第三話 【和食!洋食!恋の味!】

身体が熱い


これはただ気温が温かくなったからの理由ではない


何時間が経つのだろう


もうそんな事を考える余裕もなくなってきた


汗が頬を伝う


零れ落ちた雫は響く事もなくただただ床へと大きな水溜りを形成していた


振り続ける右手がいつ動かなくなるか…


「はっ………はっ…………」


呼吸が荒い


それは何も私だけの話ではない


「ぜぇ………はぁ………」


私と対面する相手も同じだった


その相手とは…


「麗ぃぃ……いい加減終わらせようじゃないか……」


「お父様こそ……潔く負けを認めてください……」


午前7:00を告げる時計の音が屋敷に響く…事はなかった


それ以上の音が今ここで発生しているからだ


「何時間経ったんですか…あれ…」


「昨晩の22時からだから…9時間だ」


この9時間という膨大な時間


私は一睡もしていない


それはお父様も同じだった


何故なら今私達は互いの言い分を決める為の穏便な手段として卓球に興じているからだ


「ワニなんか屋敷内で飼える訳ないだろう!えぇ!?」


「しっかりと許可さえ取れば飼えます!お父様だってご存知でしょう!?」


「私の寝床に勝手に入るワニなんぞ置いておけるか!!抱き枕だと思って抱いたら危うく食われかけたぞ!!」


「いい加減抱き枕離れしたらどうですか!?ギャップ萌えですか!?萌えキャラでも目指してるんですか!?」


「黙れ黙れ!!私は抱き枕がないと寝れないんだ!!」


「私欲の為に娘の動物愛護の邪魔をしないでください!!」


「食用目的で飼うならそれも私欲だろうがぁぁぁあ!!!」


……と,先日私が溺愛していたザリガニが見事にピラニアに食い荒らされた為ピラニアには対価を償わせた


そして再び池には静寂が戻り何とも寂しい光景だった


その為今度はワニの飼育を試みたらそれをお父様に真っ向から否定された…という訳だ


ペットを飼うのは心の成長にも影響する


当然認められるべき事だ


それなのにお父様は頑固にそれを拒絶してくる


こうなったら私だって一歩も引かない


互いに刀を持ち出して一触即発の状況を部下に止められて決着はこうして卓球でつける事となったのはいいけれどこんな長丁場になるとは予想もしてなかった


「もう歳なんですから無理しないでくださ……あ…」


こんな長い時間ラケットを振っていたんだ


寧ろよくここまで持ったと思う


繰り返し返される玉を返そうとした最中


ラケットは私の手を離れた


離れたラケットは勢いよくお父様の顔面に飛んでいきそのままお父様を吹き飛ばした


「……………」


その様子に愕然とする部下と私


「……勝ったわ」


「いえ,ルール違反です,お嬢」


当然対戦者に危害を加えるのは御法度だ


それが許されているなら何故卓球に銃を使わないのだろうとなってしまう


悔しいけれど今回は私の負けを認めるしかない


「……麗…お前の気持ちは分かった…私の自室に立ち入らせないのなら許可してやろう…」


「本当ですか?お父様!」


「男に二言は無い…あ"?」


「ワニ太郎!?」


どうやらお腹を空かせていたのだろう


大口を開けてそのままお父様の口目掛けて噛みつこうとしている


「うぉぉぉぉぉぉお!!!やっぱり前言撤回だぁぁぁぁぁ!!!!」


「あ……もうこんな時間…それでは男に二言は無い様ですから私は学校へ行ってきます!」


「待て麗!待つんだ!!こいつをどうにかしろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


何はともあれお父様からの許可は得たので私は学園へと登校する


とは言え一睡もしていなかったから眠気が酷い


歩いててもフラフラしてるのが自分でも分かるし視界がぼやけている


何より陽の光がいつも以上に眩しい


「おはよう麗さん……って何それ…」


「お早う…何って……?」


「いえその……今日は狐の耳じゃなくて鹿のツノなんだなぁって…」


「あ…間違えちゃった」


私の通う学園


黒神学園は私立の高校だ


ある程度服装やお洒落も自由が認められている


そして普段私が付けている眼帯と耳はそのお洒落の一環だ


たまにこうして別の物を付けたりしてるのだけれど今日はたまたま鹿のツノだったらしい


「おっはー!わっ!鹿だ!鹿せんべい持ってこなきゃ!」


「あれそんなに美味しくないわよ」


「食べたんだ…」


「何年か前に鹿と奪い合ってね」


かつて奈良に行った時に食べようと思って買った鹿せんべいを鹿に奪われた事がある


それを黙って見ている訳にもいかずに鹿と奪い合って管理人の人に怒られたのは今となっては良い思い出だ


「それにしても…麗さんもしかして寝不足?クマが凄いわよ?」


「えぇ…ちょっと卓球に熱が入ってね…」


「相変わらず楽しそうね〜」


足元がおぼつかない


ふと空を見上げると先ほどまでは青空が広がっていたのに何重にも虹がかかっていた


それだけではない


無数の流れ星が昼間だと言うのに流れ落ちていた


そして一際大きな流れ星が私達の目の前へと落ちてくる


しかし衝撃と呼べるものは一切無かった


こんな事はおかしいし普通じゃない


流れ星が落ちた場所から何かが出てくる


それは紛れもなく人の形をしていた


目は無く口はかろうじて確認出来る


それよりも実体が不安定だ


まるで霧の様にゆらゆらと揺れている


目は無いのにその実体は私をしっかりと見つめていた


そして口を開いた


『叶えたい夢はあるか?』


突拍子もない事だった


叶えたい夢があるか…だって?


「……さん……い………」


叶えたい夢…


ふと考えてみると私は幾つかの夢がある


それは個人的なものやそれ以外のものまで


子供じみた夢ではあるのだがやはり一番の夢


夢というより実現したい事


平和な世界


突き詰めればこれに辿り着く


「麗…………ん……!」


そう…もう六年前のあの大厄災の様な惨劇は繰り返したくない


その為に私は日々尽力している


誰もが平穏に暮らしたいと思っている筈だ


私もそうだ


「私の叶えたい夢はーーー。」


「麗さん!!起きてください!!」


「んぴゃぁ!?」


気がつくとここは教室だった


どうやら私は机に突っ伏したまま寝ていたらしい


どうりで…変な夢を見ていた気がする


「本当に寝不足なのね…」


「いつの間にか寝てしまってたのね…」


「あ…そうそう!昨日のこれ見たー?」


「昨日の……?」


「これこれ!隕石か流れ星か!一瞬で消えた空からの謎の贈り物!」


動画に映し出されていたのはどうやら昨晩の出来事らしい


流星だろうか


大きな光と共に地上へ向かって落ちてくる


そして一瞬の内に消えるというもの


「ね?凄いでしょこれ!」


「途中で燃え尽きたんじゃないかしら?」


「専門家も分からないそうですよ,あれだけの質量の物体が急に消えるのは理論上あり得ない事らしくて…けどどこかに落下した形跡も無いんです」


「あーでもあんな大きな流れ星だったら願い事すれば叶ったかも!」


「どうせお腹いっぱいタピオカ飲みたいとかでしょ?」


流れ星か…


確かにあれだけ大きな流星が突然消えるのは不思議な光景だ


専門家からすると不可解な現象とは言うけれど実際に落下した形跡がないのなら燃え尽きてしまったんだろう


理論上あり得ない事でも今のこの世界では数えたらキリが無いくらい溢れているのだから


「よーしお前ら全員席につけー,朝のホームルームの始まりだぞー盛大に拍手ー」


何も変わらない日常


朝のホームルームが始まり…授業を受けて…放課後は部活動に精を出す


家に帰れば汗を流して夜のご飯に舌鼓を打ち布団の中で一日を終える


それが日常だ


そんな日常がふとした拍子に壊される


この時私は思いもしなかった


本来なら終わる筈の一日が終わらない非日常を体験する事になるなんて…


「あ…そうそう!昨日のこれ見たー?」


「………え?」


「これこれ!隕石か流れ星か!一瞬で消えた空からの謎の贈り物!」


「ね?凄いでしょこれ!」


「専門家も分からないそうですよ,あれだけの質量の物体が急に消えるのは理論上あり得ない事らしくて…けどどこかに落下した形跡も無いんです」


「……………」


違和感


そう,これがおかしい


私は今のやり取りを全て記憶していた


いや…体験していた


同じ会話が繰り返されているだけではない


授業も,それどころか休み時間の他の生徒がどう過ごすかも全てを記憶し,把握していた


(これは……夢…?)


通常ではこの様な事はあり得ない事だ


デジャヴにしては記憶が鮮明過ぎている


体験した事がある様なではなく体験した事


まるで私だけが取り残された様に他の人は変わらずにこの日常を過ごしている


違う話題を持ち出したところでそれは些細な変化を生むだけで何も変わらなかった


不可解な現象


それを私はかつて経験した事がある


怪現象


怪異が引き起こしたもの,もしくはごく自然的に発生した異常な現象


今まさに私が体験しているのがそれに該当する


「お疲れ様です,隊長」


『麗さん…?この時間は学校では….』


「えぇ…その通りです,今は何かを?」


『先日の斑目出現の報告書を纏めているところで…何かありましたか?』


「恐らくですけど…今学園にて怪現象が発生しているものと考えられます…私は今日の起こった出来事を鮮明に記憶しています,その記憶と同じ事が繰り返しているんです,恐らくは時間がループしている現象かと…」


『今日の出来事が…?時間のループ…?けど私にはそんな違和感は感じられません,学園で怪現象が発生しているのなら他にも同様に違和感を感じる生徒がいてもおかしくはないと思います,それにおかしな反応はこちらでは確認されていません…ましてや時間のループが発生しているのなら怪現象の影響を受けない人…つまりはその学園以外の人間にまで影響が出て私達がその事態を認識出来ていないとするなら範囲は学園に留まりません,それ程の怪現象が発生したのなら何かしらの異常を探知出来る筈です』


「確かにその通りです…しかし…!」


『麗さん,こちらでもすぐに異常が無いかの再確認をしてみます,少し時間をいただけますか?』


「…分かりました」


暫くして再び連絡を受ける


霊力等の異常は見られず問題は見つからない…という事だった


どういう事だ?


確かに怪現象が発生しているのなら何かしらの異常は察知出来るはず


それに何故私だけがこの怪現象に気が付けたのか


霊力の有無ならば他の隊員だって同じく気が付ける筈


まず霊力の有無は関係無い


次に考えられるとすれば私だけという事から学園内にいるから…と考えるのが妥当だ


しかし仮にも怪現象ならばその範囲は存在する筈


学園から八咫烏本部まではかなりの距離がある


それら一帯を取り巻く怪現象という事だろうか?


それなら尚更異常が見つからない事自体が不自然だ


何かを見落としている…?


他にも何かーーー


「あ…そうそう!昨日のこれ見たー?」


「これこれ!隕石か流れ星か!一瞬で消えた空からの謎の贈り物!」


「ね?凄いでしょこれ!」


「専門家も分からないそうですよ,あれだけの質量の物体が急に消えるのは理論上あり得ない事らしくて…けどどこかに落下した形跡も無いんです」


まただ


再び時間のループが起こり私はこの時間に戻ってきてしまった


疑惑は完全に確信へと変わる


これは時間ループを引き起こす怪現象だ


特定の時間…朝のホームルームが始まる前に戻される


今私がこの時間へと戻される前は時刻は12:00だった


恐らくは12:00になった時点でこのループ現象は発生するものと思われる


しかし分かった事といえばこれだけだ


何が原因で時間のループが起こっているのか


何故私だけがループする時間の中でループする前の記憶を持っているのか


分からない事が多い


こうして学園内に原因を探そうと躍起になっても何も見つからない


それどころかこれ程の怪現象が起こっているのなら必ず霊力等の異常は感じる筈なのに私には何も感じない


いくら学園で起こった怪現象とはいえ私一人では解決は出来ないだろう


そもそも私はこういった怪現象の専門ではなく専ら戦闘が本分だ


『麗さん…?この時間は学校では…』


「今は学園です,そして隊長が今先日の斑目出現の報告書を纏めているのも知っています」


『え…どうして知って…?』


「結論から言います,現在学園…いえ,更に広範囲かも知れませんが特定の時間がループするという怪現象が起こっています,隊長が報告書を纏めているのも時間がループする前に隊長が話していたから知っていたんです」


『…なるほど…しかし…』


「時間があまりありません,何故時間のループが発生して私が記憶を持っているのかは二の次です,至急学園に来てください」


『…分かりました,私の他にも何人か対応に向かいます』


何も私一人で解決しなくてもいい


こういう時は仲間を頼る


私は別に名声が欲しいわけでも実力を認められたい訳でもない


今は何よりもこの怪現象の解決が優先だ


学園前に車輌が到着する


現在時刻は11:30


時間はあまり残されていない


しかしその残された時間でも原因を探す事は可能だ


例え時間がループしたとしても私が覚えてさえいれば継続して原因の捜索を行える


少しずつでもそれで解決が出来れば…


「あ…そうそう!昨日のこれ見たー?」


「……!?」


また時間がループした…?


さっきまでの時刻は11:30


その前は12:00だった


時間がループするまでが短くなっている…?


そうであるとするならその間隔がどんどんと短くなっていき最終的にはどうなる…?


何も出来なくなる…と考えるのが妥当だろう


非常にまずい状況だ


これでは本部へ応援要請をしたとしても時間が足りない


悲観している時間もない


考えろ


最悪の事態を避ける為には私が今何をすべきか…


まずは動く


判明している事は時間のループ,私の記憶が残る事,そして間隔が短くなっている事


私の記憶が残る要因についてはやはりいくら考えても私がこの学園にいるからと考える事にする


他の可能性を考えていては到底時間が足りない


例え的外れな考えであっても何もしないよりはマシだ


「天泣!」


『おうおうお早いお帰りで』


「話してる時間はないわ,この学園内の霊力探索をして」


『おいおい…刀使いが荒いんじゃないか?』


「お嬢さん,探すよりもほれ,この学園に通う生徒で霊力を備えていると思われる生徒のリストじゃ,数は多くはないが…」


「ありがとう時雨さん」


『なら俺は休ませて貰おうかな』


「だめ,生徒はこのリストで判明するけどまだ学園内に怪異がいる可能性がある,しっかりと探して」


リストと言っても多くはない


書かれているのは三名だけだ


万が一にもその三名の名前を頭に叩き込んでおく


何故なら怪現象を起こしているのが怪異ではなくこの学園の生徒だった場合に備えて…だ


とはいえその可能性は極めて低いが…


『…怪異の気配はしねぇな,一体どうしたんだ麗』


「私は同じ今日を繰り返してる,この事を分かっているのは私だけ,私がなんとかしないと…」


『って言っても怪異はいねぇぜ?学園の生徒がそれを起こしてるんなら俺が分からない訳がない,まっ…それも俺以上の力を持ってたら分からねぇけどなぁ?』


「…どういう意味?」


『世界にゃ霊力を隠せる奴だっている,そして意図的に霊力を隠すって事は相当賢いって事だ,気付かれずに潜伏して人を襲う時に力を解放する,と言ってもいくら隠したとしても必ず痕跡ってのは残る,けどその痕跡を残した主が俺よりも強かったら見つける事すら出来ないってな』


「……つまり天泣,この学園には怪異はいなくて生徒が起こしていた場合は貴方よりも強いって事ね?」


『おう,つまりは俺を使ってもお前じゃ勝てねぇな,麗』


「どうしろってのよ……」


『寝てみたらいいんじゃねぇか?案外夢かも知れねぇぜ?』


「ふざけた事言わないでッ!!」


「まぁまぁお嬢さん,いつもは冷静なのに今はまるで獣の様じゃ,そんな状態では探しものを見つける事も出来んぞ?」


「時雨さん……」


「落ち着きを取り戻す,今のお嬢さんはまるで追いかけられて逃げる事だけしか考えられない人と同じじゃ,ただ闇雲に逃げても捕まるだけ…今一度落ち着き,考え直すのも必要じゃな」


「……ありがとう,時雨さん」


そうだ


私は今冷静ではない


最悪な事態になったらと焦りを感じている


落ち着く…


そう,今この事態を解決出来るのは私しかいない


屋上へと訪れる


ここは滅多に人は訪れない


そもそも生徒は立ち入り禁止なので入る事も駄目ではあるのだけど…


生徒が来ないという事を利用して先程も本部へと連絡を取る際には屋上へと訪れていた


今は授業中の時間


間違ってもここへ生徒が来る事もない


私はもう一度考え直す


学園内には怪異の存在はいない


もしくはいたとしても天泣よりも力が上の存在


状況は変わらない


だがやる事は決まった


怪現象の発生源を明らかにする


この怪現象を起こしているのが怪異にしろ生徒にしろ私が霊力を強く放出すればそれに気がつく筈


そうすれば向こうが何かしらの動きを見せる筈だ


「……ッ!!!」


扉が突然開かれる


この場所に誰かが…!?


「ほら誰もいないでしょ?」


「授業サボってまで連れて来るのは驚いたけど…確かに屋上は良い景色だね」


「……………」


あれは…二年生?


何故こんな場所に…


いや違う


女子生徒の方は見覚えがある


それもつい最近だ


そう…先程時雨さんに貰ったリストで


神宮寺 叶


そして何故私はこの二人がここへ来る事を知らなかったのか


時間がループする前の記憶は私には残る


この時間帯


ここへは誰も来ない


ループする時間の中で違う行動をしているという事は…


「ごめんなさいね,お二人の邪魔をして」


「誰!?」


「私は三年生の霧雨 麗,まぁ…貴女達と同じでサボりに入るのかしら…叶さん…でよかったわよね?」


「え……えぇ…そうだけど…」


「一つ聞かせて貰えないかしら,一体今日を何回繰り返したのかしら?」


「ツッ!!!!」


「どういう訳か私も記憶が残っているの,そしてーーー」


「あ…そうそう!昨日のこれ見たー?」


「…………」


何度目かのこの場面


また戻された


けれどこれで間違いない


この一連の時間ループを発生させているのは神宮寺 叶だ


妙な話だが彼女からは強い霊力は確認出来なかった


そこでもう一度整理する


時間がループするという怪現象を引き起こしているのは二年生である神宮寺 叶であると断定


先程私が接触してそれに関係する事を話した瞬間に時間ループが発生


この事から時間をループするタイミングは彼女がコントロール出来るだろうと推測が出来る


強い霊力を必要としない術式によるものか


もしくは術式を発現させたから霊力が低下したのか


どちらにせよ既に怪現象は起こっている以上は彼女が何かを行ったと考える事にする


その何かを見つける事が出来れば,もしくは彼女自身に解かせる事が出来れば…


そう思い私は彼女の説得を試みた


どんな理由があるにせよこの様な怪現象を引き起こしたとなれば見過ごす訳にはいかない


しかし彼女は私から逃げる様に再び時間をループさせ始めた


次第に私は声をかける事すら出来なくなっていった


これでは説得も出来ない


…しかし最後の手段は私としても避けたい


倫理的にも考えてだ


更に術者である彼女をどうこうしたところでこの怪現象が必ずしも解除されるとも限らない


だけどまだ時間はある


それは時間がループするタイミングを彼女自身がコントロールしているからだ


12:00に時間がループする事もあれば15:00にループする事だってある


少なくとも時間がループする間隔が短くなっていき行動すら出来なくなるという危惧はなくなった


そう,もう一度考え直す


今の私はただひたすらに物事を解決しようとしているだけに過ぎない


RPG的な言い方をするのならガンガンいこうぜと言ったところだ


普段私はゲームには疎いが知り合いはよくゲームをしている


強敵と出会った時にどうするか


まず敵を知る事だ


彼女の他にもう一人


常に一緒に行動していた生徒がいた


綾瀬川 守


彼も二年生の生徒


何故彼が一緒にいるのか


私はそこに焦点を当てた


そしてこの時間がループする中で私は彼がどの様な人間なのかを知る事が出来た


幾度となく繰り返すこの時間ループ


それに終止符を打つべく私は待っていた


「綾瀬川 守,貴女の目的である彼はまだここには来ないわ」


「ツッ!!!!」


「私はただ話がしたいだけ,そうしたらもう時間がループしようとも貴女には関わらないと約束する,だから一度だけ私の話を聞いてもらいたいの」


「……………」


「叶さん,貴女は彼に好意を抱いている…違う?」


「……!どうして…」


「私だって貴女と同じ学生だもの,気持ちは分かるわ…貴女が今この時間に執着してる理由もね」


「……………」


「貴女は自身の想いを彼に伝えた…けれどそれが実る事はなく,友達としての関係も崩れ去ってしまった…そうよね?」


「……そうよ…私は彼が好きだった…けれどあの日…今日この日…その全てが一瞬にして壊れてしまった…だから私は願った…彼とまた友達の関係に戻りたいと…ッ!」


「なるほどね…貴女の事は分かった…けれど貴女は彼の事を知っているのかしら?」


「彼の事を……?」


「そうよ,何故彼が貴女の想いを受け取らなかったのか…考えた事はない?」


「そんな事…私の事が好きじゃないからで…」


「そうかしら?それならおかしいわね,貴女はこのループする時間の中で常に彼と一緒にいた,貴女の事が好きじゃなければわざわざ授業を抜け出しても来ないでしょ?それに貴女が一番分かっているんじゃないかしら,彼が貴女に対してどんな想いを持っているかも」


「……………」


「叶さん!良かった…攫われたって手紙が…」


「手紙……?」


「うん…紙飛行機が僕の机に飛んできて…心配だったから校内を探し回って…でも良かった…無事で…」


「そんな…私……だって………」


「え…泣いてるの……?一体なんで……」


「だって…私……好きなのに……どうしてこんな……なんで………」


「……………」


「私……嫌だよ……嫌だ………好きだよ………守………」


「……………」


「応えてあげたらどうかしら?はっきりと,全てを隠さずに…ね」


「叶さん……僕だって好きです……けど……僕はその想いに応える事が…いや…応えたい……だけど…」


「だけど……?」


「…ごめん…僕来月転校するんだ…親の都合で……だから今叶さんの想いに応えても…」


「馬鹿!!それでもいいのに…なんで…なんで言ってくれなかったのよ…馬鹿!!!!」


彼が彼女の告白を断った理由


それは自分が転校する事が決まっていたからだった


悲しませない様に自ら距離をおく…という考えだったのだろう


だがそれで伝わらないのは物語や現実も同様だ


結果的に彼女は自分が嫌われたものと思い込んでしまいこの怪現象が発生してしまった


《あの人と…ずっと一緒にいたい》


きっとそんな願いが偶然怪現象として形を成してしまったのだろう


それなら彼女の心の迷いを断ち切る事で解消される筈


その考えは当たっていた


あれから私は家へと帰り,再び朝を迎える事が出来た


当然の様に時間が動く事がこれほど安心するものなのかと改めて思う


繰り返される一日


例えそれが幸せな一日だとしてもその一日の中だけでは生きてはいけないだろう


時には辛い事もある,だがそれを乗り越えてこそ人間の本来の姿であると私は思う


ただそこで立ち止まってしまえばいずれは自分の足で進む事だって出来なくなってしまうだろう


そうなってしまえば自分がどこにいるのかすらも分からなくなってしまう


ある意味それは死ぬよりも怖いことである


歩き続けていれば必ず自分の最も幸せな時へと辿り着ける筈だ


「……以上が今回の怪現象の報告になります」


「ありがとう麗さん…それにしても…」


「…何か?」


「今回の怪現象を一人で解決してしまう事には驚いたけれど学園の生徒が怪現象を引き起こした…という部分が引っかかってしまって…」


「私も同感です,ましてや今回の規模を考えると絶大な霊力を持っている…と思ったんですがやはり私の方で調べてみても神宮寺 叶には霊力と思わしき力は見つかっておりません」


「怪現象を発生させて霊力を失った…としか言えないわね…」


「もしくは他の存在が今回の怪現象を引き起こしていたか…どちらにせよ神宮寺 叶はこれから監視を付けた方がいいかも知れません,神祇省に人員派遣の要請を…」


「そうですね…私の方から伝えておきまふ…」


「…もしかして隊長疲れてますか?」


「えぇ…報告書を纏めていて少し…」


「それなら甘い物を食べるといいですよ,これ作ったんです,お手製のチョコレートですが…」


「ありがとう麗さん,喜んでちょうだいする……わ?」


「どうかしましたか?」


「えっと……麗さん?チョコから何か出て……このチョコ何が入ってるの…?」


「バッタを砕いたものを入れました,パフみたいな食感になって美味しいですよ」


「……………」


「疲労には甘い物ですよ!是非!」


「えっと……ありがとう…もう少し作業してからいただ」


「あれあれあれぇ〜?たいちょーたいちょー,せっかく後輩が作ってきてくれたんですよ〜?食べて感想を伝えてあげないとじゃないとです〜?」


「その方が作ってくれた本人も喜ぶんじゃないかしらね〜?」


「ちょっと!?貴女達!」


「お疲れ様です凛さん,ネプチューンさん,あ!配るつもりで幾つか作ってきたのでどうぞ!」


「「え!?」」


どうやら私が作ったチョコレートは好評の様であまりの美味しさに皆が涙を流していたのは嬉しかった


それどころかこんなに美味しい物を独り占めするのは良くない!と他の隊員にまで配りに行ってくれた


普段はあまりお菓子とかは作らないんだけどこれほど好評だったんだ


また今度別のお菓子を作ってみてもいいのかな?






































































































































「消失した流星…まさか……ね」


-To be continued-

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