第24話 循環の七果実
「そのおっ死んだ奴が鍵になるのか?」
「はい。だから痕跡を探すのが手っ取り早いです」
成程。でも記憶がうんたらと親和性がって話は何に通じるのか。
俄には信じられないけど、金属片から伝わったものは恐らくこれを装備していた者の記憶。それが見えたという事となんらかの関係があるのだろうか。
「記憶の果実と因縁の果実。クレイドにはまずこの二つを食べてもらいます。親和性があります」
エリオルベル続けてそう言った。
「果実? ベルギリオンにそんな物が?」
「世界の根幹を司る循環の七果実。……知らないですか」
そんな情報何も知らない。ベルギリオンで知っているのはただ馬鹿でかい木である事のみなのだが。
「生憎と聞いた事ないな……重要な感じするけど。本でも記載されていた記憶は無い」
「…………忘れられてしまったんですね」
悲しげに瞳を落としてそう言った。
エリオルベルが持つであろう知識との差異が、俺の中で若干の焦りを伴う。誰も知らない何かが此処にあるようだ。それとも隠されていただけなのか。
「食べたらどうなるんだ?」
純粋な疑問を投げ掛けた。その果実とやらを食す事と白女の友人の跡を追う事の繋がりが見えない。
「この世界で産まれ、朽ちた全ての記憶に対する閲覧権限を得られます。因縁の果実の力も合わせればその痕跡を元に道筋を追えます」
エリオルベルの言葉に俺の脳は理解を示さなかった。この娘は一体何を言っているのか。
「ちょっと待ってくれ。随分と大きな話だな。そもそもベルギリオンは攻略難易度が高いけど何もないダンジョンって事だったんだが」
「何も無いという事は、何もかもが在るという事です。ベルギリオンとこの世界は一心同体です」
……一つだけ分かった。話していて噛み合わない部分が多々あるなと思っていたけれど、それはこの娘の視点がかなり大きく見据えての事だったのだと。
例えるならば、神と1人の人間が同じテーブルを囲んで談笑するようなものだ。到底理解が及ばない上に、エリオルベルの言葉足らずな面も合わさって難解になっている。
「俺流に掻い摘むと、このベルギリオンには世界を維持する何かしらの機能を備えている。ここは予想だけどそれに循環の七果実とやらが関わっている。という認識で構わないのか?」
「クレイドは頭が良いです。その通りです」
自分で言っておいてあれだが、理解の範疇から逸脱している。正直妄想の類として受け取る以外の考え方が出来ない。
「悪い、荒唐無稽すぎて流石に信じられない。証拠でも無ければ到底、御伽話にも満たないよ」
「実りの時期がそろそろ来ます。目の当たりにすれば何もかも理解出来ます」
エリオルベルは一歩も引かずにそう言った。
……もう考えるのはやめよう。色々と馬鹿らしくなってきた。なるようになれと思うしかない。
「俺はこの体を元に戻して、そしてこんな目に合わせた女に一撃くれてやれるのなら問題ない。その手段がどうであれな」
「あの人の事は置いといても、クレイドはベルギリオンと繋がっています」
「俺とこの木が? まさか」
「必ずこの地を訪れる定めがあります。伝承が消え去っても運命は潰えない」
って事はまさか……俺がベルギリオンを目的として旅立つと決めたのはその介入があったからとでも言うのだろうか。
聞かされてみれば自分でも驚くほどに納得がいく。頭では懐疑的なのに妙にストンと嵌るような変な感覚だ。
脱力感が体を襲った。本来なら怒って然るべきなんだろうが、その熱量は感じられない。
「……なんだよ。それなら自分で選び、自分の意思でと思った事は全部、予め決まっていたってのか」
信じてはいない、信じられないけども。俺は阿呆らしく馬鹿馬鹿しく思いながら、内心でその言葉の意味を重く受け止めていた。
冒険の邪魔をされた挙句、そもそもベルギリオンで冒険者となろうとした動機でさえ意思の外にある者の干渉を受けていると。
であるならば、俺の意思というものは何処にあるのだと言うのか。
陽の光を浴び、定期的な食事を摂り、1日を終えればまた床に着く。生き物の単純なそれが、最早陳腐なものであると思わざるを得ない。
「怖くないです。自由意思はちゃんとあります。ベルギリオンの声に応える事だけ決まっています」
俺の様子を察したのか少し焦り気味に、慰めるような言葉をエリオルベルは放った。
しかし現実感が増すその振る舞いは、寧ろ悪化させる力を備えている。
「……俺じゃなくても良いだろう。代わりになる者は幾らでも居る。他の奴らじゃ駄目なのか?」
「言えないです」
「またそれか。……もう疲れたよ、俺を悩ませるのは止めてくれ」
冒険に出て得た結論は、結局の所どう足掻いても人の形を成すストレスの塊とは切って離せないという身も蓋もないものだった。
俺が望まない求めないものを嬉々として差し出されるのにはウンザリだ。
「クレイドじゃないと駄目です。それは本当の事なんです」
前は純粋に喜べた言葉だったが、今回に至っては鬱陶しい蠅の如く憚れるもので、どうにも耳を塞ぎたくなる雑音に感じた。
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