第28話

空はまだ曇っていたけど、少しずつ明るくなってきている。


私は傘を持たずに玄関を出た。


通勤途中、街の景色がいつもと少し違って見えた。雨に洗われた街並みは、どこか清々しい感じがした。


会社に着くと、私はデスクに向かい、仕事を始めた。だけど、喉の違和感が気になって集中できなかった。


「大丈夫?」


隣のデスクの同僚が心配そうに声をかけてくれた。


「うん、ちょっと風邪気味かも」

私は微笑んで答えた。


「無理しないでね。何かあったら言って」

同僚は優しく言ってくれた。


「ありがとう」

その言葉に少し安心しながら、私は仕事を続けた。


そして、蓮は私がマスクをしている姿を見るなり、


「え、どっか悪いの?」

少し心配そうな表情を浮かべた。


 


「喉が痛くて、でも朝測ったら熱はなかったから大丈夫」


「大丈夫か?顔色が良くないみたいだけど」

蓮はさらに心配そうに尋ねた。


「大丈夫だよ」

私は笑顔で答えたが、内心では少し不安だった。


「無理しないで、仕事は俺に任せて早退してもいいからな」

蓮の優しさに、私は心が温かくなった。


「うん。ありがとう、」


でも、今日は大事な会議があるから、早退は出来ない。


蓮は頷いて、自分のデスクに向かった。


会議が始まると、私は集中して議題に取り組んだ。喉の違和感はあったけど、なんとか乗り切ることができた。


会議が終わり、その後も仕事を続けた。少しずつ体調が悪化しているのを感じた。


午後になると、喉の痛みがひどくなり、頭も重くなってきた。


「由莉、大丈夫か」

蓮が心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫…」


私は弱々しく答えたが、体は限界に近づいていた。


「もう無理せずに早退した方がいい」

蓮は真剣な表情で言った。


「だけど、」


まだ私の仕事は終わってない。


「俺がするから、もう帰って休め」


「でも、」

私はまだ迷っていた。


「いいから。代わりに今度飯でも奢って」

蓮は冗談交じりに言った。


「…ありがとう」

 

私は蓮の言葉に甘えて早退することにした。


部長に早退の許可をもらい、オフィスを後にした。


会社を出たのはいいけど、これ以上歩けない。

タクシーを拾う元気もない。


立ちくらみがして、倒れそうになった。


その時だった。


誰かが、私を支えてくれた。


「蓮…?」


ぼんやりして誰だか分からない。


だけど、きっと蓮だ。


蓮が私を心配して着いてきてくれたんだろう。


「大丈夫か、?」


その声は優しく、どこか安心感を与えるものだった。


「大丈夫…ごめん。タクシー拾ってもらってもいい?」

私はかすれた声で頼んだ。


「俺が送ってやる」


そのところ璦に見られたら…


普段なら絶対に断るのに、今日はそれどころじゃなかった。


「…ありが、と、」





 私は安心感に包まれ、意識が遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る