27 調味料

 本日は、木材の受取日である。

「こんにちはー。この間、木材注文した者ですが」

 一人、町までやってきて、織り機の部品を依頼した材木屋さんに行くと、前と同じ人が店の奥から出てきた。


「ホワイエさん。お待ちしてましたよ。依頼のものはできてるんで、確認してもらえますかね?」

 ホワイエと言われてピンと来なかったが、そんな苗字を名乗ったのだった。忘れていた。


 エプロン姿のおじさんの後ろについて、依頼した木材を見せてもらう。

 依頼の際に蝋の板に書いた依頼書と見比べて、同じ物があるか確認だ。

 出された木材は、カンナなどで綺麗に削られてはいなかったが、毛羽立ちはなく、ニスで固められていた。手作業の技術ではこれが精一杯なのかもしれない。ところどころぼこぼこと膨らんでいるような気がするが、ニスのおかげで引っかかりはしなそうだ。


「この表面は、どうやってきれいにしたんですか?」

「そりゃ、魔法ですよ」

 店主がさらりと言った。魔法と言った気がする。聞き間違えただろうか。いや、魔法と言った。


「まほーで、えーと、」

「うまいやつがいるんですよ。さっとね。ですから、切り口がきれいでしょう」

「ですかー。そうですかー。えーと、木に何か塗ってますよね。何塗ってるか、聞いてもいいですか?」

 ニスは塗っていてほしい。魔法についてはスルーして、塗ってある物を問う。


「ダレルの樹液ですよ」

 その名前は覚えておこう。植物辞典に載っているはずだ。

 しかし、刃物があるのに、魔法を使っているとは思わなかった。聞けば、断裁は魔法が主流で、細かいところはノコギリなどで補整するそうだ。伐採などは倒れ方によっては危険なので、そこは斧を使うらしい。あまり力の加減ができないのかもしれない。


 魔法チート。羨ましい。いや、欲しがってはいけない。自分を戒めて、出された部品のチェックをし、合っているか確認した。


「組み立てがおかしいようだったら、教えてください。小さい手織り機を自分で作るってのは、わたしらもやったことがないもんで」

「ありがとうございます。組み立てたら、布もちゃんとできたかお伝えしますね」


 手織り機を新規で作ることがあっても、大きめの場所をとるサイズが多いらしい。それでもほとんどが修理で、部品を作ることばかりだそうだ。

 部品はすべて揃っていたので、残りのお金を払う。


「あの、他の相談なんですけど、こういうのって、作れたりします?」

 紙を作るのに、ハンドチョッパーがほしい。自分で作ろうと思ったが、作るものがありすぎて手が回らない。ここはプロに任せたい。

 ハンドチョッパーの案を伝えると、店主は別のボードを持ってきて、詳しく知りたがった。下手な絵を描くと、店主はボードを凝視した。難しいだろうか。


「これは、何をするためのものですか?」

「草を簡単に刻めるようにしたいんです。刃物はまだ決めてないんですけど、短い包丁でも設置して、回せないかなって。ここに紐を絡めて、左右引っ張れば、中の刃物が回転して、草が細かくなるんで」

「こんなので、ちゃんと回転しますかね?」

「紐で回転が難しかったら、上部に手押しの取っ手作っていただいて、ぐるぐる回すのでもいいです」

「そちらの方が、丈夫に作れるでしょう」


 紐では不安だと、店主はハンドルを回すタイプを押してきた。それならば、ハンドルが回りやすいように、持ち手の部分も回るようにしてほしい。

「それはまた、たしかに、そうすれば動きが楽になりますね。お嬢さん、その案、面白い」

 なぜかうけたようで、店主は蝋のボードを見ながら何度も頷いた。握りが回ってくれた方が回しやすいだけなのだが。


「刃は、三枚でよろしいですか?」

「三枚でいいです。できれば段差があった方がいいな。あと、取り外しできれば、なおさらいい。手入れするのが楽なので」

「段差を付けて、取り外し可能か。ふむ。やりましょう。これは面白いものができそうだ」


 やる気を出してもらえて嬉しい。刃物も店主が用意してくれるので、こちらで刃物屋に確認する必要がなくなった。しかも、今回は初めての試みなので、前金なしでやってくれることになった。金額は刃物を入れて、四十ドレ前後になる。思った以上に安い。


 面白いものだからと早めに作ってくれるとのことなので、五日後に再び町に訪れることになった。組み立てもしてくれるのに五日はかなり早い。ありがたい。

 ハンドチョッパーの注文を終え、他にも依頼をし、次の場所に向かう。調味料屋さんだ。


 再び死活問題が起きたため、どうしても塩が必要になったのだ。

 それは、肉である。

 先日、手に入った肉。それは、ラッカの肉。


 ラッカの皮が気になって、川岸で下処理をしたのだ。頭部を落とし、腹を割り、内臓を取り出して、皮と肉に解体した。皮は何かに使えるかもしれない。肉は食べられると聞いていたので、当然持って帰った。頭部や内臓はそのまま川に流した。その辺に放置するわけにはいかない。頭部は下顎しか残っていなかったからだ。放置すれば再びなんの魔物が現れたのか、騒ぎになってしまう。


 ラッカの皮を剥ぐのに時間が掛かったこともあったが、下処理をしている間に雨が降ってきた。血の跡は雨が流してくれたので、ラッキーだったというべきか。

 ラッカの肉は結構な重さがあり、解体してカゴに入れればずしりと重くなった。釣った魚は食べられてしまい、小魚は傷だらけになってしまったので、釣りに行ったのに持って帰ってきたのは、ラッカの肉と空の貝殻だ。


 家に帰る頃には土砂降りになり、雷の音もひどく、どこかに雷が落ちた音もした。

 避雷針もないので、どこに落ちるかわからない。雨の日は危険だ。森に行くのに、これからは天気も気にした方がいい。


 そうしてやっと帰った家でラッカの肉を広げたのだが、これがまた量が多い。簡単には食べきれないため、保存することにしたのだ。そろそろ地下倉庫の肉も食べ終わるところだった。新しく肉を保存する必要があるのだ。

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