第二話 【常人!狂人!先手必勝!】


それは人によって別れの季節や出会いの季節と様々な認識があるだろう


私にとってはそう…生命の息吹く季節かしら


長い冬を超え,気候も暖かくなり様々な生命が動き始める季節,それが春


「おかしいわね…あんなにたくさんいたのに……」


そんな春も中頃の時期


私はとある怪異的な現象に遭遇していた


それは屋敷の池の一つ


かつては立派な錦鯉が優雅に泳いでいたけれど今となっては全て私のお腹に収まってしまった


その後は何もいない池も寂しいと思い,どうせなら食糧にもなるだろうとアメリカザリガニを養殖していた筈だった


それがどうしてだろうか


今は一匹もいない


これは異常だ


あれだけ生命力の強い生物であるアメリカザリガニ


現在でも特定外来生物として日本の生態系を荒らしている生物だ


一体どこに消えてしまったのか…


「お嬢どうしましたか?」


「あぁ…池にいたザリガニが一匹も見えなくてね…もしかしたら怪異の仕業によるものかもしれないわ…」


「いえ,恐らくお嬢が先日飼育目的でお買いになったピラニアの所為でしょう」


「あれは別の池に分けておいた筈でしょう?」


「えぇ…生き残っていた錦鯉が見事に食い荒らされまして先代が全てのピラニアをこの池にと…」


咥えていたバッタの素揚げを池に落としてみる


するとどうだろう


先程まで気配もなかったのにバシャバシャと夥しい数のピラニアがバッタへと群がった


うん,確かにこれは私が先日食用目的で仕入れたピラニアに間違いない


「お父様ぁぁぁぁぁあ!!何故私のザリガニ養殖用の池にピラニアを放ったんですか!!」


「錦鯉を食い荒らしたからだ」


「ザリガニだって必死に生きてたんです…それなのに一匹も残っていなくて…どうしてこの様な…」


「錦鯉を食い荒らしたからだ」


「これでも大切に育てていたんですよ!言葉は通じないけど心で繋がっていた…謂わば家族の様な関係になっていたんです…それがどうして…」


「錦鯉を食い荒らしたからだ」


「こんな外道のやる様な事をお父様がするなんて私見損ないました!何故です!!!」


「錦鯉を!!食い荒らしたからだッ!!!」


「ザリガニ達の仇ぃぃいいい!!!」


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「……朝から元気ですねお嬢と先代は…」


「それに慣れてしまってる我々も末期だなって感じますよ」


あぁ……あの子達は家族同然だった…


けれどもうあの子達はいない


ピラニアに平和な暮らしを奪われてしまったのだ


私は貴方達の仇を取りたかった


しかし私は無力だ


年老いたとは言え流石は先代の会長,そして私のお父様


私のする事を常に先読みしていた


ごめんなさい


貴方達の仇を討てそうにない


何故なら私は天井に突き刺さっている


お父様のお仕置き殺法その一


他界他界


身体を持ち上げて思いっきり上へと放り投げる


シンプルだけどこれが中々に効く


「まったく…今日は例の行事があるんだろう?その辺りはどうなんだ?麗」


「…しっかりと鍛錬していますよ」


「聞こえないぞ,もっと大きな声で話してくれないか?」


「鍛錬はしてますよ!」


「聞こえないと言ってるだろう,全く天井に突き刺さって遊んでるんじゃない」


いやお父様がそうなさったんでしょう…


朝からとんでもない一日の始まりだ


普段の朝なら縁側に座って優雅な朝を過ごしているはずだ


心地良い陽の光と風を感じ


点てたばかりのお茶を飲みながら揚げたバッタをいただく


誰でもやっている事だ


どうやら今日はそれどころではないらしい


「おはよう麗さん,今日は追われていないのね」


「えぇ…お父様から直々にお仕置きされたからね…」


「あぁ…だから頭に木片刺さってるんだ…」


「芋けんぴ付けてるよりはマシじゃない〜?」


「そんな少女マンガじゃないんだから…」


木片突き刺したまま登校する私もそうだが髪に芋けんぴがくっ付くなんて一体どんな生活をしているのだろうと疑問に思う


「そういえば今日だっけ…例の行事」


「そうね,今日だったはず…」


「うちのクラスからも代表者出てるよね〜,麗さんでしょ〜?」


「えぇ,負けない様にしないとね」


「それにしてもさ〜…学園長も物好きだよね〜」


当然ながら学園には行事が付き物だ


音楽祭や学園祭,修学旅行等その種類は様々だ


そんな行事の一つが今日行われる


年に一度開催される今日の行事は学園行事の中でも極めて異質な物の一つに数えられる


「おーし出席は面倒だからいない奴は死んだ奴として数えるぞー,と言っても我がクラスは滅多な事じゃ欠席もしない優秀な生徒共で先生嬉しいぞー」


「先生ー死んだ人が後日やってきたらどうしますかー?」


「そん時はしっかりと埋めてやれー」


と…まぁ私の担任がおかしいのはいつもの事だとして…


「おし,今日は何の日か全員知ってるよなー?新入生が入ってからもう二ヶ月が経ったなー?お前らも覚えてるだろー?今日は学園長の気まぐれでこの学園に古くから伝統として残ってる行事の日だぞー,じゃあ麗,言ってみろ」


「はい…今日はこの学園の大きな行事の一つである体育祭の最終進化系…戦闘祭の日です」


戦闘祭


それはこの学園で新入生が最初に洗礼を受ける行事だ


一年生と三年生は各クラス毎に代表者が選抜されペアを組む


そして二年生は各クラスの代表二名がペアを組む


そして放課後まで三年生は一年生を守りながら行事終了の時間を待つ…というものだ


しかしそれだけなら戦闘祭などという野蛮な名前は付けられない


「うちのクラスからは麗だったな,バイザーとコアを支給するぞー」


支給されたバイザーとコアを装着する


これは所謂ゲームの様なものでバイザーには現在時刻と生存者数,そして自分のライフが表示されている


更にこのバイザーにはもう一つの機能がある


武器は学園内のあらゆるところに隠されている


しかし当然本物の武器が置かれている訳ではない


このバイザーにはARの技術が使われており,武器は主にスポンジ等の危害の無い物質で作られているがこれをバイザーを通して見るとまるで本物の様に姿を変える


科学の力ってすげーという台詞がまさにピッタリだ


そしてこのコアは攻撃を受けると微弱な電気を流しより戦闘を本格化させる目的で採用されている


纏めると私は今日一日,下級生とペアを組み守りながら二年生の代表者から逃げる,もしくは戦闘不能にしなければならない


これが戦闘祭だ


「今年の二年生は凄いぞー?オタクが多いからかそういうの得意な生徒が多くてなー,先生行事だからって負けるのは嫌だからなー?去年二年生で大暴れした麗を選抜したのもその理由からだぞー?いいかー?負けたら帰ってくる教室ないと思えよー」


私の担任は負けず嫌いだ


何かと行事になると勝ちたがる


けれどそれは私も同じだ


やるからには勝ちたい


…まぁそのおかげで去年は暴れ過ぎた訳だけども…


今年は違う


守るべき対象である一年生が倒されてしまえばライフが残っていてもその時点で脱落となる


一年生はこの学園に慣れる為


二年生は戦略をたててターゲットを狙う事を


三年生は対象を守りながら如何にして立ち回るかを


生徒の成長の為…という事になっている


しかし先程は体育祭の最終進化系とは言ったがこの学園には通常の体育祭もある


では何故戦闘祭が行われているのか


生徒はその理由を知らされていないが選抜される生徒はいずれも身体能力が高い傾向にある


また近年では世界情勢悪化も加速してる背景からかいつどこで事件が起こり,戦闘という非日常的な場面に出くわすかも分からない


その為戦闘祭の真の目的は戦闘という行為に慣れる事によって万が一の状況に陥った際に身体を動かせる様になるという自衛能力の向上を目的とした学園行事だ


「さて……私のパートナーは…」


先ずは一年生と合流する


私の合流場所は体育館の様だ


「貴方が私のパートナーね?私は霧雨 麗今日は…ツッ!!」


「ちっ……外したか…」


待ち合わせ場所にいるのは一年生とは限らない


「待ち伏せ…まさか一年生は…!」


「いーや,どうやらあんたの相方はここには来てないみたいだな,ツイてたな,ここに一年が来てたらもう倒してた」


まずい状況だ


相手は武器を持っていてこちらは丸腰


そしてルールでは丸腰の状態では攻撃を仕掛けてはいけない


「ははーん?仕掛けて来ないって事はまだ武器無しか,チャンス!」


こちらが武器を持っていない事を察すると攻撃が激しくなっていく


幸いにも足はこちらの方が速い


避けながら武器を探す


「これは…ワイヤー?こんなものでどうしろって…」


果たしてこれは武器と呼べるのだろうか


用意されている武器は様々でアタリもあればハズレもあるという事


まだ開始五分と経っていないのに生存者数を見ると既に四名の脱落者が出ている


今年の二年生は手強いようだ


体育館から校内へ


廊下は直線が多い,教室に隠れたところでそこまで距離を離せている訳でもない


密室に追い詰められてしまえば更に不利になる


「昨年暴れていた先輩ともあろう人が逃げるしか出来ない!先輩を倒して名誉を得るのは俺だ!!」


どうやら昨年の行いで私は相当恨みを買っているらしい


それもそうだろう


偶然にも去年私が手にした武器は刀


後は言わなくても分かるだろう


「……!!」


廊下の角を曲がる


当然相手もその後を追ってくる


今だ


「うぉっ!?」


私を追う事だけに専念し過ぎて足元への警戒が疎かだった


ワイヤーを張り転倒させる


すかさず身体を拘束して身動きを取れなくした


「くそ…ッ!」


「…まさか私のパートナーが貴方とはね…」


「ご無沙汰です,先輩」


その顔には見覚えがあった


彼は中学生の頃の部活の後輩である鮫島だった


「そういえば貴方もこの学園に入学していたわね,それにしても合流場所に来ないなんて何を考えているのかしら…」


「仕方ないじゃないですか,始まって早々教室へ殴り込みですよ,二年生はゲリラ部隊出身か何かですか?」


「まぁ私も待ち伏せされたし…今年の二年生は手強いかもね」


「僕もまだナイフしか見つけられてません,この人の武器はありがたくいただきましょう」


「ハンドガン…か……撃つの苦手なのよね」


私はどうやら射撃のセンスが微塵もないらしく


八咫烏へ入隊して訓練を受けてはいるけど一向に上達する傾向がなかった


元々刀を軸にした戦い方をしていたので然程問題はないけれどこういう時に限っては使えたらどれだけ良かったかと思う


「もがっ!?」


「ごめんなさいね,こうでもしないとしっかりと当てられないの,安心して,これなら問答無用でライフが消し飛ぶから」


攻撃は命中した場所によってボーナスが入る


それは意外にも細かく設定されていて実際の戦闘の様な状況を作るのに最適だと言われている


そして私は何の躊躇もなく銃口を口の中へと捩じ込んだ


これならいくら弱い武器でも確実にライフを削り切れるからだ


「あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」


「…さて,片付いたわね」


「先輩やり方がヤクザみたいですよ」


敵を倒した…まではいい


問題はここからだ


一つ違和感がある


三年生である私達は一年生とペアを組み守りながら戦う


そして二年生も同様にペアを組んで私達を狙う訳だ


しかし接敵したのは一人


もう一人はどこへいるのか


「そういえば僕の教室へ来たのも一人でしたね,もしかして二年生ってペアで動いてるのではなく一人一人別行動してるんじゃないですか?」


「だとすると……厄介ね,各戦力は低下するけどその分行動範囲が広がる…尚且つペア以外とも同時交戦の可能性もあるわ」


恐らく二年生は学年で戦術を立てている


そうじゃなければ開始五分で脱落者が出るとは思えない


となると敵は一人に見えてそうではない


まるで軍隊を相手にしているものと思ってもいいだろう


「どうします?隠れますか?」


「いえ…隠れても見つかるかも知れないしここは武器を集めて潰しにいきましょう」


「結局そうなるんですね…」


隠れたり逃げたりしても時間と共に脱落者が増えていけばどんどん不利になる


守るのではなく攻める


戦闘祭において攻めこそが最も有効的な手段だ


だが現在のこちらの武器はナイフとハンドガンのみ


武器調達が最優先だ


「とは言ってもどこに隠されてますかね」


「意外探さない様な場所から目立つ場所まで様々ね,特に校内となると部屋も多いから探すのは苦労するわ」


「あぁ,だからあぁして外を探してるんですね」


「そうね…あれは三組の…いや……待って!!開けちゃーーー」


声は届く間も無く消え去った


なんてこった…


「…あの爆発…本当に命の危険ってないんですよね…?」


「その筈…けどあれじゃライフがいくらあっても足りないわね…」


「あんな罠まで仕掛けてあるとは…」


基本的に配置される武器にはちょっとした法則がある


見つかりにくい場所には強力な武器が,逆に見つかりやすい場所には弱い武器が配置されている


あんな人目に付く場所にショットガンが置いてあれば誰が見ても罠だと分かる


そう,罠だと知りながらも体が武器を取る事を止めなかった


戦闘とはなにもただ戦うだけではない


如何に自分を見失わないかの方が重要と言える


いざ人間が戦闘という状況に陥ったとして,仮にそれが死にはしない戦闘だとしても自らを見失えば待ち受けているのは死だ


その点を今の二年生は理解している


今回の戦闘祭…本気でやっても勝てるかどうか…


「それにしても…幾らルールには無いからと言って二年生のリストが表示されない様にされるとはね…」


「ルールに無い事は全て許容する…と学園長自ら言ってましたもんね…寧ろそれを利用するのも手段じゃないですか?」


「却下,正々堂々やるのが私なの」


しかし敵がこちらからは分からないというのは不便だ


向こうからはこちらの事は分かる


先手を打たれる可能性が極めて高い


「………まずいわね…流石に今の武器じゃ二人同時に相手は出来ないわ…」


「………囲まれてますね…」


「えぇ,しかも両方の通路から」


殺気


それを感じ取るのは難しい話ではない


とは言え私の場合はだけど…


ある意味戦闘という状況に関しては私の方が遥かに経験者だ


ならばそれを武器にすればいい


「こっちに来て」


近くの教室へと入る


誰もいない


幸い使用されていない教室でよかった


徐々に足音が近づいて来る


そしてピタリと止まる


今だ


扉が開いたと同時に足元から頭上目掛けて引き金を引く


「ツッ!?」


「二年生と言っても戦闘は初心者…奇襲には対応出来ないみたいね」


当然なのだが誰だって思いもよらないタイミングで攻撃を仕掛けられれば崩れるのは当然


外にはもう一人いた筈だ


十中八九二人で攻撃を仕掛けて来る筈だ


「いつつ…けどなぁ先輩……勝つ為には犠牲が必要ってもんよ…なぁ!」


「………!?」


こいつまだ何かを…?


まずい!!!


テーブルを蹴り倒し身を隠す


ライフが0になった後に攻撃を仕掛ける事はルールで禁止されている


だがライフが0になる前に既に攻撃済みならば問題はない


「自爆……!?」


「けほっ……けほっ…本当にこれ安全なんでしょうね……」


咄嗟にあの状況で自爆する事は察しがついた


間一髪のところでテーブルを倒して直撃は避けられたものの衝撃によるダメージでライフが少し削られていた


「よくやったぁ!あとは俺が片付けてやらぁぁあ!!」


「うわ……嫌な武器持ってるわ…」


こちらの持つハンドガンに対してあちらはライフル


攻撃力も連射力も上


撃ち合って勝てる相手じゃない


「はいはい…降参降参……私を倒すのが目的でしょ?名誉とかいうのが欲しいんなら倒されてあげるのもいいけれど…痛い思いはしたくないからね」


「へぇ…昨年は暴れ回ってたのに随分と潔いせんぱ…!?」


「はい,油断大敵ですよ,先輩」


「え……は……?正々堂々やる筈じゃ……!?」


「おあいにく様,正々堂々を貫く程私は大人じゃないの」


「先輩は子供っぽいですよ,特に負けず嫌いな部分とか」


「貴方に言われると腹立つわね…それにしてもよく分かったわね?」


「わざとらしくあんな台詞言うからですよ,中学の頃に先輩がどんな人間かを嫌と言うほど叩き込まれましたから」


そう


私が正々堂々とすると言った時点で既に囲まれている事には気付いていた


確かに正々堂々と戦うのは好きだしそれを貫きたいけれどそうは言っていられないのも戦い


だから私は敢えて彼に伝わる様にあの様な言い方をした


それを汲み取ってくれたのも流石私の後輩だ


「アサルトライフルにこっちはバッド…刀はありませんね」


「贅沢は言っていられないわね…バッド貸して,ライフルは貴方が使いなさい」


「……僕に使えると思います?これ」


「じゃなかったら言わないでしょ?」


その後も二年生の猛攻は止まらなかった


息つく間もなく二年生は私達へと攻撃を仕掛けて来た


時には三人一斉にやって来る事もあった


「はぁっ……流石に連戦は疲れるわね…」


「それにしても異常ですよ…こんなに狙われるなんて…先輩去年何やったんですか?」


「…確かにあの時私はメンバーに選抜されたから勝とうと思ったのよ,私の剣の腕は知ってるでしょう?偶然にも私は刀を入手してね…」


「…けどそれだけでこんなに恨み買いますか?いくら刀を持っていても逃げるだけならいくらでも出来ますしそれこそ武器の相性なら銃の方が有利ですよね?」


「それはそうよ,あの時は銃持ち相手には苦戦したわ…けど他の二年生もやる気に満ちてたから銃持ち同士で戦ってたわ」


「そんな中先輩は刀を持って他の人を倒していたと…けどそれは戦闘祭だから仕方ないんじゃないですか?」


「……去年の戦闘祭終わり際,戦況は拮抗していて残り時間も僅か,そこで一年生と三年生は守りの手に出たのよ」


「逃げる…ですか?」


「そうよ,とある部室に立て籠って入って来られない様に扉を塞がれたわ」


「じゃあ……どうやったんですか?」


「部室に手榴弾投げ込んだの」


「……は?」


「だから窓からポイって……さながら部室内は蒸し風呂みたいだったわね」


「そりゃ恨みも買うでしょうね」


いくら死なないと言っても密室での爆発


それに伴う衝撃は悲惨なものだったのだろう


そして一年越しの復讐というのが今回な訳だ


「けれど少なくとも半分は倒してる…他の生徒も倒し倒され…生存者は少ないと思うわ」


「確かにそうですけど…何で僕たちこんなに狙われるんでしょうか…まるで見られている様な…」


「見られている……?そうか…!!」


「先輩どこへ!?」


「恐らく二年生がペアではなく単独で動いているのはより効率的に情報を探る為,つまり二年生は全員情報を共有している,そして必ずその指揮系統がいる筈」


「なるほど…でも場所なんか…」


「今言ったじゃない,見られている…この学園で全てを見れる場所と言えば?」


「…そうか…モニター室!」


そしてその予測は正しかった


モニター室には悠々と座る二年生の姿があった


「見つけたわ…良い作戦だったけど」


何だ?


今私の横を何かが掠めた


それはその生徒の手に持つ銃から放たれたものだった


「ふふふ…待ってましたよ,気が付いてここに来ると思ってました,だから待ってた,麗さんの事はよく見てましたからね…気付いていましたか?麗さんは後輩を守る為に無意識な癖があるんです,それは自分の右後方へ歩かせる事…だからこうして狙い撃てました」


「すいません……ライフが………」


後輩のライフは0


戦闘祭のルールはパートナーである一年生のライフが0になったらその時点で脱落となる


「……まさか指揮を出してたのが貴方とはね……去年まで同じクラスだったのに留年するなんて…」


「先輩がいけないんですよ!俺が何回麗さんに告白したか覚えてますか!?」


「……10回?」


「18回です!!それなのに麗さんは応えてくれなかった!こんなに好きだったのに…単位も落として進級出来なかった…けど麗さん…あの時の言葉覚えてますよね?私に勝てたら付き合ってもいいって…!」


「確かに言ったけど…それじゃ今回この戦闘祭で私に勝つのが目的だった……という訳ね?」


「そうですよ!そして今それが叶った!戦闘祭は俺の勝ちです!」


「……そうね,私は戦闘祭では負けた………けどそれで満足かしら?」


「え………?」


「貴方も男でしょう?確かに戦闘祭のルールでは貴方に負けた…けど私のライフは残ってる,私と貴方の勝負に勝ったとは言えない…私は別に戦闘祭のルールの勝敗でもいいのだけど貴方は本当にそれで満足?自分の力と私の力を比べて勝ってこそ…そうじゃないかしら?」


「面白いですね…いいですよ!これでも剣道部の端くれ…!」


「刀類が無いと思ったら全て集めていたのね…」


互いに刀を手に取る


私との違いがあるとすれば彼は二刀流な事くらいか


「始めましょうか!俺が勝ったら正式に付き合ってもらいます!!」


「見せて貰うわよ,貴方の成長を…」


互いの間合いが近付く


先に仕掛けたのは向こうだ


二刀を相手するには通常の戦い方ではダメだ


受けるのではなく弾く


受けて仕舞えばその間にもう一方の刀で攻撃をくらってしまう


金属音が室内に響き渡る


そこまで広くも無いこの空間で私の動きに着いてきている


実力は確かだ


二刀の扱い方も慣れている


いくら私が主将と言えども普段二刀流を相手にする事は当然無い


「連戦続きで消耗してるでしょう!けどもう遅い!このまま押し切らせて貰いますから!!」


「流石にこれじゃ勝てないわね…」


こちらの体力が消耗してようと戦闘というのは常に万全の状態であるとは限らない


どう戦いどう勝つか


それを戦いの中で模索するしかない


「そこだ!!」


「くっ……」


「これで勝ちです!!」


刀を弾かれる


その隙に一撃を叩き込まれる


ライフの数値は0


射撃武器に比べて近接武器はダメージの倍率が高い


一撃が致命傷となる


「やった…勝ちました!!これで…!」


「えぇ……おめでとう…確かに私には勝った……けど覚えてるかしら?私は戦闘祭のルールでの勝敗でも良いと言ったのを…」


「戦闘祭のルールなら…ぅぐっ!?」


「お疲れ様です先輩,おかげさまで隙を狙えました」


「そんな…だってさっきライフは0に……」


「配置されているのは何も武器だけではない…防弾チョッキや回復アイテムも含まれているのよ」


「けど回復アイテムじゃライフが0になったら…!」


「エクストラライフ…ライフが0になった時一度だけ復活が出来る…偶然見つけて良かったですね」


「えぇ,だから私達は一度だけ倒されても復活が出来るという事,この勝負私の勝ちね」


「そんな……うぐっ………」


「…けど貴方の刀使い,見事だったわ,だから望みを半分叶えてあげる」


「え……?」


「付き合うって話,私のお父様にしっかりと話して許可が貰えたらいいわよ」


「本当ですか…!?やった!!!是非!!!」


かくして戦闘祭は終わりを告げた


今年度の戦闘祭は生存者五名で一年生,三年生の勝利という結果になった


どうやら二年生も相当今回の戦闘祭に準備してきたらしく


今回の戦いぶりは賞賛に値するものだった


それはどことなく八咫烏と同じものを感じた


一人であろうとも組織として動く事によってその力は何倍にも膨れ上がる


どうやら私もまだまだ学ぶ事は多そうだ


余談だが彼はあの後私のお父様に話をしに家へとやって来た


その結果はどうなったかって?


それはもう…


他界他界よ


-To be continued-

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