第29話

目が覚めると、外は真っ暗で、私はゆっくりと起き上がり、部屋を見渡した。


この場所、一度来たことある。


頭がぼんやりしていて、少し混乱していた。


「起きたか」

聞き覚えのある声がした。

まさか、


私はゆっくりと顔を上げた。


「しゃ、社長」

どうして、なんで。


私、また社長の部屋に。


もしかして、蓮じゃなくて社長だったの?


「お粥作ったから食べて」

社長は優しく言った。


「すみません、」

申し訳なさ過ぎて、社長は気にしない様子だった。


「薬局行って薬もらってきたから飲んで」

社長はさらに続けた。


「何から何まですみません、」


どうしてここにいるのか聞きたいことはいっぱいあったけど、とりあえず今日は甘えておこう。


どうせ家に帰る元気もないんだから。


「いい。俺はシャワーに入ってくるから。飯食って薬飲んで寝といて」


社長はそう言って立ち上がった。


「あ、私ソファーで大丈夫です」


看病してもらって、ベッドまで独占するなんて、申し訳なさ過ぎる。


「は?病人なんだからベッド使って」

社長は少し強い口調で言った。


「でも、」

「いいから」

社長は断固として言った。


「すみません、」

私は小さな声で謝った。


お粥も食べて薬も飲んだ。


体が少しずつ温まり、心もほぐれていくのを感じた。


寝ようとした時、電話が鳴った。蓮だ。


「もしもし蓮?」

「お前今どこにいんの」


「え?」


どこにって、もしかして私が家にいないこと知ってるの…、


「お前の家まで見舞いに行ったんだけど、いないって言われたから」

蓮は心配そうに言った。


「今は、友達の家に、」

私は嘘をついた。


社長の家にいるなんて言えない。


「は?なんで。てか俺以外に友達いないだろ」


「い、いるよ」

いないけど、私はそう答えた。


「なんで家に帰らずに友達の家にいんの」

蓮はさらに問い詰めた。


「なんでだろう…家にいたくないから、かな?」


どうして社長の家にいるかは、私にもよく分からなかった。


蓮はため息をついた。

「はぁ、んだよそれ。もう熱は下がったのか?」


「微熱…だけど、ほとんど良くなったよ。ごめんね私の代わりに仕事任せちゃって」


「いいって」

蓮は優しく答えた。


「また今度ごは…社長?」


ごはんでも行こうね。そう言おうとしたのに、社長に電話を取り上げられてしまった。


「寝てろって言ったのに何してんの」

社長は少し怒ったように言った。


「すみません、」


「もういいから、ちゃんと休んで」

社長は優しく言い直した。


「あの、私ほんとにソファーで大丈夫です。社長にソファーで寝てもらうなんて恐れ多いです」

私は再び遠慮がちに言った。


「でも、病人ソファーで寝かせる訳にもいかないし…」

と言いながら、私の目をじっと見つめた。


「じゃあ俺もベッドで一緒に寝る」

そう言うと、社長はベッドに乗り、私の隣に座った。


心臓がドキドキして、顔が赤くなるのを感じた。


「え、じゃ、社長、」

私は驚いて声を上げた。


社長の近さに、息が詰まりそうだった。


社長は優しく笑いながら、

「冗談。俺のことは気にせずに早く寝ろ」

と言って、そっと私の頭を撫でてくれた。


その手の温かさに、私は一瞬息を呑んだ。


「す、すみません。ありがとうございます。えっと、おやすみなさい、」

私は少し照れながら言った。


「ん。おやすみ」

社長は微笑んで答えた。


私はベッドに横になり、社長が部屋を出て行くのを見送った。




社長の優しさと温かさに包まれながら、少しずつ眠りに落ちていった。

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