18 ビットバ
手作りの矢が、へろへろと、狙いとは違った場所へ飛んでいく。
「難しいなあ」
先日、再び森の中でリトリトに出会った。
前回と同じく、リトリトはみゃうみゃう言いながら、一点を見て無心で食事をしていたのだが、後退りして戻ろうとした時に気付かれてしまったのだ。
尻尾を振り回して飛んできたので、それを倒すのに散々な目に遭ったのである。
獣用ではないが、ナタを持っていた。それを振り回すのは至難の業だと知ったのは、その時だ。
ナタを振り回すには、玲那の筋力では重くて難しい。そして、リトリトを相手にするには、柄が短い。そのため、リトリトの針を受けてしまう。結局カゴで叩き付けて、その隙に逃げた。仲間が集まってきたらどうにもできない。せっかく拾った草や木を落として、なんとか逃げることができたのだ。
次に会った時、網でも作って確保しようかとも考えたが、鳴いて仲間を呼ばれたら同じだ。
仕方なく、もし襲われた時は、カゴで戦い。近くにいて気付かれていない時は、先手必勝。弓矢で倒すことにした。わけだが、
「そんな簡単に、弓矢が作れるわけがないという」
糸があるので、弦を作ることはできるのだが、何本もよって太くしなければならない。もったいないので、もう一度糸の材料、ザザの茎を取りに行き、繊維を細くせず、弦にした。
弓の部分は、しなる木の枝を使っている。枝なので上下太さが違うため、鋭い石を川で拾って石斧がわりにし、枝を削った。木を削るのはかなり骨が折れる。失敗すると、棘が刺さる。実際刺さり、それを取るのに苦労した。
バイキンが入らないようにお湯で洗ったが、熱湯をかけられるわけでもないし、消毒もしていないので、少々不安だ。傷薬となる薬草も探さなければならない。
それはさておき、弓の形になるように枝を真っ直ぐに削り、真っ直ぐな枝ができたら、中心から外に向かい斜めに削る。これが大変だった。上と下が歪になってしまってはいけないので、均等に削っていく。
川から拾った色々な石を駆使し、枝を削り続けて形を整えた。
そして、持ち手の部分にザザの茎の繊維を巻いて、持ちやすくする。引けばさらにしなる程度に余裕を持たせ、弦を結ぶ。弓の出来上がりだ。
矢は、若木を使った。森には芽を出して数年の木が伸びていることが多いため、それを手に入れた。本数はないので、代わりになる物を今後も探す必要がある。その若木の細かい枝は落とし、できるだけ直線になるように削る。矢尻は鉛筆を削るように尖らした。原始の矢の作り方など知らないが、矢尻は骨などを使うのだろうか。弓道では鉛のようなものが付いている。番える部分は切り身を入れて、隙間を持たせた。
それなりに重みもあり良いかと思ったのだが、そこまで飛ばない。羽も矢尻もないのだから当然か。
「羽がついてないから、真っ直ぐ飛ばないのか。矢が重すぎる? それとも、弓が悪いのかな」
飛ぶは飛ぶのだが、真っ直ぐ飛ばないし、速さもなく、距離も稼げない。リトリトに気付かれず矢を射ったとして、尾で弾かれそうだ。
羽をつける必要がある。
鳥から奪うか。それしかないか。
「鳥いたら、めちゃくちゃ追い掛けるしかない。それで羽落っことしてくれないかな」
鳩が地面の餌を啄んでいる時に、子供みたいに突き抜ける、あれである。あれで羽を落としてほしい。三枚くらいでいいので。
この森は鳥の種類が多いのだから、その辺に羽が落ちていてもおかしくない。しかし、草も多いので、見つけたことはない。同じ種類の羽でなければならないので、三枚良い状態で落ちているのは見つけられないかもしれない。
どこかに巣でもあれば、その辺を毎日うろつくのだが。
「巣の側行ったら、襲われそうだけどね。ここの森の動物、みんな逞しいし、すぐ攻撃してくるし」
カラスのように急降下してきて頭を攻撃されたら、もうぼろぼろである。秋に子育てはしないと思うので巣はないだろうが、凶暴ならば近付いただけでリトリトのように怒って飛んできそうだ。
使徒がくれた、もしもの時の、ビッとバッの道具は、森の中で試してみた。
通称、ビットバ。
右手を振ったら出てくると言われたが、どんな風になるのかわからず、とりあえず森の奥で試すことにしたわけだが、頭の中で、ビュンっとレーザーみたいなのが飛ぶのかなー。なんて思い描きながら右手を振ってみたら、本当にレーザーのような鋭い光が出て、木々を薙ぎ倒した。
鳥たちが鳴き喚き、羽ばたいて、急いで逃げていく。近くに獣がいたのか、一斉に逃げ出した。一瞬で辺りはシンと静まり、音が消えた。
震えて逃げたのは、玲那も同じ。一瞬で森を破壊してしまったのだ。急いでその場から逃げ去った。
「あの使徒さん、私に異世界人だって触れ回れって言ってるんじゃないのかな!?」
魔法であんな攻撃ができるとしても、威力が凄まじすぎる。それこそ、蜘蛛もどきのギノバを一撃で倒せるだろう。倒すどころか、糸が取れる巣も破壊しそうだ。オレードやフェルナンに見られたら、それこそ終わりである。魔法は使えないと伝えてしまっているのだから。
あまりにも派手に木々を薙ぎ倒したので、ビットバの練習はやめておいた。次やる場合は、もっと遠くの森でやりたい。さすがに家の近くの森で木を何本も倒したら、二人におかしいと思われる。かなり遠くで行う必要があった。なんなら、川の向こうの、森の中。
だが、しばらくはやめておく。危険すぎる。木を薙ぎ倒したのが自分だと知られてはならない。
弓矢は背中のカゴにしまい、薬草を探すことにした。今日は、魚釣りは休みだ。
オレードの礼の木箱には、野菜と種、加工された肉までも入っていた。おかげで食料には事欠かない。しかも、井戸用の取手のある桶もあったのだ。もう正座をして、深々とお礼を言いたい。あれから会っていないのだが、なにをお礼すればいいのか、今でも考えている。
「こっちの人がなに喜ぶかなんて、なんにも思い付かない。どんな生活してるかも知らないしなあ」
草を見付けて、カゴに入れる。小さいカゴも手作りした。その辺の木から取った柔らかい皮を均等な長さにし、編んだのだ。竹のような色をした木で、硬く、縦に裂くのは簡単な木の枝である。
あちこちの木の皮を剥いで見付けたものだ。森を壊す迷惑行為だが、使えるとわかったので今後も行う。オドという名前の木だ。枯れない程度に皮を剥ぎたい。
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