12−4 リトリト

 オレードとフェルナンは、この辺りの管轄で、二人で警戒しているそうだ。

 川向こうと言っても、そんなに奥に行くことはなく、川からこちらに魔物が近付いていないかの確認をしている。川向こうには魔物が入ってこないようにするための仕掛けがあり、それが壊れていないか、近くに寄ってきていないかを見ているそうだ。群れで近付いてくることもあるので、その時は退治する。


 時には奥に入り、魔物が増えていないかも確認し、増えすぎているのならば間引きする。住む場所を増やされては困るからだろう。それで獣がいなくなってしまうかもしれない。害獣退治のようだ。この世界は、人と動物、魔物が共存している。


「じゃあ、この間は、遠征に行ってたんですか? 団体さんで戻ってきたのを見たんですけど」

 町に行った時、二人は馬もどきに乗っていた。何人も同じマントを羽織っていたのだから、皆討伐隊騎士だろう。周囲の反応は口にせず問うと、二人は突然口を噤み、お互いを見合った。


 なんだろうか。また変なことでも言っただろうか。フェルナンが口角を少し下げたように見えた。無表情だが、空気が凍ったような気がした。


「町で、僕らのこと見たの? 町の人から、僕らのことなにか聞かなかった?」

 それは、異世界人うんぬんのことだろうか。シーラたちの言葉から討伐隊騎士は嫌われているのはわかったが、それを言うなら、玲那自体の方が嫌われる対象である。

 それ以外に聞いたことはないが、二人の緊張から、なにか他にあるのかと不安にさせられる。


「なにかって、なんですか? 討伐隊騎士が、えー、ちょっとよく思われてないとかは、なんとなく、聞きましたけれど」

「それなのに、僕らと話してるから」


 オレードは知っているのに、気にしないのかというようなことを言う。

 むしろ玲那は拍子抜けした。そんなことで、空気が張ったようになったのか。

 町の人たちからどう見られても、関係ないような顔をして、馬もどきに乗っていたのに。


「気にすることなんですか?」

「それは、まあね。この国は、聖女に敏感だし、町の人たちは、討伐隊騎士にいい気持ちはないからね。村の人たちも同じだよ」

「それなのに、私に声を掛けてくれたんですか?」


 その言葉に反応したのはフェルナンだ。最初に声を掛けてきたのは、フェルナンだった。毒のある魚を手にしても、彼らが村の人々を蔑ろにしてもいいと思っているならば、声を掛けるはずがない。


「この国のことは詳しく知らないですけど、聞いた感じだと、昔の話ですよね。お二人だったら、親世代の話じゃないんですか?」

「そうだけれどね」

「それなら、関係ないんじゃ? お二人は、何もしてないんですよね? 私が助けてもらったのは事実ですし、それで、出生とか気にすることないですし、忌避する必要は、私にはないです」


 むしろ、異世界人であることがバレたら、こちらが平謝りすることになる。謝るだけでは済まないかもしれない。冷や汗が流れそうになって、平静を装うのが難しい。肉を食べて暑くなってきたので、その汗だと誤魔化したい。


 そこでフェルナンが肉を再び食べはじめた。オレードが小さく息を吐く。この話は終わりになりそうだ。

 玲那は内心安堵した。騙しているのはこちらだ。まだ悪いことはしていないので、見逃してほしい。


「これ、おいしかったです。全然関係ないんですけど、あの尻尾って、使われます?」

 玲那は、リトリトの、針山となった尻尾を指差す。フェルナンが切り落とした後、放置されているものだ。


「ほしいの?」

「毒とかなければ、いや、あってもいいかな。毒あれば、なんかの武器に使うし、なかったら、綺麗にして、なにかに使えるかなって」

「なにかって、なに?」

「縫い物するのに、押さえる針代わりとか、串物に作る時に使うとか。お肉刺せないかな。何か包むときの押さえにも使えそう。なにかしらに使えるはず!」


 玲那の力説に、オレードはまた吹き出した。笑いの沸点、低すぎではなかろうか。おかしなことは言っていない。

 奥二重の四角い目が、ふにゃりと緩んで、目尻が下がった。


「毒はない。持って帰る時、気を付けるんだな」

 フェルナンが素っ気なく言って、立ち上がる。足で焚き火用の石を崩して、土をかけた。もう出発するようだ。

「ごちそうさまでした。尻尾もありがとうございます。今度、なにか。お返しできることができたら、お返しします」


 今はなにもないので、お返しなんてまったくできない。今後に期待してほしい。

 礼だけ言うと、オレードはにっこりと笑顔を見せた。


「じゃあ、またご飯一緒に食べようか。森の中は色んな獣がいるから、気を付けてね」

 頭をなでられて、首ごとぐるりと回される。

 やはり子供扱いされているか、そのままポンポンと軽く叩き、オレードは手を振って川の方へ歩きはじめる。フェルナンはとっくに先に進んでいた。


 二人は、町の人たちの態度を気にしていないように見えたが、そうではなかったのかもしれない。

「いい人たちなのにな」

 フェルナンも態度はアレだが、親切な人だ。ツンデレに違いない。


「よーし。糸作りだ~!」

 お腹もいっぱいになったので、家に帰って糸作りだ。

「その前に、」

 リトリトが食べていた木の実を、持って帰ることにする。

 ただでは起きないのである。

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