第4話 大型の魔物


 見つけた水場へと向かう為、岩石と岩石の間を飛ぶ様にして乗り移った。

 その都度水を頂きつつ、道草ならぬ道水だなとしょうもない事に思考を巡らせる。

 直前の所まで来ると間が大きく、流石に足が届かないので空いていた地面に一旦着地。

 すると急激に冷え込んだ空気に身震いを起こした。まるで氷に囲まれているかの様な冷え冷えとした空間であった。

 雪解け水に冷やされた岩がそういった効果を齎しているのだろうか。そう思いながら手を伸ばしたものの答え合わせのように長く触れられない。


 悪くする前にさっさと出ようと繋がるであろう道に目星を付け更に登り、そして進むと俺の視界に入って泳げる程の広い水場が現れた。

 ここだな。辿り着いた。

 俺の背丈の何倍もの岩石を長い年月を掛け削っていった。池と記述されてはいたが詰まるところそうやって作られたでかい水溜りを池と称しただけの事らしい。

 言葉のイメージだけでは絶対に知り得ない事だ。実際に足を運んだからこそである。

 情報としては飲める池ってだけで良いので、まぁ書物にはそこまで詳細に書く必要はないか。


「取り敢えず水の補充でもしましょうかね」

 1人で物事に当たっているとつい独り言が増えて仕方ない。

 人間関係にはうんざりしているけれど、やはり何処かで求めざるを得ないのが人というものなのだろうか。

 学はないのでその答えは俺の中に存在しないのだけれど、生きて行く中の経験として溜めた物がその内理解という形で返ってくるのか。

 願わくばそうであると思いたい心持ちに、俺は降ろしたバッグの中から水筒として使っている皮袋を3つ取り出した。

 

 中に残った水はあまり清潔とは言えないので捨てる。そして綺麗な水で皮袋自体を濯いでからそれぞれ満タンにまで詰めて行った。

「ダンジョン突入前の第一目標達成。さて、お次だな」

 またもや勝手に口が開く自分自身に呆れつつ踵を返し、仕留めたブルーラバットを置いた場所にまで戻る。

 ……何というか妙に平和だ。これがきっと余計な考えをしてしまう元なのだろう。

 人間多少は苦境の中にいる方が悩まされずに済むのだろうかと、また変な方向に考えが及び始めた所で俺の食事達が目に飛び込んだ。


 ……平和と思っているのは俺だけだなこれは。

 獲物の回収の後その水場から少し離れた位置で陣取る事と決めた。陽が入り込み地面も濡れていないうってつけの場所である。

 一先ずテントを建てようと筒状に丸めた布を開き、大まかに決めた場所へ組み立てていった。

 落界樹が留めているとは言え雨が降ったら多少なりとも濡れるだろう。この場に長居するつもりは無いが雨晒しも御免被る。

 俺はその後昨日と同じように火の準備を行い、そして狩った物の処理を始めた。

 内臓は腐りやすいので今日食べるか別の用途に使う。皮はちょっと持て余すが……申し訳ないがこれは捨てるしか無いか。


 肉は大まかに骨ごとぶつ切りにし、その全体に持ってきた塩を練り込ませ漬けておいた。これは後で焼いてから瓶に詰め込んで保存食とする。

 欲を出せばそこから乾燥の工程までやりたいんだけど、何日か跨がないといけないので流石にその時間は惜しい。だから現状塩漬け焼きが一番簡単に行える保存の処理だ。

 今残る干し肉の価値は高いので、優先的に消費するのはこのブルーラバット肉となる訳だな。

 空瓶自体はまだまだあるので狩っていきたいが、ブルーラバットばかりでは手間が掛かる。

 岩場に集っていたその隙を突いたからある程度上手く行ったものの、道すがらでは警戒心がとても強く手が出せなかった。


 やはりこの魔力銃で倒せるレベルの大型の魔物を期待するしかないのだが、そう世の中は上手く出来ていないのが常である。

 ダンジョン突入も早めたいのでチンタラしていられない。

 どうするかと悩む最中に、俺は不意にバッグの方を見やった。

 そこには銃底が地面に掛かり変に斜めを向いている愛銃が『お前の考え等知るか』と言わんばかりに少し揺れていた。

 おお、アーデンツァよ。共に死地を潜り抜けた中じゃないか邪険にしないでおくれ。


 独り言がレベルアップして独り芝居。少しだけ物悲しくなったのでモツ食べよう。

 一旦腹を溜めて正気に戻ろうとスキレットを取り出した時だった。

「ギャルアアアアアアァァァッ!!!」

 静寂を破る言葉にならない獣の雄叫びが振り撒かれた。俺は瞬間目線が向かう。

 先程俺が水を補充した岩石群の辺りだろうか、そこに上空から何かが落下した。その振動は離れたこちらにまで伝わった。

 そこからの考えを排した俺の動きは自分でも驚く程早かった。

 魔力銃をさっさと取り上げて、作り上げたテントの裏側に回る。


 何が来た? 声からして魔物であるのは間違いない。

 首元から額にかけて冷や汗が滲み出す。

 恐る恐るテントの横から顔を出してその落ちた先に目を向けた。

 毛色は灰に塗したかのように燻んでいる。

 それが横たわっていて、痙攣する様に一つ揺れると静かに立ち上がった。

 遠目からで分かるのは先程の登るのに難儀した岩場を椅子に出来そうなかなり大柄な体長。腕は長く刀剣の如く鋭い爪が伸び、胴長で、足は短足。

 全身に細かい古傷を残し、真新しい傷跡もちらほら見受けられた。

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