願いは呪縛

星多みん

少女

 吸い込まれそうな青い空。僕は空を見上げていた。はるかに高い空には飛行機が「ブーン」と轟音を響かせていた。気持ち太陽の温かさにウトウトしていると、昭和のテレビを消えた時のようにプツンと意識が途絶える。

 これが残された唯一の記憶だった。



 目が覚めた時に見た光景は知らない天井だった。目を閉じながら嫌に重たい頭を抱えると、感覚だけでベッドに座り込む。


 それにしても、ここは何処だろうか。所々剝がれたタイルに、不規則に置かれている簡易ベッド。全体的にくすんだ白い壁と扉に、一定の感覚で明滅している電球。長年放置された独特なかび臭さに、僕の背中は背中がひんやりとしていると、背後の扉から甲高い音が聞こえる。


「やっと目覚めたのね」


 僕が目を向けると、そこには白髪で華奢な少女が立っていた。


「君は何処まで覚えているのかしら」

 そう言いながら近づく彼女の胸元には、木彫りの刀のペンダントが見え隠れしていた。

「それってどういう意味ですか?」

「そのままの意味よ。ってより、君はやけに冷静ね」

「頭痛がね……」

「そっか、別に覚えてなくてもいいのだけれどね」


 彼女は平坦な声でそう言うと、僕は何処から責められているように感じていた。


「そうですね、僕は日向ぼっこしていたくらいです」

「……そうなのね。ところで君の宝物は?」


 長い沈黙のあとの彼女は質問を僕が分からずにいると、呆れたため息をつきながら僕の体に手を差し伸べた。その手は足から腰、そして胸に手が伸びてくると、僕は自動的に手を払って胸ポケットにある固い何かを守ろうと手で覆いながら困惑していた。


「そこにあるのね。私は離れて奥から見せてよ」


 僕はそう言った彼女が部屋の隅に座り込んだのを確認すると、胸ポケットに入っているモノを取り出した。それは表紙に『貴方の小説』と書かれた一冊の本に、丁度いい重さのペンが挟まっているものだった。


「開いて見れば?」


 彼女は目を細めながらそう言うと、僕もそれに従う。


『今から崩壊した世界で小説を書いてほしい。特に書くことについての拘りはない。好きなことを書いてくれ。だが、出来る限り本能に従って行動して危険な道を渡って経験を積むといい。大丈夫、君も他の登場人物も死なないから――前日談の願いより』


 それ以降の頁は白紙であることを確認すると、書いてある所を可能な限り読み上げて続けて口を開いた。


「なんか僕の宝物は意味が分からないですね」

「それより君は世界が滅んだ事とか違和感とか無いの?」

「特には…… なんでだろ」

「まぁ、いいわ。取りあえずソレは肌身離さず持っておいて、私らにとって宝物だからね」

「ちなみに無くしたら?」


 僕は恐る恐る質問するが、彼女は不気味な笑みを浮かべて部屋を出るので、僕もそれに付いていく。

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