40 罠作り
入り口の左右の壁に縁になる木を打ち付けて、木材を重ねられるようにした。
このために釘を購入したので、どんどん打ち付ける。釘は細い釘ではなく、五寸釘のように太くて長い。家に打ち付けたら外側に飛び出るのではと不安になる長さだが、しっかりしているので外れることはない。
板をスライドさせて入れて外から開けてみれば、まったく動かない。
「完璧では!?」
次に石を集めて箱の中に入れ、自分で動かせるくらいの重さにし、出かける時は扉の前に移動させる。袋は購入してきたものがあるので、そこに砂や石を入れて箱の中にさらに詰める。それを玄関前に二箱。裏口前に二箱置く。
「重労働だけど仕方ないね。これで家には簡単に入ってこれないよ。あとは、自分がおうちを出ている時に侵入されたら。ってことなので、それはどうしようかなあ」
外出したら二階から出入りすることになる。二階の窓は三つ。庭方向と、裏庭方向。裏庭方向の窓は外鍵も付けてもらった。なんのために付けるのか不思議に思われていたが、自分が出入りするからとは言えない。
裏庭の窓には外に錠前をつけ、それとは別に、屋根から降りられる梯子をつける。
梯子は避難用のような、ロープ梯子だ。引っ掛ける場所は屋根になるが、薪が置いてある棚の方へ隠そうと思う。
「薪積んでたら、登れちゃうような気がするんだけど」
日本の泥棒も、庭にある倉庫などを足場に、二階に侵入することがあると聞いたことがある。そのため、壁際に倉庫を置くべきではないのだが、ここでは壁際に薪用の棚があった。屋根のひさしの下に棚があるため登るのは難しいだろうが、身体能力がある人ならば案外簡単に登られそうな気がする。
「猫よけみたいな、トゲトゲを屋根にもはるか。リトリトの尾を屋根の端に設置して、梯子ロープをその後ろに隠して」
ぶつぶつ言いながら二階に上がり、屋根の具合を確かめる。裏庭側の窓から屋根に降りることはできたので、ここから出入りは可能だ。
細い屋根の上を歩き、倉庫の上の屋根に座り込む。雪が降ろしやすくなっているため、傾斜がきつい。足を滑らしたら玲那なら足を折りそうだ。
「どうしようかねえ、リリちゃん。梯子ロープはリトリトの罠を屋根の端っこにはって、その後ろに打ちつけて隠せば、見えないかな」
リリは軽く、あまり重みを感じないため、頭の上にいるのか時折忘れそうになるほどだが、ピ。ピ。と鳴くので、頭の上には乗っているようだ。
外に出て、箱を積んで屋根をのぞいたり、二階から見たりと、梯子の設置場所を考えて設置場所を決めると、釘で梯子ロープを固定した。少しだけその釘を出しておき、引っ掛けやすいようにしておく。
長い棒で梯子ロープを上げて、その釘に引っ掛けて、落ちてこないか確認した。
「うん。大丈夫そう。梯子はこれでいいや。あとは、リトリトの尻尾を取ってこよう。お肉も食べたいし。屋根囲うのに結構な数いるからね。狩りだよ」
狩りついでに、ビットバの練習をするつもりだ。
ずっと考えていたが、どの程度までビットバの威力を減らせるだろう。人を撃ち殺すレベルよりも、もっと軽く。気絶させることができるレベルまで落とせるだろうか。
「ビットバが使えれば、ずっと楽になるもん。よし。私、頑張るよ、リリちゃん!」
今すぐに森へ行きたいが、先に頼まれていたコルセットを作る。約束はしたので、そこはちゃんと作るつもりだ。
手織り機も直してもらっているので、布作りもできない。集中して作れば、長く時間はかからない。
そうして、夜の間は、薬を作るつもりである。
「ふ。ふふふ。人のうちにまた強盗に来てみろ。目に物見せてやるから!」
不気味に笑いながら、庭の鳴子を見つめて、うーんと唸る。
「門扉にベルとかつけようかな。用があったら叩いてくださいって、書いて、」
そうして、ふと気づく。
「私、字が書けなくない??」
普段、翻訳された文字を読んでいる。使徒からもらった本が翻訳されているだけかと思っていたが、町での値札や説明は読めた。翻訳はありがたいが、その代わりこちらの文字がわからない。つまり、文字が書けない。
「覚えないとダメだよね。材木屋さんで説明する時、絵しか書いてないし、文字書いてたの店長さんだもん。そういえば文字書いてなかったよ」
ならば、使徒に文字の本をねだるか。きっとすぐにくれるはずだ。
かぎ編みをしながら外に出ている時に強盗に会った想定をしていると、わっ! と誰かが外の鳴子に引っかかって悲鳴を上げた。カラカラと音が鳴り、連動して庭中の鳴子がコンコン、カンカン鳴る。板や金属などを使っているので、場所によって音が違った。最初はカラカラ鳴ったので、玄関前である。
もう外は暗い。一気に緊張が走った。立ち上がり、側にあったハサミを手にする。
扉は既に板張りにしており、重石を入れた箱を置いて入られないようにしてある。入ってこようとしても、簡単には開かない。
まだ、家の中に侵入された時の罠は作っていない。二階に上がり、様子を見ようかと考えれば、再び転んだ声がした。
二個目の鳴子にも引っかかったらしい。そして、その声に聞き覚えがあって、玲那は急いで箱をどかし、板を外した。
「アルフさん!」
「れ、レナさん、なんか、引っかかって」
「ごめんなさい。昨日強盗が入ったから、罠だらけで」
「罠? まんまと引っかかりました。すごいですね。うわ、ここにもある」
灯りを持っているのに引っかかったようだ。手から落としてしまったランプを急いで拾う。蝋燭だったので火が消えてしまったが、アルフも魔法が使えるようで、すぐに灯りが戻る。
「強盗に入られたと聞きました。それで、こんな罠を作ったんですね。すごいな。庭中鳴りましたよ」
「これだけ鳴れば少しは怯むと思って。どうされました?」
アルフは感心しながらも、問われると逡巡して、ぐっと口を閉じた。
「す、すみませんでした! レナさんは、ハロウズ夫人のことを考えて教えてくれたのに、俺一人で怒って、失礼なことを言って!」
謝るために来たらしいアルフは、ハロウズ夫人が本当に病気ならばどうなるのか、冷静になって考えて、深く反省したそうだ。
もし本当になにかあれば、後悔しかない。一介の職人で何の手助けにもならないが、一度だけでいいから高位の神官に依頼し、病気を確認した方がいいと思い直した。それで、ハロウズ夫人に、前に一度助けてもらったという神官に、話だけでもいいから聞いてもらえないか頼みに行ったらどうかと、提案した。
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