14 作業
糸作りが始まった。
「はい。これから、糸作りです。ひゃほー! 大変だぞー! できるのかー!」
一人テンションを上げて、袖をまくる。なんといっても、材料が手に入ったところで、この材料をどうやって処理すれば糸ができるかが、さっぱーり、わからない。
採ってきた糸の材料は葉ごと刈ってきたが、使うのは茎だろう。身長は玲那より大きく、およそ二メートルの物を、できるだけ刈った。ツルで束にしておいて良かった。そうでなければ、リトリトに襲われた時に、あちこちカゴから落としていただろう。
背負っていたカゴの中には、リトリトが食べていた実も入っている。こちらも結構な数だ。
植物辞典を確認して、食べられることもわかった。今は水に入れて、沈むのを待っている。浮いてきたものは、虫食いか、中身が少ないものなので、捨てる。沈んでいるものだけ綺麗に洗って、後で茹でるか炒るかして、皮を剥いて食べよう。
さて、糸作りである。
「繊維があるのは、茎だよね。この葉っぱは取っちゃってよしと。葉っぱは食べられるんだよね」
刈った草はザザという名前で、里芋の葉っぱのように、長く太めの茎に丸い大きな葉が付いている。匂いは強く、セロリのような独特の香りがする。おいしくなる気がする。
生で食べてみたいが、寄生虫などが怖いので、後で軽く湯通ししてみよう。おひたしにするなら醤油がほしいところだ。衣があれば揚げたいが、小麦がないのでできない。酢漬けにでもしたいが、酢もないのでできない。
せいぜい肉巻き用のがわ用だろうか。玉ねぎもどきとにんじんもどきと一緒に、サラダにするしかないか。
それでもこんなに量はいらないが。全部の葉を取れば何枚になることか。
「匂い消しに使えるかな。乾かして、ポプリにする? セロリ臭ポプリ。臭いかな。脱臭とかしてくれないかな。水入れて、セロリ水にする? 乾かして刻んで、お茶にする? 飲んだらまずいかな」
一通り考えながら、茎と葉を分ける、案外茎が硬い。試しに茎の表皮を剥こうとしたが、硬くて剥けないほどだ。
「これは、腐らせたりしなきゃダメかな。鍋で煮るか、蒸すか、水に入れて、日光に当てて発酵させる? もしくは、川で水にさらし続ける?」
皮を取るには、柔らかくする必要がある。ナイフで削ってみたが、そのままで皮と繊維を別にするのは難しそうだ。
「仕方ない。いくつかに分けて、色々試そう。まだたくさん生えてたから、少しくらい無駄にしても平気でしょ」
今思い付くのは、煮るか、蒸すか、水につけて放置するか、川に沈めておくかだ。
蒸すには蒸し器がない。お湯を沸かすのはいいが、その上に乗せる物がない。蒸すのは無理だ。川に沈めるには網が必要で、網を使わないのならば、石などで流れないように、井堰を作る必要がある。これは少々面倒だ。
煮るならば、鍋のサイズにしなければならない。糸を作るのに短くしたくない。しならせて丸めて鍋に入ればいいのだが。水に晒すにも同じく、入れ物が桶しかない。直線では切る必要がある。
「井戸水、桶に入れて、少し揉んで柔らかくなるかな」
深さの浅い桶を使い、そこに水を入れて、茎を入れる。このままの長さで繊維を取りたい。短いと糸として使うのには面倒だからだ。
少しずつ水につけて、もみしだく。そうすると、若干柔らかくなり、丸まって桶に入るようになった。
これならば、切らずに煮ることもできるし、水に漬けておくこともできる。今回はこの方法を試そう。
鍋にもお湯を入れて、茎を茹でることにした。沸騰には時間がかかるので、お湯を沸かしながら茎を柔らかくしたい。かまどまで行くのも面倒なので、井戸の側に石を組んだ。風で灰が飛ばない程度には離れておく。井戸に灰を入れないためだ。
「大変だあ。これは手が荒れるね。クリーム欲しくなるね。クリームかあ。油、蜜蝋。ハチミツってあるかな。蜂、いるかな。花があるんだから、花粉運ぶ虫はいるでしょ。蜂蜜集める虫もいるでしょ」
いたところで、蜂の巣を取る気はないが。こちらにミツバチがいても、スズメバチレベルで強そうである。怖い。
せっせと茎を濡らして、柔らかくし、枝を丸く巻きつけて、別の桶に入れる。水が沸騰したら、柔らかくなった茎を入れて、しばらく煮込む。料理用の鍋だが、目を瞑る。他に使える鍋はない。一番大きい鍋は早々使わないので、作業に使うことにした。
また、別の茎は水を入れて、桶に漬けおきした。日光に当て、発光させる。一週間以上かかるだろうか。放置だ。
どちらがうまく皮が取れるか。皮が取れても、繊維の表裏につく薄い皮が残らないように、全部削ぎ落とす必要がある。繊維が切れないようにするので、たわしがほしい。
もらってきた、リトリトの尻尾が役に立つかもしれない。
「束にして、長い剣山みたいにすれば、タワシ代わりになるかな?」
そうするには、あまりにも鋭すぎるか。なんなら、横に並べてツルで繋ぎ、くし代わりにできるかもしれない。自分の髪の毛に使うのではなく、繊維をとかす用だ。繊維の状態によるだろうが、くしを使って繊維を細く分けられるかもしれない。
「たわしは、キッチンにあるけど、あれは使いたくないしな。ツルをぐるぐる巻いて、タワシ代わりにしてみようか」
ツルが万能すぎる。こちらにきてから、一番役に立っている植物だ。
しばらく茎を濡らしてほぐしながら、煮込んでいる鍋の薪を入れ、茎も確認していると、すぐに日が暮れる時間になった。早いものだ。
「時計ほしいなあ。日時計作ろうかなあ。お日様ある時に、影がどのくらいになるか、チェックする?」
この時期の日の長さを記録して、来年また同じ時期になったら、今年と同じように糸の茎を刈ったり、木の実を採ったりするだろう。そのための日数は知っておきたい。
「石にでも記録した方がいいか。はー、原始な生き方だな。古代の人は偉いよ」
ずっと座って作業をしていたので、足は痛いし、腰も痛い。外で作業するには、椅子が必要だ。
「釘ほしいなあ。ノコギリもほしい。ノコギリないんだよね。斧と、ナタだもん。斧で薄い木、切れないしな」
釘なしで木々を組むにも、繊細な切り方のできるノコギリが必要になる。もし、糸が大量に取れて使えるようになったら、簡単な織り機もほしいのだ。それには、真っ直ぐな棒や薄い板がいる。
「さすがに木材は購入したいな。もしくは、まともなノコギリか、カンナか。糸ノコほしいなあ」
電動糸ノコギリなどないので、やはり手作業になる。手作業で、どこまで薄い板が作れるだろうか。
「そういうのは使わないで、織り機作れるかなあ。交互に糸入れて、上下に動かせて」
服を作るならば、穴が開かないように布を織る必要がある。
その昔、おもちゃの織り機を使ったことがある。小学生ができるはた織り、とかぬかしていたくせに、縦糸を繋げるなどの工程がとても難しかった。その頃は使えなかったが、中学生くらいになれば使えるようになった。あのはた織り機がどんな形をしていたか思い出せば、同じようなものは作れるだろうか。
織り機が作れれば、布が作れる。
ざらつきのある糸で作る下着はつらいので、今回の茎で下着用の糸が作れるだろうか。一番欲しいものなのだが。
「他にも、糸になりそうな植物探した方がいいかな。時期的に、今しか取れないものとかあったら、取っておきたい」
また植物辞典と睨めっこだ。できるだけイラストを頭に入れる。糸の材料だけではない。なにかしら使えるものがあれば、なんでも記憶しておかなければ。
「さて、お夕食。今日は何を食べようかなあ」
そろそろ別のものが食べたいが、まだまだ我慢は続く。リトリトの肉を食べられたので、よしとしよう。
リトリトが食べていた木の実は、すでに水から取り出してある。殻を取ってみれば、生で食べられるのかわからなかったので、皮を剥き、炒めることにした。
今日も頑張った。夜も頑張って作業だ。
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