27−2 調味料

 ラッカの肉は赤身だが、脂が多めで、皮と肉の間に白い脂があった。それを別々にして、脂は牛脂のように蝋燭代わりにできるか試すつもりだ。怖い思いをしたが、良いお土産ができたので、それは良しとしよう。


 皮は庭の柵に広げ、雨ざらしにした。洗う必要があるが、桶も足りないので、今は日陰で干している。

 貝殻は雨にさらし、これも乾かすために日に当てて放置してある。集まったら粉にして、石灰として使うつもりだ。

 そんなこともあり、塩を手に入れることが急務となった。肉の保管に使うためだ。


 皮などの加工にも塩は大量にいる。ついでに、他の調味料がないか確認したい。胡椒とか、胡椒とか、胡椒。塩味は飽きた。醤油か味噌があれば良いのだが、さすがにそれは期待していない。唐辛子系でもあればいいのだが。


 木材家の店主に、珍しい調味料も置いてあるという店を教えてもらった。少々値は張るが、この辺りでは取れない香辛料などが売っており、玲那ならば買えるだろうと言われたのだ。どうにもお金持ちの家の子だと思われているようだが、それはスルーして、一応その店を見てみたい。安い調味料屋さんもあるらしいので、高すぎるようならそちらにも行ってみよう。


 材木屋の店主に教えてもらった道を進む。入り組んだ道になっているので、小道に迷わないようにと注意された。裏道はあまり治安が良くないそうだ。

 人気の多い道を通ると、城へと段々近付いていく。それでもずっと遠くにあるようだ。少しだけ小高い場所に建てられているので、城壁も見える。

 遠目から見て、そこまで広くないと思っていたが、思ったより広い土地を城壁が囲んでいるのかもしれない。


 調味料屋への途中、歩いていると、地面が変わったのがわかった。町の門の前からずっと地面はただの土で、砂埃が舞うほどだったのに、途中から石の道になってきている。石畳というほどきれいに整備されているわけではないが、平面になるように、石がはめられている箇所が増えた。所々土で、一部が石だったりもした。

 中途半端な道だ。それと同時に、周囲の建物も変わりはじめた。直線の飾り気ないビルのような建物ばかりだったのが、店先に植木鉢や看板を置く店が増えてきたのだ。日除けの布が屋根代わりにしたり、出入り口がアーチ型になっていたりと、店の飾りが増えている傾向がある。


 フェルナンと来た時、銀行に連れて行かれたが、あの周囲はここ以上に綺麗だった。銀行近くは高級街に近いのかもしれない。地面はレンガのように交互に石が敷き詰められていて、今歩いている道よりも整備がしっかりされていた。あの時は周囲をゆっくり見る余裕はなかったが、城に近付くにつれて、道や建物が綺麗になっているのがわかった。

 ここは銀行の通りに比べて、飾りが多めの繁華街といったところか。


 調味料屋は、その少しだけ景観が綺麗になった場所に立っていた。

「こんにちはー」

 入った店はこぢんまりとしていたが、壁一面に引き出しがあり、その前に瓶のようなものが並んでいた。

 それを、つい凝視してしまった。


「ガラス瓶!」

「なんです? ガラス瓶がほしいんですか?」

 店の奥から、女性が出てくる。怪訝な顔をして、玲那を上から下まで舐めるように見ると、舌打ちしてきた。


「うちの品物は高いよ。冷やかしなら帰りな」

 カチンとする言い方だが、玲那の格好はとても身分のある者には見えないので、調味料を買うような姿ではないようだ。

 その態度は気にせず、遠慮なく店の中を見回す。女性はその辺に簡単に触れるんじゃないと叱咤してくるが、気にしない。メンタルおばけをなめないでいただきたい。


 なんといっても、ガラス瓶がある。これは衝撃的だ。ガラスで、蓋が金属だからだ。

 耐熱ガラスかはわからないが、密封ができるかもしれない。


「ガラス瓶って、どこに売ってます?」

「はあ? 冷やかしなら帰れって言ってんだよ」


 さすがにガラス瓶だけ言うのは失礼か。玲那は瓶の中を見つめて、使えそうな香辛料を探した。その間も、女性は苛ついたような態度を見せてくる。

 見てもなにがなんの香辛料かわからないが、板に名前が書かれていた。その文字は植物辞典のように、なになにもどきと翻訳されるものがある。カタカナに翻訳されるのは、もどきではないものだ。


「岩塩、胡椒と、サフラン!」

 岩塩はそこまで高くない。四百五十グラムで五ドレだ。胡椒は種類があるのか、幅がある。四百五十グラムで五ドレから二十ドレ。この差はなんだろうか。サフランは貴重なのか、四百五十グラムで五十ドレした。倍額だ。

 麦もある。麦は九百グラム二十ドレだった。小麦も同じ値段だ。

 他にも見たことのない種や草がある。種類は多い。ただ、珍しいと言うだけあって、値が結構張る。


「待って、生姜もある!」

「はあん? 何言ってんだ。いい加減にしないと、叩き出すよ!」


 生姜は通じないらしい。カタカナで言わないと女性にはわからないのだろう。だが生姜は欲しい。生姜焼きができる。根のままで売っているので、しばらく保存も可能だ。


「麦と小麦、塩を、えーと二ゴン。ベッダは、〇・五ゴン。あと、生姜、ドゴも〇・五ゴン」

「そんなに買えるのかい!?」

「買えます。あの、袋とかってどうすれば」

「普通は、入れ物を持ってくるんだよ。瓶が欲しかったら買いな。どこの家のお使いだい」

「自宅用です」


 女性は驚きながら、再び上から下まで、玲那を品定めするようにじろじろと確認する。確認しても何も出ないので、全部でいくらか教えてほしい。


「入れ物はそこから選びな。小麦は袋でやる。次から持ってきな」

 指さされたガラス瓶は、真鍮製のような蓋が付いている。一番小さくて手のひらサイズ。大きくて腕の長さくらいだ。一番大きいガラス瓶を選び、塩と胡椒、生姜をそこに入れてもらった。ついでに、二瓶ほど多めに買う。


 トートバッグはパンパンに膨らみ、木材は持ち歩くことになってしまった。トートバッグの紐が破れないか、不安である。

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