第30話

翌朝、目が覚めると、すっかり朝になっていた。


体を起こすと、喉の痛みは少し和らいでいたけど、まだ完全には回復していなかった。


私はゆっくりと起き上がり、部屋を見渡した。


もう二度と来ることないと思ってたのに、またここに来れた。


最後の思い出に噛み締めておこう。


その時、社長が部屋に入ってきた。


「なんだ起きてたのか?」

「いえ、今起きました」


朝の社長もかっこいい。


「体調はどうだ?」

社長は心配そうに尋ねた。


「だいぶ良くなりました。ありがとうございます」と私は感謝の気持ちを込めて答えた。


「なら良かった。会社に行ってくるけど、お前はここでゆっくり休んでて」


そうだ。

私も会社に行かないと。


「いえ、私も会社に」


一度家に帰る…時間は無さそうだから。

服は昨日と同じままで行くしかないか。


とりあえず準備しようと立ち上がろうとした時だった。


「休みにしといたから」

「え?」


社長の言葉に耳を疑った。


「まだ本調子じゃないだろ。無理するな」


社長が私のことを気にかけてくれているのが嬉しかった。


「それじゃあ、家に帰ります」


流石に、ずっとここにはいられない。


「6時には戻ってくるから待ってて」


それって、遠回しにまだいろってこと?


「でも、」

と反論しようとしたけど、


「いいから」

と強く言われ


「分かりました」

そう答えるしか無かった。


「部屋は好きに使ってくれていいから。じゃ、また後で」


と社長が出て行くと、私は彼の後ろ姿を見送りながら、彼の優しさに感謝しつつ、少し寂しさも感じていた。


部屋に一人残されると、社長の温かさが恋しくなった。


早く6時になってほしいと願ってしまった。


体調が良くなってきたので、少しずつ家事を始めることにした。


お礼の気持ちを込めて部屋の掃除をさせてもらった。私に出来ることはこれぐらいしかない。



午後になると、蓮から電話がかかってきた。

「由莉、体調はどうだ?」

「だいぶ良くなったよ。ありがとう」


「それなら良かった。無理せずに休んで」

蓮は優しく言った。


「うん、ありがとう。また明日会社で」

私は感謝の気持ちを込めて答えた。


その後も、私はゆっくりと過ごしながら、体調を整えていった。


こんなにもお世話になってるから、社長のためになにかしてあげたい。


だけど、私なんかにできることが…そうだ。

社長のために夕食を作ることにした。


感謝の気持ちを込めて、何か美味しいものを作りたいと思った。


冷蔵庫を勝手に漁るのは気が引けたから、スーパーへ買い出しに行くことにした。


外の空気を吸うと、少しだけ気分が良くなった。


スーパーで必要な食材を買い揃え、急いで家に戻った。


家に着いたらもう5時で、あと少しで社長が帰ってくるから早く取り掛からないと。そう思いながら、ドアを開けた時だった。


「由莉…!」

突然、社長の声が聞こえた。


驚いて顔を上げると、社長が目の前に立っていた。



「しゃ、社長…?」


6時になってないのに、どうして社長がここにいるの、まだ何の準備もできてないのに、頭が混乱していた。


次の瞬間、社長が私の腕を引っ張り、強く抱きしめた。


温かい腕に包まれて、心臓がドキドキと早鐘を打った。



どうして、なんで抱きしめられてるんだ…?

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