそういう人は、ダンジョンで朽ちても回収されないということを、念頭に置いといてください」


 受付嬢の言葉に、背筋がひんやりとする。

 ダンジョンがそれほど危険ということ、そして自分は孤独なのだと思い知らされた。


「以上で終わりです」


 名前が刻まれた銅色のカードとタグが渡される。本物の銅ではないらしい。

 タグの紐は自分で買うようだ。いろいろとお金がかかる……と、気分が萎れた。


「新人はもれなくFランクです。依頼の難易度や達成率によってランクが上がります。ランクを上げるには、現在よりも上のランクの依頼を達成する必要があります。ただしランクが上にいけばいくほどに、上がりづらくなります」


「一番上のランクって、なんですか?」


「現在はZランクです。片手ほどもいませんけどね」


 FからAまでの六段階のあと、AA、AA、S、SS、SSSランクとあり、Zはさらに上らしい。昔はAランクが最高だったけど、次々と猛者が出てきたためにランクが増えたそうだ。


「パーティーを組んでも、メンバーと必ず一緒に戻ってくる必要はありません。依頼達成が確認できれば、報酬は発生します。報酬は独り占めにはできません。ギルドでは、パーティーメンバーと山分けの分しか支払いません。報酬の取り分については、個人同士で交渉してください」


 それもまた、仲間を見捨てないための対策に繋がっているのかもしれない。見捨ててもメリットがないからだ。


「余った素材は、向かいにある商業ギルドで引き取ってもらえます。頑張ってみてください」

「はい、頑張ります!」


 初めての身分証が誇らしい。


(さっそく、依頼を受けてみようかな)


 依頼ボードには、ランクに応じた依頼書がたくさん貼りだされている。


 多くは魔石の納品依頼でCランク以上。中には超高難易度SSSランクの依頼まであった。


 ランクに関係ない行方不明者の捜依頼もあるが、ユニヴェールに捜し出せるとは思えない。


 早く見つかることを祈るだけだ。


「Fランク、Fランク……と」


 Fランクへの依頼が見当たらない。皆無だ。Eランクからしかない。


「Eランクでマリスダケ50本採取かぁ……。マリスダケって、海に生えるっていうキノコよね。ダンジョンに海があるの?」


 神殿で育ったこともあり、ユニヴェールは世界の常識に疎い。それでも海はわかるしキノコもわかる。採取くらいならできる気がした。


 他の人にならって依頼書を手にとってみる。

 ついでに、隣に並ぶボードを見た。


(シリウスさんは……SSランク。最終到達は29階層。パーティー瑕疵率89%⁉)


 SSランクがどれほどの猛者かわからないけど、バケモノレベルに違いない。


 ちらっと背後を伺う。またシリウスと目があった。


(まだ睨んでる……ッ)


 視線ひとつで射殺せそうなほどギラギラとした目で見られているのに、目が合った途端に火がつきそうなくらい真っ赤になる。手配書……ではなく情報書を見ていたから、不愉快に感じたのかもしれない。


 慌てて視線をそらして、受付カウンターへと急いだ。



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