39−3 リリック

「私だってちゃんと考えてるんですよ。もし、また泥棒が来て、部屋を荒らすような人たちだったら、お金をあげますから私は逃がしてくださいと言って、逃がしてくれるとは限りませんよね?」

「だろうな」

「なので、夜は、すべての扉と窓の前に、板と物を置きます!」


 玄関、裏口は内開きだ。内開きならば、蹴り上げて入ってこられる。今回扉を重い木材にしてもらい、鍵も重厚なものにしてもらったが、まだ心許ない。なので、家の中から板を張ることにした。


 お城の門のように、太い木で板を張り、鍵代わりにする。板は一本ではない。全面的に張るつもりだ。。扉や窓、全体に張る。部屋側から雨戸を作るのだ。扉や窓の両端に板を入れられる縁を作り、スライドさえて板を満遍なく入れる。窓をすべて封じるように板を何枚も入れればいい。そして、扉の前には板張りの箱を置き、その中に砂袋を入れることにした。板張りの箱は上下二個。体当たりしても、開けるのには骨が折れるだろう。


 窓に板張りの箱は置けないので板だけになるが、降り立った足元に剣山でも置いておきたい。つまり、リトリトの尾を置いておくのだ。


「ふ。ふふ。題して、ホー●アロー●作戦!」

 映画のように、生ぬるい攻撃ではない。重症にしてやる。

「ふふ。ふふふ。ふふふふ」

「屋根で一晩待つつもりか。乗れる場所はあるだろうが」


 二階の部屋はリビングの上にあり、倉庫の上は屋根になっている。そこに忍べないだろうか。同じ色の布でも置いておきたい。


「それで、あんたは普段、どこから出るんだ?」

「二階からです。梯子作る予定です。屋根に隠して棒でも使って取り出そうかなって」

 気持ちは家の屋根裏を開けるように、棒で引っ張って階段でも出てきてくれると嬉しい。しかし、そんなことはできないし、気付かれたら侵入されてしまうので、ツルで作った梯子を屋根の上に置いておくつもりだ。


「はあああぁ」

 人の話を聞いている間に、大きなため息を吐いてくれる。

 仕方がないではないか。この家で防犯は期待できない。最悪、ビットバが貫いてしまう。


「相手が夜だけ訪れるとは限らないだろう」

 それはもっともな意見である。その時は戦うしかないかもしれない。やはりビットバか。使徒の心配が現実になってしまう。


「これを持ってろ」

 フェルナンはため息を終えると、何かを放ってよこした。頭の上に不思議な感触がある。握ってみると、なにかにつつかれた。

 手に取ると、フクロウの幼鳥のような小さな鳥が、ピイと鳴いた。


「ふあああ。もふもふだ。もふもふ! なんですか、この子。めっちゃかわいい! おめめくりくり」

 黒目で白目の部分が金色だ。クチバシが丸くなって先が鋭い。しかし、白のふわふわの毛で覆われており、ぬいぐるみのようだった。


「頭の上にでも乗せておけ。リリックという、精霊のようなものだ。側に置いておけば、危険な時に役に立つ」

「精霊……。え、お借りしていいんです?」

「やるから、持ってろ」

「ええ!? いいんですか?? めちゃくちゃかわいいですけど!?」

「いいと言っているだろう」

「わあ、ありがとうございます。なにちゃんですか??」

「名前なんてない」

「名前、つけていいですか!?」

「好きにすらばいいだろう」

「なんて名前にしよう。ふわふわちゃん。ふくろうちゃん。しろしろちゃん」


 フクロウの幼鳥のようなその小鳥は、首を傾げて、玲那の手の中で座り込む。ぽっちゃりとしていて正月の鏡餅のようだ。おもちはどうだろう。呼べば、よそを向かれた。気に食わないらしい。シマエナガみたいにも見えるので、シマちゃんはどうだろうか。それも気に食わないとよそを向く。


 先ほどリリックと言っていたし、百合のように白いので、リリにしよう。呼べば、ピイと小さく鳴く。リリで決定だ。


「あなたの名前は、リリちゃんね。リリちゃんは何を食べるんですか?」

「放っておけば勝手に食べる。餌をやる必要はない」

「そうなんですか?」


 精霊のようなものと言っていたので、鳥とは違うようだ。リリはぱたぱたと羽を動かすと、およそ小鳥とは思えない飛び方をして、玲那の頭の上に乗る。パタパタ飛ぶと言うよりは、浮かぶように飛んだ。羽を使っているようだが、羽で飛んだようには見えなかった。


「あんたの体についている間は、姿が見えない。だから、手放さず持っていろ」

「へー、すごーい。わかりました。ありがとうございます」

「じゃあな」

「え、帰っちゃうんですか。お昼ご飯、なにか作りますけど」

「家の片付けがあるんだろう」

「じゃあ、片付け終わったら、またなにか作るので、食べに来てくださいね!」


 フェルナンは黙って返事をくれなかったが、満更でもない顔をしていたのでまた寄ってくれることだろう。

 村に兵士を寄越して周囲を巡回させるような警備はしなくとも、こんな風に助けてもらえるなら十分だ。


 フェルナンはなんだかんだ言って、ああやって助けてくれる。優しすぎてなんなら抱擁したい。刺されるかもしれないのでやらないが。

 食事だけでも礼がしたいので、料理の腕を上げなければならないと、強く心に誓う。


「リリちゃん。これからよろしくね」

 頭の上でよく見えないが、挨拶をすると、リリは、ピ、と一鳴きした。

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