第3話 水場へと
◇◇◇◇
翌朝目を覚ました所、体の凝りをあちこちに感じた。
緊張感が抜けたせいなのか特に関節の節々に目立った痛みがあった。これが妙に神経を苛立たせる。
それでも何とかゆっくりと起き上がるとその拍子に関節が小気味良く弾けた。
昨日の火は滓となって完全に冷えていて、俺はその灰を掴んで適当に周りの草花に振り撒いた。穴も埋め直しておく。
そして出した物を片付けてから念の為に軽くストレッチ。動き出して体に熱が篭ってくればこの痛みも気味の悪いほどに引いた。
「良し。行くか」
動く分には問題無し。独り言を漏らしつつ俺はバッグを背負ってから歩き出した。
この平安平野は当然ではあるが各地帯のゴールと隣接している。滅多にある事じゃないけど、たまにその地帯から迷い込んで此処に足を踏み入れる魔物も居るそうだ。生態系の違いからか食物の関係からか知れないが直ぐに戻るとも書物には書いてあったけど。
多少は意識しなければならない点だと思うのだけど、あまりにも見晴らしが良いのでそこまで極端に警戒する必要は無いだろう。
俺は落界樹を右側から迂回する様に決めて歩を進めて行った。
昨日風の吹いた方向。抜けた場所と真反対の落界樹奥に雪原地帯がある筈。
そう思いながら落界樹の真横辺りにまで辿り着いて、その先が徐々に見えてきた。
角張り隆起している崖がまず飛び込んで来た。下には巨石が多数転がりその幾つかは苔の様な物が生えている。
目線を上げていけばある所から台が出来ており、そこの端から端までを白銀の降り積もった雪で盛られている。
向こう側のルートは地続きという訳じゃ無い。魔法で飛び降りるなりロープを使うなり一工夫がいる。
そもそも生息する魔物も粒揃いで気性が荒く、クレバスも隠れ潜むしそれに擬態する魔物も居るしかなりの難所となっている。
腕に覚えがあると宣いわざわざ力試しに向かってそれっきりというのも珍しくない。想像するだけでも寒気がする。
俺は両腕を摩りながらまた暫く進んでその付近へと向かった。
第一目的である水分の確保はこの崖下で成される。温度差で溶けた雪の水分が落ちるか伝うかして小池を形成し、また石を穿てば穴を作り水を溜める。
そのままで飲料に使える非常に澄んだ水。となると必然的にその周りには……。
俺はバッグに吊り下げている〈魔力銃〉を手に待ち構える。
今か今かと待っていると不意に、その巨石群の奥から小型の魔物が複数体、慌てる様に隠れた岩陰から飛び出した。
白い体毛に覆われて青い瞳。そして小さな角が4本生え揃えている。
ウサギ型の形状をした魔物〈ブルーラバット〉だ。平安平野の固有種で味も悪くないと聞く。
道中にも姿は見えたけど狩るチャンスが無かった。今回は行けるだろうか。
俺はブルーラバットの逃げ去る一つ先に銃口を置き息を吐く。
そして姿が重なる間際、ここだというタイミングで引き金を引いた。
この魔力銃は先天的に魔力量の少ない者が冒険を生業にするにあたって戦力になれるよう開発された物だ。
鉄の細工に木工の組み合わせ、内部構造には特定の魔法を起動する魔法式が彫られた長銃だ。そして射程距離は100メートル位。冒険者となってからコツコツと蓄えた貯金を全て使い果たし購入した大事な大事な武装である。非常に値が張る代物だ。
システムとしてはまず構えた者の魔力を吸い上げ鉄筒の中自体を薄い魔力で満たし、銃弾となる物も魔力を物質に変えて小さな玉状に成形する。
引き金を引くと書き込まれた発火の魔法が発動し薄い魔力に着火。鉄砲の内部で小規模の爆破を起こす。
その生み出されたエネルギーは銃身を跳ね上げ、耳を劈く轟音を響かせる。
発射された弾丸は目にも止まらぬ速さで対象の肉を穿ちその命を絶つのだ。
まずは1匹仕留めた。因みに俺の魔力量だと1日に30発が精々だ。
ブルーラバット達は仲間が死んだという事よりも突然に響いた音に混乱しているようだった。
聴き慣れていないので無理もないだろう。
俺はもう1匹に狙いを定め撃つ。外れ。
続けたもう一発で仕留める。
そんな調子で外れと当たりを繰り返し、この場から獲物が完全に去る頃には計4匹を命中させるのに成功していた。
銃を仕舞い獲物を回収してから簡単に血抜き、手頃な大きさの石の上に纏めて置いた。
確かブルーラバット達が出て来たのは……あの辺りだよな。
そう考えつつ岩と岩の間を抜けて上がれそうな窪みに足を掛け登る。
岩石の上に立つと唐突に背筋に冷ややかな物が入り込んだ。
なんだなんだと思いつつ手を当てると雫の滴りが指を濡らしている。
という事は……と思いつつ下を見るとそこには円状に窪みが出来ていた。掌サイズだけど水も溜まっている。
途端にかがみ込み両手で掬い上げてから軽く匂いを確認。限りなく無臭だが少し青臭さがあるな。苔由来だろうか?。
肌を突き刺す冷たさもある。俺は恐る恐る口元に両手を近付けてその水を口に含んだ。
うがいをし中の水を外に吐き出す。味の方は悪くないどころかめっちゃ美味い。
これは大丈夫そうだと、俺は続けて何度もその水を口へ運んだ。
持ち込んだ水袋の物とは雲泥の差だった。久々に飲む臭気の無い新鮮な水はとても体に染み渡る。
あっという間にその場の水溜りを枯らせてしまうのだった。
物足りず他にも無いだろうかと周囲を見渡すと、同じような窪みが離れた岩石に点々と存在していた。
かなりの量があるな……ん? あれは……。
それ等の水溜まりに目を散らせていると、一つ広く出来上がっている水場を見つけた。
かなりの量がある。あそこが良いかも知れないな。
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