一人から二人に
少しずつ歩いていると眠気や疲れ、空腹がでないことに気付き恐怖を感じたが、直ぐに彼女が言っていた事を思い出すと落ち着きを取り戻す。相変わらず赤い空を見ながらずーっと歩いてきたが誰にも会わない。所々に存在する廃墟に過去の生活を知りたくて入ってみたりするが、人の気配はおろか虫一匹も見ない。故に、僕は施設に入ってはまだ残っている書物を読みふけっていた。
最初は筆が進むようにする為にやった事だったが、僕は予想外の所で躓く。文字だけではそれがどういうモノなのか分からないのだ。例えば『鋏』と言う字を見た時、僕はどんなモノか見当もつかなかった。
最低限の記憶はあると聞いたが、予想よりも最低限な知識らしい。僕は本に何かを記す上での障害になる事を悟り気分も腰も落としていると、上からキラッと何かが光った鋭利なものが落ちてきた。
――鋏だ。
さっきまで分からなかったものが、その形さえ見れば思い出す。そう思った僕は荒廃した色々な施設を探索しながら、空白を埋めていった。
久しぶりに人の声を聞いたのは、目が覚めてから一年間経った頃だった。
二人の女性が目に飛び込み近づこうととするのだが、どうにも様子がおかしい。一人の女性は目が血走っていて獣に近く、二人目の女性は血走った黒髪の女性からの攻撃を受け流しながら刀で応戦している。僕はその戦いが終わるまで安全圏で見守ることにした。
数分間だろう。途中に聞こえる「べちゃ」や「ゴンっ」という音と共に、内蔵や機械の腕が飛び散った末の勝者は黒髪の女性だった。
「初めまして~。敵ですか~?」
僕は近づかずに大きな声で問いかける。
「こちらは敵対をする気はない。念のために聞くがそういう貴方は敵か?」
その言葉を聞いて僕は簡単に身を出す。
「話が通じる方が残ってよかったぁ」
「ずっと見ていたのか? ならば助けてくれても良かったじゃないか?」
ここに居る人達は皆怒りやすいのだろうか。そう思いながら戦闘が出来ない事や目覚めてからの出来事を軽く話す。
「そうか、君は目覚めて間もないのか」
彼女は一先ずは納得したので様子を見せながら対面に座り込む。
「私はエイナと言う。君の名前は?」
「……今は名前を決めている途中かな」
「そうか、珍しいな」
エイナは悲しい顔をしながら、グチャグチャになったスクラップを見ていた。
「こいつは私の妹だったんだ。でも大切なモノが無くなってな。暫くは大丈夫だったんだが自我が崩壊してね。完全に記憶があるなら大丈夫だったろうに」
僕はどんな言葉を投げかけようか迷っていたが、ただの杞憂だったようだ。エリナは大きく深呼吸をすると、立ち上がって僕を見下ろしてくる。
「拠点に案内する。いつまでも外に居たら危ないからな」
そう言って刀だけ身に着けて去るエリナに待ったをかけようとしたのだが、それが要らぬお世話と思い直すと僕も振り返らずにその場から去る。
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