階段
何時間だろうか。二人で長い階段を登っていると、僕はさっきの部屋が地下奥深くにある事に気が付いた。と言うのも、ここに来てから窓が一つもないのだ。お陰で薄暗く所々欠けている階段では何度か転んだりしていたが、何故か彼女は一度も転んだりしなかった。
「それにしても君は神に愛されているわね」
ふいに彼女が奇妙な事を口走る。
「愛されている?」
「そう言うところよ、変な苦しみを持たずに、羨ましいわ」
振り返った彼女が放った言葉には怒気がこもっていたが、僕は何も分からなかった。
「本当にいいわね。変に葛藤しなくてもいいなんて」
「なんで葛藤しないといけないの?」
「……もういいわ、取りあえず君が知っている事をいいなさい」
彼女はやっぱり表では冷静にしていた。
「日向ぼっこと、本に書かれたた様に世界は滅んでいる事と、僕は頑丈らしいくらい?」
「本当に馬鹿ね、なんで疑問に思わないのかしら」
彼女は少し悩みながら口を開いた。
「そうね、君は人間かしら?」
「うん。だって日向ぼっこして眠かったし」
僕は即答すると彼女は呆れてため息をつく。
「本当に変ねぇ、君は世界が滅んだ事は当たり前に知っているのに、自分の体の事は分からないのね。いいわ、教えてあげる」
彼女は咳払いをして僕の隣に座ると、言葉を考えながらゆっくりと話し始める。
「まず一つはこの世界に人間は居ない。正確には普通の人間は滅びた。では私達は何なのか、簡単に言えばゾンビとサイボーグの中間的なモノだよ。だから不老不死になるんだけど、ここまでは君も知っているね?」
「そうなんだ、僕は人間じゃないんだ」
「……んで、ここからが重要なのだけど、私達には元になった人物が居て、会話などの共通の知識は最低限あるけど、個人的な記憶の大部分は無くなっているの。理由としては容姿がこの体なった時の齟齬が負担になるからかしら。でも完全に無いのもダメだから少量の記憶と、生前に関係する宝物を身に付けているの、言わば弱点だわ。これが壊されたり無くしたら精神が壊れるから気を付けてね」
彼女は出来る限りふんわりとした説明を終えると階段を登るのだが、さっきと違うのは軽い会話があったくらいだろう。
ようやく出た外は記憶とは違う赤黒い空に変貌して、砂埃混じりの空気に崩れた建物が多く目に入る。僕はそれを綺麗だと思った。
「そしたら私は他の施設に行くから、またどこかでね。また逢えたらその時は君の文を読ませてね」
そう言った彼女が背中で別れを告げると僕は本を取り出す。主には今までの出来事を淡々と自由に書いては、書いた文章を読み直す。
――果たしてこれでいいのか、誰に見せればいいのか。と思うところは多々あったが、今は自分の名前を決める為に前に進めばいいだろう。
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