第6話 活路
ソードベグルは鼻息を荒くその視線を俺に向け続ける。
「グルルル……」
欲をかいたな。怯え隠れているのなら見逃してやったものを。
俺の妄想ではあるがそう言っている様に思えた。
そしてある一定の距離を空けて魔物は近付かない。それは俺の魔力銃の射程距離ギリギリを見計っていた。意図的だろうな。
小さくて遠目では気づかなかったが体に弾痕の様な物がある。近くで全体像を見たからこそ分かった事だ。
前に何処かで撃たれた時の経験が、俺の持つ魔力銃を脅威だと認識しているのだ。
加えて手負いであるからこその警戒がこの間合いを作り上げた。
怪我の功名であるが……どうする、考えろ。
体はまだ複数人に羽交締めにされているかの如く動かない。でも指先だけならなんとか曲げられる。
後はせめて腕が上がれば……。
そう願った矢先、ソードベグルの右手の5本爪が輝きを見せた。
地面を切り裂きながら土草小石を巻き込み伴って、光の刃が怒涛に押し寄せる。
「う、ぉぉぉおおおお!!」
腹の底から声を絞り出し、魔力銃を持つ右手首が右横に向いた。
俺はそのままトリガーを連射する。
明後日の方向に銃弾は飛んでいくものの、跳ね上がる銃身を抑えられないこの身は思いっきり左に持って行かれる。
背中から転けて一回転。同時に俺の目の前を光の刃が通り過ぎた。
あっぶねぇぇぇ! 死ぬかと思った! 死ぬかと思った!。
使い初めの頃慣れずに体が持っていかれた。その経験が死地で初めて生きた。
そしてこの衝撃のおかげか体の自由が戻った。
感傷に浸るの今では無いとし、俺は直様膝を立てて銃口をソードベグルに向ける。
牽制の意味を込めて2発分トリガーを引き、その銃弾は間を置かずソードベグルの右肩と腹部に着弾。
衝撃によろける様子は見えたが、とてもダメージを与えているとは言えない。やはりウィークポイントは傷口か。
特に効きそうな部位は……左脇腹、左膝、右手の甲。額にも傷はあるけど浅いな、抜ける気がしない。
銃弾はブルーラバットに7発。避けるのに5発。牽制に2発。計14発の消費だ。
残りは16発。微妙な所だと言わざるを得ない。
俺の反撃を予想だにしていなかったのかソードベグルは一瞬固まると、二足歩行に立っていた体を慣れ親しむであろう四足に切り替えた。
……上手いな。正面からじゃ何処狙っても一緒だ。
衝撃も四つ足で支える分仰け反らない。だとするなら次に来るのは……。
「ギャルルアアアアアァァァァァァァ!!」
俺の反撃がそんなに気に食わないのか、明らかな怒りの咆哮と共に大重量の体を突進させる。
俺の魔力銃の威力は脅威にならないと、きっとそう思ったのだろう。キレているとはいえその判断があるから前に出始めた。
距離を狭めるのは俺にとって有利。しかしソードベグルにとっては大有利だ。
俺はそのままの体勢でもう一度トリガーを引く。狙いは一か八かの額。
銃弾は運良く目的の場所に着弾するものの、しかし当の魔物は意に介さない。駄目だ。
残り15発。逃げ回っても速度の差で追い付かれる。なら一か八か、あいつの攻撃のタイミングを見切るしかない。
ソードベグルが段々と距離を縮めると同時に、俺の背筋入り込む寒気が増していく。
撫でられるだけで俺の体は6分割される事だろう。ユニークとの戦いの前座であるならその後におやつの時間が設けられる。恐ろしい事だ。
気合いを入れろ、俺。
50m。まだ遠い。もっともっと引き付ける。
40m。まるで大きな山の如くだが、まだ遠い。近いけど遠いのだ。
30m。近いが落ち着け。焦ったら相手の思う壺だ。
20m。独特の獣臭を鼻で感じられる距離。でもまだ行ける。
10m。俺はここでもう一度銃弾を放った。首筋辺りに着弾したが効果無し、そして5mにまで来るとソードベグルの右腕が高く伸びた。
此処だ!。
俺は途端に駆け出して左手側に飛び込む為体を投げ出した。
ソードベグルが意図したのかしないのか知れないが、俺の目端は口角が上に引き摺れる小さな表情を捉えた。
目の前の魔物の強靭な足腰は、四足歩行のまま速度が出てもなお、上半身を軽く浮かせ右腕と左腕を扱える余力があるらしい。
真横に回る予定だった俺の体はソードベグルの左手に吸い込まれそのまま握り締められた。
「ガハッ……!」
その腕力に押し潰され肺の空気が強制的に吐き出される。何キロとあるか分からない腕力に体全身が悲鳴を上げた。
……やっぱり付け焼き刃の戦い方じゃ限界はあるよな。
そのまま今にも潰されかねない状況の中で、俺は自分の戦いに対する素養の無さを恨めしく思った。
肉を切らせて骨を断つ。そんな運に任せた最悪最低なやり方しか出来ない。
「グルルギャルル」
ソードベグルは徐に立ち上がって握り締めた俺を見つめた。そして大きな口を開ける。このまま丸齧りにするつもりなのだろう。
吐き出される独特な臭気は酷く鼻が曲がりそうだ。虫歯もあるな。
徐々にその口が近付く最中……俺は此処だと魔力銃のトリガーを引いた。引きまくる。
「グギャ!? ガッ!!」
そして反射的に開かれたことから俺は手から離され、体は地面に向かって落ちていった。
立ち上がりソードベグルに目を向けると、今し方撃ち抜いたであろう左膝の傷口が更に広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます