8.オレの天使は何でも似合う
女性服専門店で
カップサイズF70にサイズが合ってて俺が選ぶブラは、小春ちゃんが言うには無難で面白みが無いらしく。
別に誰に見せるでもないし、ちゃんと下着として効果があれば良いんじゃない? と言ったら。
それは
そして俺も心は男なんだけどなあ、なんて思ったりもした。
そんなわけで、結局殆どを小春ちゃんに選んでもらった。
だって、俺も小春ちゃんも叢雨くんの趣味嗜好は分からないし、俺が選ぶとダサいらしいし、なので小春ちゃんが俺に似合うと思うものを選んでもらうのが正解だと思ったからだ。
それに下着を選ぶ小春ちゃんが嬉しそうで楽しそうで、それを見ている俺も嬉しくなって、まだ下着を選ぶ楽しさは理解出来なかったけど、楽しそうならそれで良いか、そう思った。
そして選ばれた下着たちは、どれも色味が白や薄い水色、薄いピンクなど、明るくて清潔そうなものが多めだ。
男物はどちらかというと暗い色が多いイメージなので、全然違うなあ、なんて思ったりもした。
そして明るい色味が多いねと言うと、ハルちゃんにはそういうの似合うと思って!! と言われた。
そんなイメージあるかな……? 小春ちゃんの俺のイメージとは一体……。
それから小春ちゃんには言ってないけど、下着姿ならアイツ何回も見てるんだよなあ……と、だけどそれは黙っていた。
むしろ下着姿より裸の方が見られてると思う。それにあいつこそ俺の下着姿なんか興味なさそうだけど、これで興味を持つようになるのか?
――いや待て待て、あいつが俺の下着に興味が有る無しなんか関係無いだろう。そうだ。関係無い。
あいつが喜ぶかどーかは関係無いのだ!! ……とは思うけど小春ちゃんには言えず、結局小春ちゃんが選ぶ、小春ちゃんが俺に似合うと思う選考となったわけだけど。
◇◆◇
下着選びが終わり、上着を見ている男子たちと合流する。
そして男子たちが選んだ上着というのは、何とも分かりやすい服だらけだった。
でも分かるよ、俺でもこんな胸の谷間が見えるような服や、ミニスカートを女の子に履いて貰いたいもん。
まだ5月、とはいえもう暑くなって来ていて、あまり厚生地の物は着たくない。
それに制服でも思ってたけど、大きいせいで蒸れるのだ。どこが? 胸が。
だからまあ、女の人の胸の谷間が開いている服の需要はそこにあるのかも知れない、とも思った。
選ばれた服を見ていると、特にプリーツミニスカートに目を奪われた。
これは可愛い、そして清楚なエロさがある。制服でも感じてたけど、プリーツスカートって翻るだけでも男心をくすぐるし最高だと思う。
その後は更衣室に篭りっぱなしになった。
まずはお清楚な白いワンピース、そして腰回りは細く、上半身のシルエットが比較的分かりやすい。まるでひまわり畑や草原に佇む美少女が着る、みたいな服。
これは趣味全開な代物だ。だけどこれを選んだのは意外な事に小春ちゃんだった。
絶対に似合う! と太鼓判を押して押し付けてきたのだ。
個人的には少女趣味すぎて着るのにかなり抵抗感があった。
だけど、着てみて鏡を見ると、細くて柔らかいストレートな黒髪に似合っていて、これで白い麦わら帽子を被れば完璧だな、と思えるビジュアルだった。
自分でもそんな風に感じるくらいだから、着替えて更衣室から出ると小春ちゃんがさっきの店員さんと一緒にはしゃいでいたのは何というか、新たな一面を見た。
ちなみに、小春ちゃんが両手を広げて、おいでと誘っていたけど、丁重にお断りした。
そこに飛び込んだらきっとダメになりそうな、そんな気がしたからだ。
そして分かった。さっきの下着のチョイスもこの方向性だったんだ。清楚な白系統の衣服に俺の黒髪との組み合わせ、少女趣味の入ったイメージ、多分そういう事なんだと思う。
お次はミニワンピ、これは
肩が紐状になっていて、胸の谷間や肩が露出していて、膝上のスカート。同じワンピースでも小春ちゃんが選んだワンピースとは大分違う。
だけどこれはこれで良い、いかにも男が好きそうな服だ。つまり俺も好きな服だ。
更衣室の鏡で自分の姿を見ると可愛いくて、くるりとターンしてしまうくらいだった。
女の子がおしゃれを楽しむ気持ちが少しは分かった気がした。
自分じゃなければもっと良いのに。とは思うけど。
薄手のミニワンピが涼やかでそして思ったより軽くて動きやすい。鏡で確認する感じだとスカートが翻っても下着までは中々見えなさそうで、悪くない。
まあ、見えたところで、とは思うんだけど。
更衣室から出ると服装を指定した望くん以外にも、小春ちゃんと店員さんも強く頷いていた。これもお気に召したらしい。
少しサービスのつもりでくるりと回ってスカートを翻すと小春ちゃん望くんに店員さんの3人とも嬉しそうで、もう一回回って、と何回もお願いされたほどだった。
叢雨くんはいつもの鋭い目つきで、むしろ険しい表情のように見えた。
そして胸の谷間が大きく見えるVネックの少し厚手のシャツとミニのプリーツスカートの組み合わせ。
叢雨くんのチョイスだ。あいつの好み全開なんだろうか。
シャツはサイズが小さいんじゃないかと思うくらいにキツくて身体に張り付き、身体のラインがくっきりと浮かび上がり、胸と谷間はこれでもかと強調され、ミニのプリーツスカートがよりくびれとおしりとそして太ももを強調し、翻る様は男の目を引くだろうと思う。
着て鏡を見てみると意外と悪くない、この上に何か羽織う方が良いと思うけど。
更衣室から出て披露したところ、叢雨くんにはいつも通りの鋭い眼差しで上から下まで睨みつけられ、小春ちゃんは凄く似合うと褒めてくれて、店員さんはなぜか興奮すぎて語彙力を失っていた。
ちなみに望くんは小春ちゃんにバレない程度に俺の胸元をチラチラと見ていた。うん、気持ち分かるよ。
男なら意識せずとも目を奪われる、勝手に見ちゃうよね。それは本能というものだ。
そんな感じで色々な服を着せられ、さながら着せ替え人形かファッションショーか、という趣だった。
そして何を着ても嬉しそうに褒めてくれる店員さんにすっかり乗せられ、必要以上に沢山の服を選んでしまった。
いやあ、商売上手だ、俺が見る限り心の底から嬉しそうだったり褒めてくれてたのがとても演技には見えなかったのだから。
しかし、一通り服を選んでから、ここから財布に収まるように選び直す必要がある事に今更ながら気付く。
ここから厳選するのかあ、どれにしようかと悩んでいると、その場にある全ての衣類と籠を手に取り、レジに持っていった男がいた。
叢雨くんだ。
「む、叢雨くん!? まだどれ買うか決めてるとこだよ!?」
「オレが買う」
何言ってんだコイツ!?
「まあ、気持ちは分からんでもないけど」
声に振り返ると望くんがそう言っていた。
どう言う事?
「ハルちゃんに色んな服を着て欲しいんじゃないかなあ。私がされたら少し引くけど」
「そこはアイツだからな、その重たさも今までの行動見りゃ納得だ」
「本当、愛されてるねえ、ヒュ~ヒュ~」
いやいやいや、そこは俺の同意あっての事じゃないの? 一方的なのは違うんじゃない?
と思ったけど、叢雨くんはずっとそうだった。一方的で、押し付け的で、勝手に決めてきた。
そしてまあ、何故か俺はそれを受け入れてきたんだけど。
――ってことは、俺が悪いのか??
そして程なく、大きな紙袋をいくつも下げて戻ってきた。
「ハル」
「?」
「着たらオレに見せてくれよ」
全くコイツはそんな事のために。……本当にしょうがないやつだなあ。
まあでも、そこまでされたら無下にも出来ないか。
「――分かった、楽しみにしてて。……ありがとう」
そう応えて、今の自分に出来る極上の笑顔を叢雨くんに披露した。
それがいけなかった。
「えっ!!? ん、んんんっ!!!」
叢雨くんは紙袋を手に下げたまま、突然に俺を抱き締め、唇を塞いできた。
こら!! 場所を、状況を考えろ!!
身体を離そうと押し除けようとするもびくともしない。
しまったなあ、なんて思っていると。
「ハルちゃんが嫌がってるだろ、あと時と場所を考えろ。俺らもいるんだぞ」
そう言って、望くんが叢雨くんの頭をパコんと叩き、叢雨くんの動きが止まった後、やっと身体を放してくれた。
「すまん、つい」
珍しく叢雨くんは謝った。
「大丈夫? ハルちゃん」
「ああ、うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」
「霧矢くんも!! 気持ちは分かるけど急にそんな事しちゃダメだよ!! ハルちゃんの気持ちも考えないと」
小春ちゃんが心配してくれて声を掛けてくれたのだけど、次に予想外な事を言い出した。
「――ところでハルちゃん、どれ着てく?」
「え?」
「ほら、早速着替えようよ!」
どうやら小春ちゃんは早くも今買った服を着せたいらしい。
そういえばそもそもの始まりがTシャツとパンツの格好だった事から始まったので当然の流れと言えば当然か。
そして着替える事になったんだけど、そこでまた問題が。
小春ちゃんと叢雨くんがそれぞれリクエストを出してきたのだ。
小春ちゃんは白のワンピース、叢雨くんは胸元の大きく空いたシャツとミニのプリーツスカート。ってこれ、それぞれが一番最初に着させたやつじゃないか。ちなみに望くんは小春ちゃんの顔色を伺いながら好きなもの着なよ、と言っていた。
小春ちゃんのオススメの白のワンピース、正直かなりの少女趣味だし、いくら似合うと言ってくれても女の子女の子しすぎてて着るのに抵抗がある。
そういう意味では、叢雨くんの趣味丸出しのほうがまだ、なんというか気楽だ。個人的な好みにも合うし。
「ごめん小春ちゃん、俺は叢雨くんのオススメを着るよ。白いワンピースはまだちょっと女の子しすぎてて抵抗があって……慣れてきたら必ず着るから!!」
そう言って、小春ちゃんに一言謝って更衣室に入って着替えた。
望くんがへ~、やっぱ霧矢の選んだかあ、なんて言ってたけど、それはあまり関係が無い。
たまたま俺と叢雨くんの服の趣味が合っていただけだ。
そんなこんなで人騒がせな事がありつつ、俺の服選びと着替えは終わり、気付いたらもうお昼の時間となっていた。
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