22−3 お金
下から、一ジル。これは持っていなかった。十ジル。卵のお釣りでもらった。ジルは黄色味の強い銅色。中、大サイズ。
一ドレ。青銅色、小サイズ。十ドレ。ノコギリが四十ドレだった。赤銅色、大サイズ。百ドレ。白銅色、大サイズ。ドレは全て色が違い、サイズは小、大、大になる。
一ガロ。銀色で小サイズ。
一オル。白銀、小サイズ。蝋燭の店で出すなと言われたコインだ。
他に、ダズがあるらしい。これはコインではないそうだ。
「ジル、ドレ、ガロ、オル、ダズ」
単位が多い。なぜ全て円で統一しないのだ。一十百千万でいいだろうが。覚えられそうにない。コインを順番に置いておく必要がある。
しかし、ずいぶん種類があるとは思っていたが、鳥三羽を購入した百ドレの上に、ガロ、オル、ダズがある。
一ガロは百ドレ。一オルは一千ドレ。
単位はわかった。だが、価値がわからない。一千ドレまであるならば、桁を間違って考えていたかもしれない。百ドレは一万円だと考えた方が良さそうだ。
百ドレが一万円だとしたら、一ガロは百万円。一オルは一千万円。ちなみに、一オルは三枚ある。三千万円??
なんだか震えてきた。そんな大金、持ったことがない。
フェルナンは、今度は呆れたようなため息を吐き出した。金庫の代金は0・二ガロ。銀色の、五十円くらいのサイズのコインだ。サイズから言って、五十円くらいだと思っていたコインである。百ドレが五百円玉小のサイズなのだから、五十円だと思っても仕方ないだろう。
絵はカンガルーのような絵が刻まれている。もしかして、ガロガだろうか。ガロガが百万円するとか?
百ドレを二十枚渡して、苦笑いをしておく。フェルナンの無表情の視線よ。なぜ感情のない顔をしているのに、視線が鋭く痛いのだろう。
「金物屋で話を聞いていておかしいと思ったが、金の価値をわかっていないのなら納得だ」
「おかしかったですか??」
ノコギリなどを買った時に、すでにおかしく思われていたのだ。なぜだ。何かヘマをしただろうか。
「小娘が三百ドレ近くを、ほとんど迷うことなく使う。どこの豪商の娘だと思われただろう。自分で作るとか言いながら、それだけの金を一度に使うものだから、店主が混乱していた」
「まずかった、ですか?」
店主が慌てていたのは、そのせいだったようだ。フェルナンを恐れていたわけではない。恐れていたのだろうが、玲那の金の使い方がおかしかったのだ。
三万円くらいなら、高校生でも一度に払うことはあると思うが。高額な買い物などしないので、よくわからない。三万円を一気に使うことなど、自分の人生ではなかった。そう言われると、高額かもしれない。ゲーム機でも買えばそれ以上するだろうが、玲那は買ったことがない。
うーんと唸っていると、もう、フェルナンは諦めたようにしなだれた。話しているのも疲れると言って。
「農夫の月給は、二百五十ドレ程度だ。もっと少ない者も多い」
「はい?」
「はい? じゃない。この辺りに住む村人たちの平均月給は、それ以下だろう。あんたは、一度の買い物で、三百ドレ近く使った。給料一月分以上の金額だ」
シーラは鳥を三羽売って、百二十ドレ手に入れていた。鳥の成長を考えれば、月に何羽か売れるだろうが、そこまで多くの鳥を飼っているわけではない。それを考えれば、そのくらいの月収でもあり得た。
「それじゃ、斧も買えないんじゃ」
「新規購入するのは、中流以上の商人たちだ。下町の人間は、古びたものを使っている。直し直し使っているのだから、何十年も同じものを整備して使っているんだろう。多くのことを自分たちで賄っている。買い物なんてしない。あんたと同じことをしているだけだ」
たしかに、玲那は森でほとんどを賄っている。できるだけお金を使わないように生きるつもりだ。やろうと思えばやれるだろう。初期投資と思って奮発したのだから、その月給でも生きていけるかもしれない。
それでも、一気に買いすぎたのだ。
「村に住んで、森に材料を探しにいきながら、一オルを持ち歩いている。しかも、何枚も。強盗に襲ってくれと言っているようなものだ。金を使ったことがないのか!? 他国の人間でも、両替したのならば、金の価値はわかるだろうが」
事実を指摘されて、どう誤魔化せば良いのか、頭の中がパニックになりかけた。
異世界人だと知られるわけにはいかない。それが最重要項目で、それに似合う誤魔化し方は、一つしかなかった。
「ほとんど使ったことないです。ずっと病気で、寝てばっかりでしたので」
「あんたが? そんなに元気なのに?」
フェルナンが鼻で笑う。今の玲那を見たらそういうのは当然だが、嘘は言っていない。お金を使う機会は少なかった。電子書籍は自分で払っていないし、服を購入するにも、ごくたまに。なにせ、出かけると疲れすぎて倒れてしまうこともあるため、親と一緒に出かけていたからだ。
「昔は、いつも寝てるくらいには体が悪かったんです。今は違いますけど。奇跡的に、復活したので」
「馬鹿馬鹿しい」
馬鹿馬鹿しいと、玲那でも思う。だがそれは事実で、玲那は復活し、新しい体を手に入れた。健康で、病気にならない、夢のような体だ。
「それで、元気になって、金をもらって一人暮らしか? 娘一人で?」
「んー。まあ、もう誰もいないので」
いなくなったのは自分だが、彼らは病気の娘を手放すことができた。自分もまた、彼らと離れ、一人で生きていくことになったのだ。苦労のある一人暮らしだが、案外悪くない。
あの頃が思い出せないほど、今は健康で、病を知らない体だ。前の体であれば、ここでのたれ死んでいる。どこで死のうと結局は一人なので、何も変わらないだろうが。
「そのお金、貰い物なんですよね。なんだろう、保証人? 違うな。身元引受人みたいな人からもらって。使い方、教えてくれなかったんですよね。私の全財産だと言っていたので、それで、できるだけ使わない方向でいこうと思っていて」
思った以上に入っているようなので、使徒を罵ったことは謝りたい。
それでも、今のところ必要な物以外に使うことは避けたい。森で何かしらの材料を揃え、製作することが楽しいこともある。
「……どこかの貴族ではなければ、商人の娘かなにかなのか?」
「商人、って言えば、そうなるのかな」
こちらの商人ではないが。父親は商社に勤めているので、似たようなものだろう。
「ところで、お腹空きませんか? 私の料理でよければ、なにか作りますが」
「いらない」
返答が早すぎるのだが。
フェルナンは地下倉庫のハシゴを登ることなく、軽く手を添えてジャンプしただけで登ってしまった。身体能力どうなっているのだろうか。
灯りがだんだん薄くなったので、ハシゴを上る。待っていたフェルナンが、手を伸ばした。デレすぎないか?
「ありがとうございます。今日は、とっても助かりました。お金の数え方も教えていただき、ありがとうございます。そしてついでと言ってはなんですが、またなにかあったら聞いていいですか?」
わからなかったら、なんでも聞くと思うが。付け足すと、フェルナンの変顔が見られた。ゲテモノを見る目よりひどい、汚物を見る目だった。美形が変顔をしても、ひどく見えないのは理不尽である。
「本当にお昼食べてきませんか? 作るのにちょっと、結構、時間かかりますけど。お城に帰ってご飯食べるより、早く食べれると思いますけれど」
せめてそれくらいの礼はしたい。フェルナンが普段何を食べているのか知らないので、逆に罰ゲームになるかもしれないが。
「いらない」
即答して、フェルナンは玄関へ向かう。
残念だが、これ以上引き留めてはただの嫌がらせだ。また今度なにか返す方法を考えよう。
そう思った時、お腹が鳴った。
玲那ではない。
「今すぐ作りますので、お待ちいただければ」
背後から囁いてみれば、フェルナンの耳が真っ赤に染まっていたのが見えた。
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