第25話

「あ、」

「乗らないの」


「の、乗ります…、」


前にも同じようなことあったような気が…


どうして、会いたくない時に限って会ってしまうんだろう。


心の中でため息をつく。


「昨日、見かけた」


やっぱり、


「そ、うなんですね…」


誤解…


されてても、もう関係ないんだよね。


「仲、良いんだな」

「幼馴染なので」


「よく二人きりで会うの」

「たまにです」


どうしてそんなこと聞くんだろう。

心の中で、社長の言葉がぐるぐると回る。


誤解されているのか、それともただ単に気になるだけなのか。


璦の姉だから。


「…付き合ってんの?」

「え?」


社長の視線が私を捕らえて離さない。


視線を避けたくなったけど、逃げるわけにはいかない。


冷静を装いながらも、内心は動揺している。


「…社長に関係ありますか?」



わざと突き放した。


じゃないと、好きだって言ってしまいそうになるから。


もう、私は社長の横にはいられないのに。


ちょうどその時、エレベーターが止まった。


「失礼します」


エレベーターのドアが開き、私は一歩踏み出した。


足が少し震えているのを感じながらも、毅然とした態度を保つ。


「待って」


その声に立ち止まり、振り返る。

社長の表情は複雑で、何か言いたそう。


心の中で再び緊張が走る。


「…何ですか、」

「いや、なんでもない。悪い。引き止めて」


「いえ、気にしないでください」


エレベーターのドアが閉まり、深呼吸をした。


自分の気持ちを抑え込むために、冷たく振る舞うしかなかった。


社長の言葉が頭の中で反響する。


何が言いたかったのか、何を考えているのか、全くわからない。


廊下を歩きながら、心の中で自問自答する。


社長の言葉に隠された意味を探ろうとしたけど、答えは見つからない。



オフィスのドアを開けると、蓮がデスクで仕事をしているのが見えた。


「おはよう」

「おはよう。どうしたの?なんか顔色が悪いよ」


「そうかな、蓮も早いね」

「早く来たら由莉に会えると思って」


「またそんなこと言って、」


「ねぇ、やっぱりなんかあったでしょ。もしかして、璦になんかされた?」


蓮の言葉に、心臓が一瞬止まったような気がした。


「そんなんじゃないよ。元気ないように見える?」

「うん。なんか、いつもと様子が違うから」


「ちょっと疲れてるだけだから、大丈夫」

「そっか…でも、無理はするなよ」


「うん、ありがとう」


その後、仕事に集中しようとしたけど、社長の言葉が頭から離れない。


蓮の優しさと社長の言葉の間で、心が揺れ動く。



もういっそ、蓮と付き合った方が幸せになれるのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る