10−2 異世界人

『見よ。空は虹色に光り、大地に花が咲く。世にも美しい女性が現れ、子らに慈悲と癒しを与えた』


「最初の人は、そんな現れ方したの? 私にやらなくて良かったよ!」

 聖女出現の冒頭だ。随分と神がかった話になっている。一人目は、いかにも神の使徒のように現れたようだ。


 女性は、癒しの力を持っていた。村人の傷を癒やし、病を治した。町に行けば、死の寸前の町人を治した。名声は轟き、多くの者たちが、その町に訪れた。

 女性は癒しを与え続けた。


「お医者さんとかじゃなくて、魔法みたいなの持ってたのかな?」

 玲那の世界とは違う世界から来たのかもしれない。使徒のミスは他の世界でも起きているのだろう。そう思って納得する。


「『人々は、女性を聖女と敬い、崇めた』まあ、そうだよね。誰でも治しちゃったら、神様ってなるよね」

 聖女は一人の男に出会った。男は戦争に行くことになり、聖女もまた、戦地へ赴いた。人々は聖女を讃えた。

 戦いは困難を極めた。多くの者が、戦いの中、聖女に癒しを得る前に死んだ。

 戦いの途中、男が死ぬと、聖女は癒しを止めた。


「好きな人が死んじゃって、ショックで癒せなくなったってこと? 癒すの、嫌になっちゃったのかな? 『戦力は下がり、戦いに敗れ、多くの犠牲者が出た』うーん。聖女のせいだけじゃないんじゃ。でも、それで男に溺れたってのは、ちょっと言い過ぎな感じがする」

 一人目はそんな話だった。男が死んで、聖女は癒しを終えた。ただ、そのせいで、助かるはずの者たちが死んでしまった。癒しの力に期待しすぎていたのか、のちに悪行とされたようだ。


『聖女は、物を作る力を持っていた。珍しい物を作り、人々を楽しませた。便利な物を作り、人々を喜ばせた』

 次の聖女は、物を作れる人だったようだ。その物を人々は欲しがった。聖女が新しい物を作るたびに、多くの者たちが高額で購入しようとした。


 聖女は初め、人々のために新しい物を製作していたが、のちに目先の利益に惑わされ、創造の力を悪用し、金額を押し上げて、不当な利益を得ることに成功する。

 それに味を占めた聖女は、多く金を手に入れて、反感を買った。そうして、創造することもやめてしまった。その後、行方をくらましてしまう。


「これはまあ、うん。悪いことになるのかなあ。すごいお金を稼いだの? それで、恨まれちゃったと」

 そして、三人目。


「『彩雲が見られた日、石碑が彩光に照らされた。異世界より現れるものあり』石碑ってなんだ? どっから出てきたの? えーと、最古の石碑。異世界人が現れたことを記す。そんなのあるんだ」

 その石碑に光が照らされ、異世界より誰かが来ると予言がなされた。


「予言って、誰がしたの。ちょっと、三人目だけ伝説っぽく書かれてないんだけど。最近のことだからかな?」

 最近と言っても、二十年くらい前のことだと言っていた。

 その時に起きたことを記しているのだろう。説明書きやイラストまである。

 異世界から訪れる者はこの国では国の危機とされているため、その聖女が現れると、王国では騒ぎになった。


「『神は、試練を与えるだろう』って、聖女に対しての言い方じゃないよ」

 稀に見ぬ美貌。その仕草、その言葉一つに、男たちだけでなく女たちまで見惚れるほどだった。

 王が聖女を見初め、第二夫人とした。王が倒れ、王子が立ち、王子の妃とした。

 聖女は男たちをはべらせた。男たちは王子の怒りをかい、多くの者が死に至った。


「王様と結婚して、王様が倒れたら、王様の子供と結婚したってこと? しかも、王子が聖女にかしずく男たちを殺したって、傾国の美女だわ。妲己?」

 その結果、聖女は処刑された。


 三人目の聖女の出現によって、この国は困窮し、多くの者たちが飢餓に苦しんだそうだ。シーラたちが言っていた話だ。国の領主たちは王宮の狂いを止めることができず、また、王宮にいた男たちと同じように、聖女に心奪われ、王子の怒りを買い、殺された。

 そのため、男の数が少なくなり、女性の進出が許されるようになった。


「今まで家を継げなかった女性たちが、男性がいなくなったことによって、家を継げるようになったってことね。なるほど」

 とはいえ、怖すぎる話だ。どれだけの男を殺したのだろう。


「この人は、美貌だけだったのかな? 特別な能力はなかったのかな? 魅了の能力みたいな感じ?」

 三人目の聖女は処刑されたが、このことが特に大きな事件となり、異世界人は忌避されやすくなったわけだ。


「あれ、でも、勇者もいるんじゃなかったの? 男もやらかしたとか言ってなかったっけ」

「男性はそこまで語られていないんですよ」

「うわっ!」

 背後から声を掛けてきたのは、もちろん使徒だ。気配を消して、急に現れ、耳元で囁く。趣味が悪すぎる。


「先ほど参った際、誰もいなかったので、また参りました」

「驚かすためでしょ!?」

「さて、男性の話ですが」

 使徒は玲那の言葉をスルーする。


「男性は、この国は一人しか降りてきていません」

「五人もミスってれば、十分ですよ」

 どれだけ異世界人を飛ばしているのだ。嫌味を言ってやると、それもスルーされた。


「魔物退治をして、倒しまくり、当時国が頭を悩ませていた魔物を全滅させました。そして英雄になり、土地をもらい、そこで優雅に暮らしましたとさ」

「じゃあ、無害だったんですか」

「その後、殺されました。毎夜パーティ三昧で、領地民から恨まれていたんです。それで、暗殺されました」

「世知辛い……」


「魔物討伐で一緒だった部下たちは、勇者の領地で遊んで暮らしました。そのせいで、魔物討伐隊は嫌われてしまいました。今の魔物討伐隊の中には、当時勇者と一緒にいた者たちの子供もいたりしますから。勇者の後に領主になった者もかなり嫌われておりました。現領主の父親です。前回の聖女問題で公金を使ってしまいましたから、現領主も領民には嫌われて、大変そうですよ」


 よよよ。と嘘泣きをする。

 異世界人が連続で不祥事を起こした。直近では二人の異世界人が原因で、領民が苦労したのだ。

 それは、異世界人が嫌われて当然である。

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