26 獣
「魔物が嫌いな香木かー」
小指くらいの大きさの、小さな木の破片を、玲那は物珍しげにみつめた。
今朝、オレードが討伐で遠くに行くことになったので、香木をわざわざ届けに来てくれたのだ。
丁度朝ごはんを食べている時だったので、下着は着けていた。危ないところだった。
せっかくいただいたので、専用に作った袋に入れ、帯に絡める。匂いはしないのだが、一定の魔物ならば匂いを嫌って避けるらしい。
一定の。というところがポイントである。ある程度の魔物って、どんなだ。
魔物辞典を読んで、人に迷惑をかけない、食人をしない、魔物がいることはわかった。むしろ、リトリトのような威嚇ついでに襲ってくるような獣より、ずっとおとなしい魔物がいるのだ。
ただ、やはりそこは魔物で、身を守るために幻想を見せたり、眠りにつかせたりするなどの迷惑行為を行ってくる。そういった魔物には効きそうだ。巣が糸になるギモバのように、巨体を持つ魔物には効かないのかもしれない。
「十メートルの魔物が、逃げるの見るのも怖いよ」
ぶつぶつ言いながら、玲那は川に辿り着いた。本日は釣り。魚を食べていなかったので、魚釣りに来たのだ。
前に出汁用になった魚は、煮干しとして食べている。塩を入れて煮た魚を陰干しして、十数日。かびてしまわないかドキドキだったが、しっかり乾いて、カサカサになった。軽く炒ったあと、紐で結んで窓際に引っ掛けておいたのだが、正直なところ、虫が張り付いていても気付かない。乾燥させるための網が必要である。
「小さい虫が入らないように、簡単な網作ろう。かぎ編みすごい上手くなった気がする。もうちょちょいだよ。ちょちょちょい」
なんなら、魚釣り用の網も作りたい。釣った魚を入れるビスはツタで編んだので、それは持ってきた。川の中に入れておけば、釣りの間しばらく放置できる。
カゴを編むのも慣れてきたので、川で繊維を取るための茎を浸すカゴを作り、どこかに引っ掛けておいて水に浸す方法も考えている。煮るのはいいのだが、鍋に入れる分短くなるので、長いまま水にさらせた方がいいからだ。水にずっと漬けておくより、流水で流れている方が、繊維を綺麗に取れるだろう。
「魚取れる、やな漁の場所作りたいなあ。作ったら怒られるかな」
河岸に坂道を作り、そこに魚が勝手に入るようにする。すだれのようなものを設置して、勝手に入った魚が水から出て、戻れなくなるようにするものだ。釣りをわざわざ行わなくて良いので、草取りに行く時になど、そのセッティングをして、帰る時に確認できるくらいを考えている。
それだけで時間の短縮ができるのだから、楽でいい。
ただ、川を勝手に改造していいのかがわからない。
「それか、罠だよね。一回入ったら出られなくなるカゴ作って、設置しとくの。でもなあ、これやると、変な獣入っちゃうかな。なんて言ったっけ、ラッコ?」
夕方になれば、川から凶暴な獣が出てくると、川で釣りをしていた時に注意をされた。どんなものかまだ見ていないが、仕掛けた罠に入っていたら怖い。
あと、肌がかぶれる液体を出す、あの魚が引っかかっても困る。出すのが大変だからだ。
「すっごく小さいカゴなら、出汁用のお魚とれるかな。煮干し作り。いいかも。オイルがあればオイルサーディン。塩があれば、アンチョビ。作れるかな」
家にある塩はかなり少なくなっている。なににでも塩を使っているので、減りが早い。町に行って塩は買ってこないと、味付けすらできなくなってしまう。
「今度、また町行ってこよ。小麦とー、卵とー、調味料。鍋、樽。あとなんだろ」
釣りの虫を紐に結びながら、玲那は独り言を続ける。口を閉じると、川の流れや風が草木を通り過ぎる音が聞こえた。
耳をすましておいた方がいいのはわかっているが、つい独り言をしてしまう。
「毎日、看護師さんと話してたしな」
話せなくても、看護師が話しかけてくれた。必ず誰か訪れる病室内。家族ではなくても、人に会わないことはない。
寂しくはないが、今起きたことを話すのが常なので、つい口にしてしまう。
病院食が食べられていた時は、たまにつくデザートの感想を言ったり、給仕の方が話しかけてくれたりしていた。食事の感想を聞いてくれるのだ。玲那が、あれがおいしかったこれがおいしかったと、よく話していたからだろうが。
看護師さんが、玲那の作った編みぐるみをほめてくれたりもした。うまくできないレース編みに、自分で文句を言ったり。隣にいる子も反応するので、独り言のようで、そうでなかったりするのだ。
「癖だね。癖」
のんびり釣り糸を垂らし、当たりを待つ。まともな魚はほとんど釣っていない。その辺の虫では餌が悪いだろうか。
「釣り用の虫とか、取っといた方がいいのかなあ。虫集めて、飼う?」
今日は釣りの虫を入れるために、小さな蓋付きのカゴを持ってきた。釣りをしている間に逃げてしまうので、樹皮で作ったカゴに入れて、蓋を閉めておくためだ。格子に編んでいるので穴がなく、逃げることができない。木の実を入れるためにも、蓋付きのカゴを作っている。蓋があると、獣から逃げた時に落とさずに済むからだ。
少しずつ、役立つものが増えている。材料は常に集め、作業ができる状態にしていた。倉庫にはツタや枝が散乱している。虫がわかないか不安だ。薪置き場にも置いてあるので、置き場も考えなければならないだろうか。
「草とか置く棚、作ろうかな。庭に、屋根付きで。雨風凌げるように」
完璧に雨は凌げないだろうが、樹皮を編んで重ねれば、少しの雨は凌げる。支柱になる木は購入した方がいいだろうか。
長い棒で簡単に整えて、紐で固定して、編んだ樹皮を板代わりにして、その上に桶とか置けるだろうか。草などを干す場所もほしい。
「そうそう、お洗濯物干すところほしいんだよね。シーツとか、窓が小さいから、干しにくそうだし」
今はまだ大きな物は洗濯していないので、困っていないが、そのうちシーツなどを洗うことになったら、干し場がないのだ。
服などは、椅子などにかけて干している。それも改善したいと思っていた。
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