第18話

「い、いえ大丈夫です。これ以上ご迷惑をおかけする訳にはいかないので、」


「座って待ってて」


…私の話聞いてましたか?


「あの、私はもうこれでしつれ『コーヒーに砂糖とミルク入れるでしょ』はい」


…じゃなくて。


「しゃ、社長」


「もうできるから」


駄目だ。何を言っても通じない。


「分かりました、」



「どうぞ」


朝ごはんはパン派なんだ…てっきりご飯派かと…

じゃなくて、


「あの…」

早く帰らないといけないのに、言葉が出てこない。


まだ一緒にいたい。


「食べないの?」


まさか、社長の手料理を食べられる日が来るとは。


「い、いただきます。…美味しいです」

「よかった」


料理まで出来て、一体出来ないことって何なんですか、


「すみません。迷惑をかけてしまった上に、朝ごはんまで頂いて、」


朝ごはんを食べるように言われるとは想定外だけど。いや、全部が想定外か。


「…家で何かあったのか」

「え?」


まさか、いや、まだ一ヶ月経ってないし、知らないはず。


「昨日、家には帰りたくないと暴れていたから」


あー見られてたんだ。恥ずかしい。


「いえ、そういう訳では、」


「じゃあ…あいつのこと好きなの」


あいつ?あいつって…まさか、


「蓮のことですか…?」


「かなり仲良いみたいだけど」


蓮とはそういうのじゃ…


「幼なじみなので、仲がいいだけですよ」


友達以上恋人未満の関係。

ただそれだけ。


「向こうもそう思っているとは限らない」

「へ、」


社長はさっきから何を言ってるの?


「悪い。今のは忘れて」

「…?分かりました」


…気まずい


「き、昨日、社長はどちらでお休みに…?」


私がベッドを占領してしまっていたから、休めなかったはずだ。


「あぁ、ソファーで寝た」


「すみません、」


ただでさえ忙しい方なのに、そんな方の貴重な睡眠を…


「いや、ソファーで寝ることはよくあるから別に気にしなくていい」


「そうですか、」


仕事をしながら寝ることだってあるしって、それほど忙しいのに、貴重な時間を割いて私と会ってくれてたんだ。


愛されてたんだなぁ。


「璦は元気か、」


あぁ、やっぱり。本命は璦だよね。

璦の話を聞くために私と朝ごはんを…


「元気ですよ、」


普通の人ならあんな我儘な女のことなんて、気にもしないはずなのに。それどころか、不幸を望むだろう。それなのに、社長は心から幸せを願ってる。


「そうか。お前は?」


「え?」


「お前も元気か?」


私…?


「元気です…」


「そ。なら良かった」


勘違いするな。


気にかけてくれるのは、璦の姉だからだ。

私だからじゃない。

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