25−2 コロッケ
蒸かした芋もどきとニンジンもどきの皮を剥き、木べらで押し潰して、ミンチにして軽く炒めたリトリトの肉と玉ねぎもどきに混ぜる。肉はぱさついているが、なんとかまとまった。それを小麦粉に付け、卵を付け、パン粉に付ける。味付けは残念ながら塩だけだ。肉の旨みだけでなんとかおいしくなってほしい。
油で焼くことになるので、コロッケにしては薄めに作り、ミンチ肉を炒めて残った油で、焼く。
卵と小麦粉が熱せられれば、それで十分だ。
「いい匂いしてきた。いい出来になるのでは!? て、ああっ、崩れた!」
フライ返しがないので、木べらでひっくり返している。フライ返しがほしい。木べらを削って斜めにしようか。
でもまあいい。出来上がったコロッケを木のお皿にもれば、完璧である。残った小麦粉と卵は薄焼きにし、コロッケを包んで食べる。
「んー。ほかほか。あっつ。味が薄いのは胡椒がないせいか。ソースもなー、難しいよなー」
なんだか物足りない。ソースがなければ、そこまでの感動がない。せめてマヨネーズでも作れば良かったか。
しかし、酢がない。ドレッシングを作るにも酢が必要だ。完璧にする必要はないが、酢の作り方は知らないので、そこを手作りするのは難しい。米もないので、なにで酢を作るのかもわからなかった。りんごか?
あとはハーブのような草木を探すしかない。
最近見つけたのは、ネギもどきである。植物辞典を確認したので、間違いない。わけぎのような、細めのものだが、川近くに群生していた。のびるに近いかもしれない。根も食べられるし、葉も食べられる。これも畑の端に植えてある。
それから、葵の花に似た草。これも群生していたが、掘って根を取るのが大変だった。調べれば食べられるようなので、庭に植えたのだが、すでにしんなりしている。根が深かったので、途中折れてしまったせいかもしれない。辞典によると、食べられる種類で、葉や茎、花や種、根まですべてが薬になるらしい。特に気になるのが、
「根っこに、粘液成分あるってとこなんだよね」
粘液成分。素晴らしい響き。とろろのようにすれば、紙の繋ぎに使えるかもしれない。食べられるならば、使いたくないが。
「葵に似た花ってことは、似たような感じなのかな。葵もどきにはなってないんだけど」
名前は訳されず、リダとなっている。茎はけばけばして、触れると毛が刺さるようだ。葉もギザギザで、寒冷地や風に強い種類のように思えた。とにかく毛張っている。身長が高く、繊維が取れるザザの草のように、真っ直ぐ伸びた草だ。
「ただなあ、葉っぱに虫が」
葉が食べられるとはいえ、葉を包んで布団がわりにしている虫が大量にいる。全て取り除いたら、葉が数枚になってしまった。そのせいでなおさらしんなりしているのだろう。水をあげておく。
虫は毛を食べる虫のように、小さくて貝殻のように見える虫なのだが、それがひしめき合って暮らしていた。なんと言っても、真っ赤なところが気持ち悪い。
「毒ありそうで怖いわ。色がまずいよ」
森の中で歩いていれば、もちろん虫がいる。あまり暑い場所ではないからか、飛んでいても川の側にいるカゲロウのような小さな羽虫や、モンシロチョウのように優雅に飛ぶ虫など、おとなしめな虫ばかり。スズメバチのような凶暴性のある虫には出会っていない。
しかし、草木を探していると、いるいる。ダニのようにいる。しかも、カメムシくらい大きい、毛の生えた手足の長い虫が多い。
今更だが、森の中に入る時は、長袖長ズボンを履きたい。
食器を洗うために、井戸へ移動する。食器洗い用の棚でも作ろうか。キッチンで洗えばいいのだが、洗うのにいちいち井戸の水を持ってくるのが面倒なのだ。ものぐさなだけである。
「あ、そうだ。リトリトの皮どうなったかな。ずっと灰の水に浸けてるけど」
持って帰ってきたリトリトの皮は、水に漬けるだけでは血が浮くくらいで綺麗にならなそうだったので、藁を焼いた灰汁と一緒に浸けてある。
一日経ったがどうなっただろうか。腐らないように、ザザの茎を被せて日が当たらないようにしていたのだが、庭の端っこに置いておいたので、忘れていた。
作業場は裏庭だが、一番角の端っこに置いてある。
「かき混ぜてないから、綺麗にはなってないだろうなあ。せめて、毛から虫が出てればいいんだけど。そしたら水変えて、漬け込んで、皮についてる肉を削ぎ落として、また洗うか。干すのはその後かな。肉がちょっとでもついてたら、そこから腐っちゃうもんね」
さて、どうなっているだろうか。
漬けた桶の上に大量の茎が置いてあり、桶に日が入らないようにしている。茎はまっすぐで、皮を剥ぐ際に葉など全て落としているので、余分なものはついていない。なのに、なにか細く短い小枝のようなものが、幾つも見えた。松葉のように細い、茶色の小枝だ。
風で落ちてきたのか。そう思ってザザの茎を動かすと、その茶色い枝が、ニョキっとこちらを向いた。
「ひえっ! なに!」
ザザの茎についているのは、小枝ではなく、寄生虫のような茶色い虫だ。棒のようなフリをして、茎を動かされて驚いて動いてしまったらしい。
しかも、一匹二匹ではなく、大量にいる。
「ひえええええっ! 寄生虫。寄生虫だー!」
溺れるのを避けるため、桶から逃げてきたようだ。茎から逃げ出して、地面に落ちてくる。もしかして、リトリトの毛に擬態していたのか、じっとしていると、毛に見えた。
「はわわわわっ」
みな一目散に逃げていった。日陰が好きなのか、草むらに隠れるが、気持ち悪いので、もっと遠くに逃げてほしい。
「肉、さっき食べた肉、平気だったよね? 私ちゃんと焼いたし、すごく切ったし」
毛に付いていただけで、ヒルのような虫なのかわからないが、肉にあの茶色の毛はいなかった気がする。
前にフェルナンからもらった尾っぽには、寄生虫はいなかったと思う。いや、思いたい。尾は長い針になっているため、寄生虫は擬態できず、尾にはいなかったのかもしれない。
野生、怖すぎる。しかし、これが現実だ。家畜ではないのだし、それくらい当然だ。
だが、直視するのは憚れる。
「気持ち悪いよお。でも、寄生虫とか、普通にいるよね。魚とかで寄生虫にやられたって、SNSで見たことあるし」
虫の卵などがあるかもしれないのだから、しっかり焼く必要がある。カンピロバクターも怖い。調理にも気を付けて、念入りに焼くしかない。フェルナンたちは食べていたのだから、大丈夫だろう。
「手袋を編もう。軍手。軍手だ。厚手の軍手。せめて、手で触らないようにしないと。狐みたいに、エキノコックスとか持ってたら、怖いしね」
なんでも素手で触らない方がいいかもしれない。土を掘るのも、素手で触らないように工夫しよう。
逃げていった小枝たちが、側にいた鳥に食べられるのを見て、自然は怖いな。と心から呟いた。
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