18−2 ビットバ
皮を使っているため、カゴの網は平べったく、ツル草で作るよりずっと形がいい。ツル草は雑草レベルで生えているので材料には丁度いいのだが、形が歪になりやすいのである。
おかげで、背負ったカゴの中に重ねて入れることができる。そのうち、ショルダーバッグも作りたい。カゴを作り、肩から下げられるようにできれば上出来だ。
「お、これ、ニギスじゃない? ニギスは、傷にいいよって書いてあった。生の葉っぱがいいらしいから、根っこから取って、畑の隅に植えよう」
よもぎのような葉を持つニギスの草を、スコップがわりの石で掘り、土ごとカゴに入れる。大きな葉っぱを折り紙のように折って箱にし、敷いてあるので、そこまで土は落ちない。ちゃんと考えている。背負ったカゴで戦う時は、大変なことになるが。
弓矢も必要だが、草木をかき分けるのに長い棒を持ち歩こうか考えている。先を尖らせて、最悪突き刺せるものだ。
物騒だと思うなかれ。この森の中の獣は、本気で怖い。
座り込んでニギスの葉を根から取っていると、後ろでガサリ、と音がして、咄嗟に地面に置いたナタを握った。
「あんたか」
目の前にあるのは、銀の輝き。
あと少しで、そのまま真っ二つにされるところだった。
「ふぇ、るなんさん」
振り落とす気満々の剣が、頭の上にある。フェルナンは舌打ちをして、剣をしまった。
腰を抜かすかと思った。心臓が早鐘を打っている。口から飛び出しそうだ。
気配なんて、まったく感じなかった。足音もなかった。それなのに、すぐ後ろにいて、茂みから剣を振り下ろそうとしていた。
怖すぎる。
「なにをしている」
「草、掘ってます」
いくつかの草を根ごと掘り出し、カゴに入れている状態を見て、フェルナンは目を眇めてから視線を逸らした。
そして、無言で踵を返す。見なかったことにしようとしている気がする。雑草を大切に掘り起こしていると思っていそうだ。
「今日は、お一人ですか?」
「離れているだけだ」
誰と言わず、一言返してくる。オレードのことを聞いたわけではないのだが、ツンの返答は早い。
オレードがいればもう一度お礼を言おうと思ったが、近くにはいないらしい。フェルナンはどうでもよさそうに、さっさと離れていく。
ツンデレな彼のデレは、中々見ることはできない。
無理に声をかけて、フェルナンの邪魔をしてもなんなので、お気を付けて~と、一応声をかけて、再び座り込む。気を付けるのはこちらだろうが、巨大な魔物を相手にするのだろうし、挨拶くらい良いだろう。
魔物図鑑を見る限り、魔物カテゴリーであるだけ、各々の攻撃の仕方が激しい。炎を吐くやら、雷を出すやら、砲丸みたいなものを吐き出すやら、川からこちらには絶対来てほしくない化け物ばかりだ。
それらを相手にしている討伐隊騎士。無事を祈りたい。十メートルを超える化け物の相手をしているなど、想像できない。
「おい」
「はいっ、なんでしょう!?」
土を掘っていたら、フェルナンが戻ってきていた。頭の上で呼んで、眇めた目でじっと見てくる。
「な、なんでしょう??」
「なにを取っているんだ」
「薬草です。傷薬に使うんです」
「それが? そんなものが?」
疑いのまなこが突き刺さってくる。しかし、本に書いてあったので、草を間違えていない限り、合っているはずだ。
こくこく頷いて、そっと前に出して見せてみる。眉を傾げてくるが、見てもわからないと真顔で言われた。
使徒と同じく表情がないが、目を細めたりはしてくる。眉を傾げるのは、たまにだ。今も真顔に戻り、ただじっとこちらを見下ろしている。
なにかご用でしょうか??
「あの?」
「それは、弓か?」
「え、はいはい。自分で作りました」
「自分で? 金があるのに、使う気がないのか?」
「ええ、まあ」
「なぜ?」
「なにかあって、本当に使わなければならない時に、お金がなかったら、困るので」
「稼ぐ気もないのに?」
「働くのは、おいおい。今のところは、自作できるものは自作したいので」
「なぜ?」
「なぜって」
異世界人だってバレたくないからだよ!
とは口にできない。とりあえず笑ってごまかすが、フェルナンは表情なく見つめてくるだけだ。
なぜだろう。使徒に比べて、無言に圧迫感がある。
「どこか働く場所でも紹介してくれるんですか?」
「しない」
即答して、フェルナンは再び踵を返した。ツンすぎる。
なにか変に思われているのか。直視されると、ドキドキしてしまう。間違っても、ときめきではない。そのまま剣でぶっ刺されそうで怖いだけである。容赦無く、斬り捨てられそうだ。
フェルナンの持っている剣は、全てが銀色のもので、柄まで銀色だった。まばゆいほど煌めいていて、周囲の景色が反射しそうなほどだ。
かっこいいが、握っていて滑らないのだろうか。家の包丁が柄の部分まで同じ金属でできたものだったが、あれを使うのは苦手だった。滑るので、どんどん握る手が刃の方にずれてしまうからだ。戦っていて、そうなったりしないのだろうか。
それにしても、おしゃれな剣だった。左右対称の真っ直ぐな剣ではなく、うねりのある、不思議な形をした剣だ。
「イケメン専用、おしゃれけーん」
「おい」
「ひゃいっ!」
三度目の声かけに、さすがにびくりとする。今の、聞いていただろうか? 変な声を出して返事をすれば、また間を取ってくる。やはり聞かれていただろうか。いや、イケメンの意味はわかっていないので、大丈夫だ。きっと、内心、なんて声出すんだ。この女。とか思っているに違いない。
「あの、なにか?」
「ここから先、正体の知れない獣がいる。近寄るなよ」
「正体の知れない?」
「木々が不思議な状態で倒されていた。魔物かもしれない」
「魔物!?」
その言葉に反応しつつ、ハッとする。木々が、不思議な状態で、倒されていた?
その話、知っている気がする。
「あんた、香木は持っているか?」
「香木? なんですかそれ? なにも持ってないです」
「ちっ。荷物を持て。森の外に送っていく」
「え。え??」
舌打ちすると、フェルナンが突然玲那のカゴを持ち上げた。土のついた草が揺れて、土が落ちる。フェルンのマントにそれがかかった。
「持ちます。持ちます!」
マントが土で汚れてしまうではないか。
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