25 コロッケ
ツンデレフェルナンと、少しだが仲良くなれた気がする。
おかげで必要な物が購入でき、お金の数え方も教えてもらえた。これだけで、随分とまともな生活が送れるようになる気がする。
なんといっても、蝋燭。家にあった蝋燭は使い切ってしまったため、今まで松明で過ごしていたのだ。月の光がある時はそれを明かり代わりに。ない時は、裏庭で火を焚いて、その火で作業を行っていた。原始だ。原始の生活は、目が悪くなりそうでしかたない。
だが、ここで蝋燭が手に入った。そして、それに付属する金属も。
蝋燭が入っている金属の入れ物があれば、それを再利用し、オイルキャンドルが作れる。
植物の種を絞るなどして抽出する油だ。食事にも使えるし、オイルキャンドルにも使える。植物油であれば、髪の毛に艶を与えることもできる。椿油などが良い例だ。
「どれを作るにも布が必要だから、織り機ができてからのあとで作るものになるね。種もまだないし。これは今後の製作物」
それでも夢が膨らむ。織り機の材料ができるのが待ち遠しい。組み立て、糸で織り終えるまで、相当時間がかかるだろうが。
だが、下着問題。まだ解決していない。
今は、パンツが毎日一緒である。この苦しみ。毎日洗うとはいえ、許されない。
チューブトップは肩紐がないのが心許ないので、肩紐をつけた。かぎ編みで作った、ブラ紐である。これだけでなんという安心感。糸の素晴らしさよ。今後も糸を作り続けなければならない。
「さて、本日は、肉も野菜も余裕があるので、糸作りに専念したいね!」
糸を作るためのザザの茎を再び刈ってきたので、前回同様、煮ることにする。水につけた糸作りは時間がかかり、思ったより簡単に繊維が取れなかったので、煮た方が早いとわかった。そのため、今日も外で鍋を煮て、茎から繊維を取る。
そして、そのいらない茎を格子状にしてツルで固定し、机のように足を四つ付けた。茎を煮ているその上に作った机型を入れる。水がそこまで浸らないようにして、その格子状の机型の上にじゃがいももどきとにんじんもどきを乗せる。それから、鍋の蓋をした。
「ふ、ふふ。これで、蒸し器になるのだ。ふははは!」
一石二鳥。蒸し器がないなら、枝でできるじゃない。
木のケーキクーラーのようなものだ。これで蒸し器代わりになる。ザザの茎はセロリ臭しかしないので、そこまで臭くならないはずだ。多分。
なぜ野菜を蒸すのか。それは、
「コロッケを作るからだー! いえーい!」
リトリトの肉を細かくし、じゃがいももどき、にんじんもどき、玉ねぎもどきを細かくし、混ぜて塩で味付けし、小麦と卵、硬いパンでパン粉を作り、油で揚げる。
……揚げたいが、揚げるほどの油がないので、正直どうなるかわからない。
だが、卵のあるうちに調理したいのだ。卵の賞味期限がわからないので、早めに五個使う必要がある。ふんわりオムレツが食べたかったが、日本の卵ほど安全とは思えない。固めのオムレツなど嫌だ。ならば、ゆで卵にでもしようかと思ったが、それよりも料理に使いたい。思いついたのが、コロッケである。
ただ、生っぽくなるのは困るので、先にミンチにした肉を炒めておく。その薄い油でコロッケの衣を焼くのだ。揚げるのではない、焼くのである。
「あー、いー匂いしてきた。セロリ臭。セロリでじゃがいもとにんじん蒸したら、どんな風になるんだろ。すっきりした感じになるかな?」
薪をくべて、火を調節する。最近、庭での焚き火にも慣れてきた。
ちまちま薪になる枝は取ってきているが、こうやって作業にやたら薪を使うとなると、保存する分が追い付かない。
冬前に薪を取りに行くことになっているが、それより先にもう少し薪を増やしておきたいところだ。
家の側面に置かれた薪置き場は、まだ置く場所がたくさん残っている。おそらく冬はこれに全て乗せる必要があるのだろう。
「お風呂作ったら、こんなもんじゃ足らなそ。ただでさえ、一日で何本使ってる? 計算しなきゃダメだよね。冬って、どれくらいの長さなんだろ」
まずはそこからだ。最近使徒を見かけないので、本はあれから増えていない。また現れたら、その辺りを聞いておかなければ。
なにせ、神出鬼没。次にいつ現れるかもわからないのだから。
一瞬、このまま使徒が現れなかったらどうしよう。そんな不安にかられた。
今は何度か顔を出し、話し相手にもなってくれているが、それも続くのかわからない。
「あ、いかん。すぐアンニュイな考え方を」
希望なんてない。未来などないのだから。だから、今できることを、そのまま楽しむだけ。未来のことは考えない。不安になっても仕方がないから。
それでも、周りから人がいなくなっていく。
子供の頃、小物を作る友達が、隣にいた。小さなパーツは病院内で無くすと良くないからと、ビーズアクセサリーのようなものは作れなかったが、羊毛フェルトや毛糸などで小物を作ることは許された。
布の端切れで可愛らしい小鳥の置物を作ったり、つまみ細工で髪飾りを作ったり。器用なことをする隣人の影響で、小さな頃からハンドメイドに触れた。
退院しても、再び入院すれば、まだその子は同じ場所にいた。ずっと、同じ病室。増えていくのは、彼女が作った小物たち。
長く一緒に入院しても、あの子は退院することはなく、そして、急にあの子はいなくなってしまったのだ。
あの子が残した道具や小物を、少しだけ分けてもらった。それから、次に来る子たちに、それをあげるようになった。
続くものなんてない。あの頃に、それを諦めた。
「でも今は、あの子のおかげで色々作れるからね」
あの子がいなければ、この生活もできなかっただろう。続けていれば、なにかに役に立つものだ。諦める必要は、もうない。
「はい、野菜をほぐすよ! あー、ミキサー作れないかな。今後使うよ。すり鉢とかもいるけど、ミキサーいるね。刃物つけて、ぐるぐる回せればいいのよ。結構簡単じゃない? 棒をぐるぐる回して、刃物がテーブルに平行に回るには、歯車が必要で。いや、紐で引っ張るやつの方が作るの簡単か?」
包丁で野菜をまっしゅしながら、ぶつぶつ呟く。最近の独り言は結構声が大きめだ。誰も聞いていないので、気にすることがない。
紐を両方から出して、右を引っ張れば左の紐が戻り、左を引っ張れば右の紐が戻る。それを交互に行なって、刃物をいくつかつけた棒がぐるぐる回り、ミキサーとなる。
「できるのでは!?」
小躍りしたくなる。ミキサーができれば、草などの粉砕も簡単にできて、紙を作るのが簡単になる。
「決まったわ。樽に刃物付けた棒入れて、紐を付けて、両方に引けるようにして。できちゃったわ。これでミキサーだわ」
紙があれば、色々拭ける。何が拭けるとは言わないが、色々拭けるのである。
「でも紙はなあ。均等にならすための、つなぎのなんかがないと。繊維だけじゃどうにもなんない。小麦とか使いたくないし、ねばねばがないと。とろろ芋みたいなので、つかないのかな。いや、長芋が落ちてたら、私が食べるや」
木の根などで代わりがきかないだろうか。またあちこち掘って、試す必要がある。シャベルも手に入れたので、効率よく行えるだろう。
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