夜長月③ in 2024

片腕がじきげそうなテディベア 可哀想がりたいだけの少女


病葉わくらばや機械油の爪に染む大粒が汗で支ふ身上


マウントが生き甲斐のキモおっさんを一斉駆除する聖剣を抜け


眇然びょうぜんにて地獄を脱け出だす君を攫いに翔る十六夜


黄昏に焼べる教科書ニタニタと夜叉の白眼に罪は輝く


お品書き 全てはお客様次第 どなたもどうかお入りください


砂糖とスパイスと素敵を詰め込んだ彼女はもうすぐ母になる


花冷えを娯しむ名うての相場師が有神論を交わす十五夜


ポタポタと教科書に朝雨が降る目視貫く青眼のくせに


妄想をミューティングする日仕事の寝台にて咲き乱れる詩


光散る火柱高く己が罪消えて失くなれあの秋つれて


サーカスや夢幻膨らむ風船の今か今かと破裂しぬべし


ころころと一天地六にいい顔し食い損ねては鰻の幇間たいこ


真鍮が縁取る館 さしまねく黒猫に微笑むカンパニュラ


植木鉢露台ろだいから落つ雨夜よりレインコートも歌う霽月せいげつ


ベッドの遅番を起こすほど納豆を寝惚け眼で混ぜる朝


FMの足許振れる細波さざなみに無心所着の暁鐘ぎょうしょうぞ鳴る


腕を組むことはなくとも骨休め平行線で付かず離れず


感化など疾うに憶わぬ手術室 痛さをメスで裂く執刀医


交差点 昨非と同じ光景だ あの日と同じ貴方の声だ


盗られるために妊るやもめ住まい世界の小隅 つわりに耐える


私は私を辞めたくておひっこし 何故逃げ切れると思っている


フェミニズムとマッチョイズムほだてる人工知能のパンケーキ食う


腐敗した老廃物だらけの外界から隔離した夢見よう


飛行機を見上げる時間 形容しがたい何も生まない無の時間


緩やかな旋律なじむ晩刻に追えなくなった夢を奏でる


ポケットへデータとなった祖母を入れデジャヴする初旅をさすらう


恐竜が餌を探しに人里へ降りてくる すっかり秋ですね


聞き流していた誰かのラジオで救われる日もあった天中殺


歴戦のポスターどもよ私たちこれから解散するよ見てて


私たち死に変わっても奏でましょう 四手のためのピアノソナタ


親子してまた急カーブで傾いてコントローラーだけでいいのよ

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