3−4 家

「あ、ついた、ついた」

 燃えていた薪に、蝋燭を近付けて、火を移す。

 壁にかかっていた燭台の蝋燭はもう残り少なく、小さな火を点ければ、蝋燭を溶かした。これが終われば蝋燭は終わりなのだろうか。消えて無くなる前に倉庫を確認したい。


「燭台持ちながら降りるの、きついなあ。なんか考えないと」

 溶けた蝋燭をこぼさないように気を付けながら、地下倉庫へのハシゴを降りる。

 地下に降りると、冷えた空気が肌に当たり、寒気すらするほどで、ぶるりと震えた。

 瞬間、ギクリとした。なにかが動いたからだ。


「うあっ!? びっくりした。なにこれ、お肉?」

 どこぞのホラー映画のように、天井から大きな肉の塊がいくつかぶら下がっていた。蝋燭の光で影が揺れて、何かがいるように見えたのだ。


 人の大きさほどはないが、腕ほどの長さのある肉である。肉に触れるとひどく硬く、いくつかは煙った匂いがし、いくつかはざらついて塩のような物がついていた。燻製と塩漬けにしたものなら、長く保管できるのだろう。

 キッチンよりも広いその地下には、肉の他に、板張りの箱がいくつか置いてあった。道具などもここに置いてあるようで、包丁などもある。調理するような場所はないので、カットするために置いているのだろう。


 板張りの箱を開けると、芋のような野菜が入っている。玉ねぎのようなものもあった。他にも野菜のようなものは入っていたが、数は少ない。野菜の多くが古いようで、弾力がなく柔らかかったり、枯れていたりした。採ってから日が経っているのだろう。倉庫が寒いためなんとか持っているようだ。


「食材があって良かった。助かるー。ちょっと、お肉をいただこうか。とりあえず焼けば、食べれるでしょ。このお野菜たちも、味を確認しないとね」

 玲那は一種類ずつ野菜を持とうとしたが、ハシゴで登ることを思い出して、持てる分だけ持ってキッチンに上がった。燭台を地面に置いても、肉と野菜を一緒に持っていくのは難しい。

 カゴなどの持ち運ぶための物が必要だ。


 キッチンに戻り、現状一体なんの道具があるのか、しっかり確認することにした。

 棚にあるのは木の皿。木のコップ。二股のフォークのような物など。これは食事をする時に使うようだ。

 鍋は三種類。寸胴鍋のような大きな鍋、それより小さいが大きめの鍋、ミルクでも沸かすような小さな鍋。フライパンなどはない。

 包丁は長方形の厚めのもの。ナイフのような細身のもの。あとは木べら。菜箸はもちろんない。


 カゴは深いものと、浅いものいくつか。漬物でも漬けるような、瓶もいくつか。あとは洗い物用か、木の枝が重なり丸まった物など。キッチンで使えるものはこれくらいだ。


「とりあえず、肉を炒めて、野菜をちょっと焼いてみて、食べれそうならスープにしようか、て、調味料は!?」

 探してみるが、調味料らしきものはない。かろうじて見つかったのが、木をくり抜いた入れ物に入った、少量の塩だけ。胡椒などはないし、醤油などあるわけがない。


「コンソメとかないの? ちょっと、待って。主食は? 肉、野菜だけ!? 小麦とかないの!?」

 コンソメよりも、せめて小麦粉だ。棚にはないため、もう一度倉庫に戻る。見逃している物はないか、くまなく探す。

 そこで見つけたのは、お酒らしき樽。布がかぶせてあって気付かなかった。ただそれだけで、小麦は置いていなかった。パンは自作せず、店に買いに行っているかもしれない。

 どこに店があるのか、探す必要がある。


「はあ、お金使いたくないのに。野菜なくなったら買いに行かなきゃだけどさ。それまで、主食、芋かなあ。ねえ、この世界でも、私はまともにご飯が食べられないの?」

 膝からがくりと崩れ落ちて唸ろうとしたが、思ったより床にぶつかった膝が痛くて、すぐに立ち上がった。地下倉庫の床はレンガのような物で組んであり、石畳のように硬いのだ。


「そういえば、外から見た家はレンガ作りだったな」

 けれど、部屋の中は板張りだ。板で骨組みし、レンガなどで固め、内装は板で隠しているのだろう。キッチンはレンガのまま。リビングだから舗装しているだけのようだ。家はしっかりしているので、そこは良しとしたい。


「まあいいや。とりあえず炒めて食べよう。出汁もないから、味付けができないし」

 芋を軽く洗い、半分にして中を確認する。腐っている風ではない。

 慣れた手付きで芋の皮を剥く。料理はそこまで得意ではないが、小学生の頃から包丁を使って野菜を切ったりするなどの手伝いはしていた。家にいるので、それくらいしかできなかったからだ。しかし、そのおかげで指を切らないですみそうだ。


「よしよし。お肉を適当に切って、野菜も適当に切って、お肉から炒めて、野菜も炒めて。もらったパンもちょっと焼こう」

 肉はなんの肉だかわからない。熟成されているので、黒い肉だ。炒めていれば、ジュージューと肉の焼ける音がして、油が出てくる。その匂いで、お腹が鳴り続けた。


 腹が鳴るなんて、いつぶりだろうか。今お米があれば、チャーハンでも作ってもりもり食べたいくらいだ。想像するだけでよだれが出てくる。今はパンしかないが、パンでも早く食べたい。


 カチカチのパンは切って小さくした。切るにも力がいって、簡単には切れないほどだった。そのままでは食べるのは難しいパンである。肉の油を染みこませ、柔らかくして焼く。焦げ目がついて、絶対おいしいパンに変身した。

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