夜長月② in 2024

9/1 お題「8月32日」

八月 三十二日 (はれ)

 みんな へんだ

 おなじはなしばっか

 ぼくは


9/2 お題「泣く」

微かなるペトリコールの予感から失恋したように夏が泣く


9/3 お題「大人」

大人たれとかどうでもよくて迷惑かけず静かに生きたいだけ


9/4 お題「ノート」

おしゃらくなノートはいつも真っ新で恋に恋して待ちぼうけては


9/5 お題「香り」

鬼薊あかむらさきの簪を外す襟髪 纔に香る


9/6 お題「歌」

流行歌 いつかの僕が懐かしむ 星は朝まで行方を照らす


9/7 お題「嘘」

シャボン玉みたいに吹嘘する秘密 ベトベトのアスファルトにて私愛


9/8 お題「青」

欠け落ちて青化ソーダの霧雨が繞う都市にて死と添い遂げる


9/9 お題「朝」

ペディキュアの剥がれた夜があった気がした哀しむ気力もない朝


9/10 お題「バイク」

蒼天が煽り窓から降り注ぐ書架を護る司書のエストレヤ


9/11 お題「命」

破廉恥な情けごかしの命ごと残り香もなく鞣す惨敗


9/12 お題「化粧」

たわいない期待が透ける雪化粧の唇にそっと闇を差す


9/13 お題「髪」

縺れ髪梳かし鏡架と向き合ってベビーシェマへ退行したい


9/14 お題「神」

風神と雷神をわりふる雲の膿んだハートが時雨しぐれる晩夏


9/15 お題「猫」

錆猫が裏長屋から出てきたら車軸を流す雨の前触れ


9/16 お題「泡」

泡沫うたかたや短命を美と騙る夢 永遠は無常の海とはたら


9/17 お題「ふわふわ」

ふわふわと怯える蝶の行先にアルコール絶てない祖父の影


9/18 お題「眼鏡」

斜向い熱く見つめるシルエット 眼鏡の太いつるに隠れて


9/19 お題「終電」

終電を逃す口実探るごとホールケーキをご褒美とする


9/20 お題「パフェ」

ひぐまをも慄く祖父は端厳にパフェが来るのを今か今かと


9/21 お題「叫び」

マントルで小便臭い偏愛が君に届けと叫んでいます


9/22 お題「好き」

化粧崩れる 鼻水垂れる 濁声しゃくる そんな「好き」 受け取って


9/23 お題「パスタ」

秋爽しゅうそうを仕上げに絡めて盛り付けるパスタに銀杏いちょうは色を染めし


9/24 お題「怪我」

これはケガではなくアマエです 打ち明けることすらあたわないのです


9/25 お題「シール」

不躾な扱いばかり 僕のフラジャイルステッカー知りませんか


9/26 お題「推し」

来るべき誰かの推しになりたくてソーイングセットを持ってみる


9/27 お題「カクテル」

躍層の深き瞳に吸い込まれ 今宵貴方とブルーラグーン


9/28 お題「読書」

読書灯ぽうっと照らすセミダブルおばけなんていないと言うくせ


9/29 お題「戦争」

戦争を起こす気なんてないくせに萎れた花を踏みつけないで


9/30 お題「犬」

床に臥す背をそっと撫で 昇るならもう少し小春空このまま

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