巨乳が眩しい……っ
「さてギルド、と」
ギルドは大通りに面していて、わかりやすい。
冒険者らしき人々が出入りしているし、看板には依頼書と剣と斧が描かれている。
開け放たれているドアから覗いてみた。
見るからに荒くれ者といった雰囲気の人々が、情報交換をしながらたむろしている。
誰もかれも武器を携えていて強そうだし、柄が悪そうだ。
(ちょっと怖い……)
でも、女性の姿もちらほら見える。
ユニヴェールがひとりで入っても違和感はないだろう。
受付カウンターへ向かう間に多くの視線が追いかけてきていることも知らず、ユニヴェールは意気揚々と受付嬢へ声をかけた。
「こんにちは。ダンジョンへ行きたいんですが、どうすればいいですか?」
制服の胸元がはち切れそうなくらい巨乳なのに童顔の受付嬢が、挨拶をくれる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。聖女様がダンジョンですか?」
「聖女じゃありません。紛らわしい服装ですみません……っ」
まず服を買うべきだったかもしれない。
「失礼しました。ダンジョンは、冒険者登録をした人ならばどなたでも入ることが可能です。ただしダンジョンは治外法権のため、なにがあっても自己責任となります」
「事件が起こっても法律で裁けない、ということですね?」
「そうです。すべて自己責任です」
「国は、なにもしてくれないんですか? 国っていうか、神殿ですけど」
神殿には法務部があるし、警備部もある。
だが、受付嬢は首を振った。
「ダンジョンに入ることを神殿が止めている、という建前があるんです。神殿は、出入り口の結界については責任を負いますが、ダンジョン自体は神殿の管轄ではありません。だから入るならば自己責任となります。ダンジョンのことで神殿が動くときは、世界の終わりを意味してます」
十七年前に起こった惨劇は、人々の記憶に新しい。
「そのためギルドでは、独自に対策をしています。定期的にダンジョンの見回りをしたり、情報を集めたりですね。怪我人には調書もとります。受注する際にパーティーの人数も登録します。帰還したときに人数が合わない場合は、ギルドカードに瑕疵と明記され、【月間ギルド】にも載ります」
カウンターに置かれた小冊子が目についた。
「ギルド内にも貼りだされますよ」
受付嬢が指をさす。壁に貼りだされた依頼ボードの隣に、指名手配のように顔写真が貼りだされていた。
「なるほど。瑕疵が多いようであれば怪しいと、注意を促せるんですね」
「そういうことです。ダンジョンの階層が深ければ強い魔物も多くなるため、瑕疵率が高くなるのも仕方ないいんですけどね。一応レッドリストは作ってます。受注する際に受付でも注意を促しますが、最終的には自己判断ですね。いま貼りだされている中でダントツに瑕疵率が高いのは、彼です」
受付嬢が目配せする。視線の先には、銀髪の男性がいた。
(ひえっ、さっきの人!?)
ユニヴェールの恩人にして、意地悪を言う人だ。
「超絶イケメンです! 冒険者一のイケメンです! 身長も高くて手足も長くて、筋肉が太いのにすっきりと見えて、実力もある凄腕です! あっちも強そうです!」
あっちって、どっち?
受付嬢が頬を染めて「おいしそう」と、じゅるりと口元を拭う。
(た、食べ物として見てるのっ!?)
可愛い顔の受付嬢に恐怖を感じた。
「でもパーティーメンバーを殺すって、有名なんですよねぇ」
もう一度、男性を見る。
黒衣に身を包み、腰に長剣を下げているのに短剣も携えている。いかにも冒険者といった風体で、荷物といえば腰に着けているポーチくらいなものだ。
(あれって、ストレージバッグ?)
ストレージバッグは有限だがたくさん収納できる優れものだ。ユニヴェールが斜めがけしているバッグと同じ機能をもっている。
ユニヴェールのバッグは、もちろん自分で購入したものではない。お見送りの参拝者から『家族がいないから』と、形見分けとしてもらったものだ。ありがたく使わせてもらっている。
銀髪のイケメンと目があった。
先ほどは気にしなかったけれど、凍てつく大地を感じさせる冷たい表情に端正な面立ち。野性的な見た目のわりに、全身からそこはかとない品性を感じる。でも鋭い目にねめつけられると恐ろしいから、慌てて視線を外す。
(怒ってる? さっき言い返したから?)
たとえ神殿の外であっても、待ち伏せする人に反応してはいけなかったようだ。
冒険者として踏み出す一歩が、泥にハマったみたいな重い気分だ。
「でも、素っ気ないんですよねぇ、シリウスさん。女なんて微塵も興味ないってくらいの冷めた顔で、プライベートではいっつも無視です。胸を押し付けてみても、冷ややかに一瞥されて終わりです」
「押し付けたんですね」
「イケメンなんで!」
悪びれない受付嬢の、巨乳が眩しい。
やや小ぶりな自分の胸に、ユニヴェールはそっと手を置いた。
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