早く町へ……!
片膝をついて感謝を告げると、ユニヴェールは足取りも軽く神殿を後にした。
「さてと、どこへ行こうかな。実家の場所も覚えてないし……」
両親の顔すらぼんやりとしている。神殿の外に頼れる知り合いもいない。お金もあまり持っていない。できれば神殿と二度と関わらりたくない。
「どうせなら、お金持ちになりたいよね」
子どものころは、黄金で造った家に住みたかった。毎日美味しいものを食べて、宝石を飾ったベッドで眠りたいし、シルクのドレスを着て過ごしたい。神の世界みたいに、美しく光り輝くような生活がしたい。
『パンがなければ米を食べればいいじゃない』とか言ってみたい。
米は砂糖よりもよほど貴重なのに、栄養もあって腹持ちもいい。
「お金持ちになったら、お米もばんばん輸入できちゃうね」
実際に黄金で家なんて造っても、手のひらサイズにしかならないだろう。それくらいはわかる年齢になった。
でも夢を見てなにがいけないの?
どうせ夢を見るなら、大きいほうがいい。
城ほど大きな家、精緻で美しい装飾品、美味しくて栄養のある食事。
掃除や食事の支度をせずとも困らない生活。
神殿では過労死するんじゃないかというくらいこき使われたから、働きたくない。
「でもわたし、あまり資金がないのよね」
朝から晩まで働いていたというのに、小遣い程度の謝儀しかもらえなかった。
宝石どころかリボンを買うのも躊躇うレベル。そもそも買い物のために町へ出ることも許されないほど仕事を押し付けられていたため、神殿内を逃げまわるので精一杯だった。
そんな抑圧された生活の反動かもしれない。贅沢がしたいし、のんびりしたい。
そのためには、金持ちになるのが絶対条件だ。
「そうだ、ダンジョンへ行こう!」
いつから存在するのか、なぜ存在するのか、誰も知らない。わかっているのは、ダンジョンには多種多様な魔物がいるということ、人々に欠かせない魔石や魔草が採れるということ、大金が稼げる場所であること。
「地上にも
甘くてとろっとしていて美味しい果実。久しぶりに食べたい。
むしろ
きっと高値がつくはず。なんといっても神の果実だ。
ふふふと、ユニヴェールの愛らしい唇から、いやらしい笑い声がもれた。
「目指せ、贅沢スローライフ!」
ユニヴェールは固く決意した。
「まずは、ギルドね」
ダンジョンに入るためには、ギルドで登録が必要となる。身分証がもらえたはず。
「お昼だし、急ごう」
近隣の町へ続く道には、白い服を着た参拝者たちが多く行き交う。
神ルミエールに対してやましさがないという心の表れとして、神殿では白色が好ましいとされた。それなのに神官や聖女の聖服は白色と青色なのが解せない。
聖服に似た私服を着ているせいで、参拝者は必ずユニヴェールに「聖女様」と声をかけてくる。ユニヴェールも手を組んで祝福を紡ぐ。
「ルミエール様のご加護がありますように」
ふわっとした球体が参拝者の頭上で弾けて、金色の粒子が降り注ぐ。
ひとり終われば、またひとり。歩いては止まり、歩いては止まるを繰り返す。
(町はすぐそこなのに、遠い……っ)
参拝者が多い。なぜなら神殿は聖地だ。
神聖国ルミエール。神の名をいただく独立国家で、ルミエールの使途が創ったとされる国。
とても小さな国だが大陸の中心にあり、四か国が隣り合っている。
大陸にはルミエールを崇める国が多いため、各国から参拝者が集まるのだ。
「ルミエール様のご加護がありますように」
早く町へ行きたい……!
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