第12話 新しいスキル?

◇◇◇◇




 何だかんだと色々作業して早々に寝付き、また日の出と共に起床する。

 海の魔物と戦うかそうでないかは置いておいて、一度海岸線の辺りまで見に行こうと予定を組んで動いていた。

 寝て忘れるという事が中々難しいが、昨日と比べれば多少は落ち着いていた。少なくとも次の手に移そうと早々作業出来るくらいには。

 内存魔力も回復し戦闘は可能。後は倒せるか倒せないかだが、ソードベグルを曲がりなりにも仕留めたので自信はあった。

 通用するという証明は前向きさに繋がるものだ。


 砂浜の近くまでやって来て物陰に隠れつつ、静かに覗くような素振りで海辺を確認すると、そこにはやはり埋め尽くすとは言わないまでも多量の魔物が跋扈していた。

 種類が多く名前を知らない魔物もいる為一々羅列していられないが、その中の幾つかは食用に適した魔物である。なんとか此方にまで引き寄せられないだろうか。

 射程距離内に丁度蛸のよう外観を持つオクトリアという魔物が居るので、手頃な石ころを手に持ち角度を付け投げる。届くかな。

 放物線を描いた投射物は、狙った魔物の少し横に逸れて水飛沫を上げた。

 

 オクトリアは慌てふためく様子で周囲をキョロキョロと見回している。俺は敢えて気付かせるように姿を物陰から出すと、間を置かず相手の視線が此方に止まった。

「ギャギャ!」

 声を発した途端、俺に向かって走り出した。良し釣れたな。

 ある程度の位置をキープしながら砂浜から遠ざかり平野に入った辺りで足を止めて魔力銃を構えた。

 これも恐らく強固な外皮に守られているので抜けないが、脳を揺らして気絶させる事なら出来るだろう。狙うのは眉間だ。

 迫り来る魔物にただ構えて待つ恐怖感はそれほど無かった。ソードベグルとの戦いは大いに成長させてくれた。


 もう少し、もう少し近付かせて……。3、2、1……ここだな。

 俺はそのタイミングで引き金を引くと、慣れていたはずの反動に思いっきり体を取られ後ろにずっこけた。

 そして鼓膜を突き破るなんてもんじゃない、脳を揺らすほどの爆音に目が眩む。

「な、なんだぁ!?」

 普段とはまるで違う魔力銃の挙動。壊れてしまったのかと思わず言葉が漏れ出た。

 その弾の進行方向に居るオクトリアへ目を向けるとこれまた驚愕とする有様だった。


 眉間を円状の穴を開けて撃ち抜いていたのだ。断末魔すら上げる猶予も無く、あの魔物は事切れるように立ち尽くしていた。

 昨日の戦いで魔力を吸い出す機構に障害でも起きたのだろうか。

 俺は最初そう思ったが、体の感覚として使用された内在魔力の値は普段と変わっていない。

 驚きのあまり魔力銃とオクトリアを交互に見続け、そして徐にしゃがみ込んで魔力銃の再点検を開始する。

 もし何かしらの故障であるなら不味い。俺の戦闘力の全てをアーデンツァに依存しているから。


 昨日の点検じゃ特に問題なんて無いと思ったんだが……。内心かなり焦りつつ、部品毎にバラし一つ一つを見て行った。

 刻まれた術はもとい銃身からストックまでを全て事細やかに確認する。しかし熱による銃口の焼け以外に劣化などは無い。

 原因はこの銃に無いとするなら……この高威力な銃撃に対して思いあたるのは一つしかない。俺の体の方だ。

「まさか新しいスキル……か?」

 人獣共通した概念であるスキル。後天的に発現するのは極々稀であり、基本的には生まれ持った物だけだ。


 個体としての才能や種族としての特性を形にする場合が多く、ソードベグルの威圧なんかは正にそれを表している。

 亜人を含む人種はランダム性が強いが、代々の名家とか特定の技能を血縁単位で積んだ一族にはやはり共通したスキルが発現するらしい。

 俺は元々スキル無しの冒険者だ。孤児だから血縁も何もかも知らない。

 本当に発現したのか調べたい所だけど……ギルドにでも戻らなければ方法は無い。その選択は今取れない。


 バラした魔力銃を組み上げて、今し方仕留めた魔物の様子を見に行った。

 撃ち抜いた箇所は若干煙が登っていた。穴の周囲は黒く焦げ付いており、正直歩留に影響しているので良い気はしなかった。

 分からない以上検証あるのみか。何発か撃って間違いがないか確かめないと安心も出来ない。

 俺は稼働の早まる心臓を落ち着けて、その場で魔力銃を天に伸ばし、二の腕で片耳を抑えもう片方には指を押し込んだ。

 体に力を込めて恐る恐る引き金を引く。腕が若干あらぬ方向に行ったが、その反動と銃声は至極慣れたものだった。


「あれ?」

 頭を捻るものの、答えは出ない。もう一度引き金を引いてみると、これもまた変わり映えが無かった。

 たまたまか? いや、でもそれにしたってなぁ……。

 現に風穴の空いた魔物が此処に鎮座している訳で、俺の預かり知らない何かが起きているのは確かな筈。

 残り27発である。無駄に魔力を消費するのも憚られるので、キリ良く20発まで試してみるか。

 

 身構えつつ連射する。しかしこれも特に問題なく残り21発になった。

 ちょっとした不具合だったのかと認識を改める中で最後の1発を放った。すると先程と同様の凄まじい反動に抑えきれず、持って行かれる形で頭から地面に落ちて後頭部を強打。

 悶絶する。あまりの痛みに声も出ず、響いた頭の鐘がただただ反復していた。

「一体なんなんだよ! これ!」

 漸く絞り出した言葉は、俺に向けての事か愛銃に向けての事か。

 意味不明な事態に、ただ傷を増やしただけの一幕である。

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