3−5 家
「ああ、健康っていいなあ。ご飯がおいしく食べれそう。はい、できあがりましたー!」
塩分のついた肉を使ったため、塩味にはなっているだろう。まずは野菜から。芋の方を口にして、それを噛もうとする。熱さで口から湯気が出そうだ。
「あ、おいしい~!」
肉の油で味が染み、フライドポテトみたいになった。胡椒がないため刺激はないが、塩分がしっかりついて、丁度いい。次いで、玉ねぎのようなものも食べてみる。こちらは味気ないが、まずいというほどではない。あまり甘味がない野菜だ。玉ねぎなら焼けば甘味が出るのだが。
「よし、パンはいかがですか~? ん。んんーーー! おいしい! 最高! 万歳!!」
パンはカリカリして旨みがある。にんにくでもあればもっと最高だが、高望みはすまい。火とパンをくれたアンナ夫婦に、もう一度礼を言いたい。
そして肉。油が滲み出て硬さがなくなり、とても柔らかくなっている。口に含めば油が舌にまとわりついて、火傷しそうになった。
「う、しょっぱ!!」
熱さで驚いたよりも、しょっぱさでむせそうになった。かなりの塩味だ。ポテトがおいしくなるわけである。
「塩抜きしないとダメなのか。そっかー。塩漬けだもんね」
パンに玉ねぎと肉を乗せ、一緒にして食べれば、少しは緩和されるか。次からこの肉を使う時には、塩抜きをしなければならない。
それでも、空腹には十分な肉と野菜で、胃の中が温かくなり、満腹感があった。至福の時だ。
「ごちそうさまでした!」
両手を合わせて、ご馳走様の挨拶をし、片付けることにした。
野菜を洗っている時に気づいたのだが、水瓶から汲んだ水をシンクで使えば、シンクから排水された水が床をつたい。外に出ていた。
シンクは床から浮いて作られており、排水の部分だけレンガで囲われていた。そこから流れてくる水が、床にあるくぼみに沿って流れ、壁に開いた穴から外に出ているのだ。
排水溝から間違って物を流しては、詰まってしまう。レンガは外せるようだが、間違って組み立てたら水が床に流れてしまうだろう。
そして、排水溝がこの程度の作りということは、もちろん下水もない。
「まあね。トイレがあれだもん。下水なんてものはないんですよ。ええ。ないんです」
水を使えば流れる先は庭の端っこで、捨てた水が溜まってしまう。なんなら、トイレの汚物と混じるだろう。水の量によっては、裏口前に水が溜まってしまう。
「キッチンの排水は、畑の方に流れてくれないのかな。汚物と混じるとか、地獄か」
これは、捨てる水を溜める場所が必要ではなかろうか。
そして、他にも問題がある。
「洗剤がないよー。油物が洗えません~」
たとえ石鹸があったとて、下水がなく、水を浄化する施設もないわけだ。たやすく石鹸を作って、その水を捨てるわけにはいかない。石鹸を作るとしたら、処理する場所も必要になる。
「石鹸の作り方なんて、詳しく知らないけどね。油とか混ぜればいいんでしょ」
知ってはいるが、苛性ソーダーなるものはここにない。ここにある材料で作るには、大体なんとなく、くらいでしか知識がない。
石鹸の話は後回しだ。
「どうしよっかな。乾いた草とかで拭いて、燃料にする? そうしたところで、皿は綺麗に洗えないけど」
家では母親がアクリル毛糸のたわしを使っていた。そこまで多くない油のお皿は洗剤なしで洗えていたはずだ。母親はそういった地球に優しい系が大好きで、好んで使っていた。
だから、アクリル毛糸で編み物を手伝った。入院中なら作る暇がたくさんあるからだ。
しかし、アクリル毛糸がない。アクリルは化学繊維である。無理だ。
「パンで吸い込ませて、油を拭って食べるのが正解か。あとはもう、草で洗うしかない」
ある程度の油汚れは、目を瞑るしかないのか。瞑りたくないが、方法がない。
「それも考えよう。洗剤を使わない、洗い物。今のところ、何すればいいんだ? お野菜をどこから調達するか。お店はアンナさんに聞こう。お金を稼ぐ方法も教えてもらわなきゃ。汚れた水は基本庭に撒いて、油の水は専用の穴でも作るか。おトイレもなんとかしたいな。あそこでおトイレするとして、トイレットペーパー代わり。排泄物用の穴。カーテンとかで仕切りも作りたい」
やりたいことはたくさんあるが、材料を揃える必要がある。直近で必要なことは、お金を稼ぐこと。
「いや、お金を稼がずに、食料とか手に入れること!」
使徒は言っていた。生きていくには自然と触れあうこと。魚を捕り、獣を捕って良いと。薪も森に取りに行く必要がある。
今日はもう遅い。暗くなってきたので、外出はやめておこう。明日から出動だ。
「よし。やる気出てきた!」
ガッツポーズをして、床を踏み付け、意気込んでみたが、ふわっと浮いたものが床から出てきて、目を眇める。
砂埃である。
家の中なのに、砂埃。許せない。
「その前に、掃除だ!!」
最初にやるべきこと。まずは徹底的に掃除することに決まった。
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