50−2 騒動
小瓶はフェルナンの手に入り、そこに魔力が入っていることがわかった。魔力のこもった物は、フェルナンほどの力があれば触れるだけでわかるそうだ。そうして分析を行い、少量であれば疲労回復薬に。多量でかつ別の薬を混ぜると意識混濁、催眠がかけられる。使い続ければ苛立ちやすくなり、うつ病のように沈んだりいきり立ったりする。そして、血の匂いに敏感で、興奮状態になるものだとわかった。
使徒は毒にも薬にもなると言っていたが、使徒の言う通りだったのだ。もっと早く詳しく聞いておくべきだった。
オクタヴィアンが供物と言って神殿に魔物の首を置いたのは、薬を投与された女の子たちの反応を確認するためだった。領主に料理を持っていったことも意味がある。生焼きのステーキ。レアで焼けば血の匂いが残っていて当然。領主が喚いたわけだ。
神殿の秘密の通路については、古い資料に残っていた。あの地下道は、大昔に戦争で負けた際に領主が逃亡するために作られた。ずっと塞がれていたのを、神殿の者たちが見つけ、使っていたのである。
神殿をそんなことのために使っていたことに対し、ヴェーラーの信徒であるフェルナンは大激怒。総神官ジャーネル、その他協力者を潰すために、虎視眈々と周囲を探り、彼らを罰するために動いていた。証拠を押さえ、全ての者たちを罪に問う。
その過程で出てきた、領主への投薬。事件が芋蔓式に繋がっているとわかったのも、フェルナンの執念のおかげだった。
魔法だけでなく、薬にも詳しいフェルナンさんがすごすぎるんだけど。神官はそんなこともできるのだろうか。
薬は領土の外からより寄せていた物と想定されていたが、神殿に入る荷物を秘密裏に調べてもなにも出てこなかった。
それをどうして落としたりしたのか。その薬の重要性は聞いていなかったのか? と疑問に思うのだが、代理で薬を運ぶことになった御者は、初めての配送仕事だった。
大切な物だと言われて運んだが、好奇心を抑えられなくなって、入っていた箱を確認した。しかし、その箱の中身がただの布だったり、液体の入った小瓶だったことにがっかりした。適当に戻し、箱をしっかりしまっておかなかった。そして段差で溝にはまり、箱が荷馬車からずり落ちる。小箱も落とし、小瓶が箱から転がった。その小瓶を急いで拾ったが、一便拾い忘れたのだ。アホである。お粗末な話だ。
しかし、そのおかげで玲那が小瓶を拾うことになったのだ。
薬が一つ足りなかったため、玲那が襲われる羽目になったわけだが。
玲那の家を家探しし、物が見つからなければ玲那を狙い、結局兵士に捕えさせた。
牢屋に閉じ込めて、小瓶の場所を探そうとしたのはパルメルだ。
「牢屋から助けられたのが、その関係だとは思わなかったです」
「坊ちゃんが悪童だったことに感謝するんだなあ。なんの罪かと問われて、調べられたら困るのはパルメルだったしな」
「だから、平穏無事に? この城にとどまれたということで。時々、パルメルが私を切ろうとしたのは、小瓶の件があったからってことですもんねえ」
玲那が兵士に捕えられたことに気づいたフェルナンが、オクタヴィアンの手を借りて、牢屋から出られるように取り計らってくれたのだ。
まさか、フェルナンのツテで、あんな方法で玲那を牢屋から連れ出すとは。オクタヴィアンならではの方法だ。フェルナンが助けに来るのは難しい。それで領主の息子が来るというのも、驚きだが。
オクタヴィアンは、玲那が不当に閉じ込められていて、助けなければならない相手。という扱いはせず、使えそうだから持って帰る。程度の話で牢屋から玲那を出した。オクタヴィアンが常々戯れとして、色々な真似を行っていたからできた技だ。
「今のところわかってるのが、ジャーネルとパルメルが、薬の存在を知っていたと」
「兵士を使ったのがパルメルだとわかっているからな」
薬に関わっていたのは、総神官ジャーネルだけではなかったのである。
薬がなくなったことに焦ったジャーネルがパルメルに頼み、玲那を捕えた。しかし、薬のありかを探すために捕らえたのに、オクタヴィアンが玲那を連れていってしまった。
パルメルは、玲那がオクタヴィアンに連れていかれて、焦っただろう。薬をありかを知っている女が、遊び相手としてオクタヴィアンの住む建物に連れていかれたのだ。あの場所は簡単には入れない。オクタヴィアンの手のかかった者しかいない。
玲那から薬の小瓶の場所を、吐かせなければならないのに。
けれど、鬼ごっこと称して玲那が城の中をうろつく。それはそれは、良い餌になったことだろう。パルメルは玲那に注目する。玲那をどうにかして捕らえることも考えたはずだ。玲那を狙おうとしたが、オクタヴィアンはしっかりと監視していた。たまによその兵が本気で賞金を得るために玲那を傷付けたが、その度にオクタヴィアンは牽制した。餌として使ったが、少しは配慮していたのである。
玲那を騙していたのは、そこまで信用していなかったからだ。玲那はその辺の村人。信用しろと言っても、フェルナンやオレードと話す程度の存在。なにかあれば、簡単にオクタヴィアンの周囲について話してしまうかもしれない。
オクタヴィアンの食事を手伝わせても、料理長は玲那を見張っているし、食事を運んで用意して毒でも入れると考えても、後ろに人はついていた。部屋の中に入っても一人で用意させていたわけではない。
オクタヴィアンを狙う真似はしないとは思われてはいたが、完全に信用できる理由もない。
だから、使えるだけは使っておこうというオクタヴィアンの考えもわかる。巻き込まれた方は、たまったものではないが。
「お疲れさんってとこだな。おかげで捕えられる者は捕えられた」
すべてと言えないのが残念に違いない。領主の権利を奪っている立場のボードンには、まったく捕らえられる要素がないのだから。
パルメルと商会長、神官、その他関係者だけを捕えられただけであり、まだ、領主の権利を行使しているボードンには及ばなかった。そもそも、関係していたかの証拠がつかめていない。関係はあるとオクタヴィアンたちは睨んでいるようだが。
「しばらくは騒がしいだろう。城だけでなく、神殿の人間もさらに調べられるからな。領主に長い間薬を盛っていたんだ。その上、少女たちを拉致して閉じ込めていた。非道な行いに関わっていた者だけでなく、知っていた者まで一掃されるだろう」
調べは続く。ヴェーラーへの信仰も大きく揺らぐのかもしれない。
領主を陥れようとしたのだから、それまでに追い出された貴族も戻ってこられるのだろうか。
ふと、あの貴族を思い出す。アルフに紹介された、ハロウズ夫人。そして寝たきりの夫。早く治療してもらえればよいのだが。
領主が薬に侵されて正気ではないとわかったので、これからはオクタヴィアンが領主の代わりに立つことになる。
それでもボードンは健在なため、一筋縄ではいかないようだ。これからが大変なのだと、料理長はため息混じりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます