第9話
「そんな、」
「じゃあね〜」
「あ、璦?そこにいるんでしょ?怖がらせてるだけだよね…?」
返事が帰ってくることも、この場に戻って来ることもなかった。
そして、お父様が探しに来ることもなかった。
昔から璦の方が大事で、璦ー筋だったから、別に期待なんてしてなかったんだけどね。
「怖いっ...」
真っ暗の中、私は空腹と暑さに耐えて一日を乗り越えた。
この日から私は暗所恐怖症になった。
そして、朝になっても助けは来ずに昼になってようやく誰かの足音が聞こえてきた。
「由莉!」
「蓮…?」
「由莉、大丈夫か!」
「なんで、どうして蓮がここに、」
璦が自分から言うなんてことはありえないし、
「由莉が学校に来ないから、何かあったのか璦に問いつ…聞いたんだよ。そしたらここにいるって言うから」
今、問い詰めたって言いかけた。璦が口を割るほど、蓮が怖かったってことだよね。
「助けてくれてありがとう、」
「あいつ、なかなか言わないから助けに来るの遅くなってごめんな、」
「そんな、、」
来てくれただけでどれだけ嬉しかったか。
「いつから閉じ込められてたんだよ」
いつから…返事によっては、璦の命が危険にさらされる事になる。
「きょ、うの朝」
「ほんとに?」
「うグルルルル…あっ、」
タイミング…
「朝ごはんも食べてないのかよ」
朝ごはんどころか晩御飯も食べてないです。なんて言えない。
「食べる前にここに閉じ込められたから、」
「…ほんとかなぁ、」
「え?」
やばい。疑われてる。
「璦を庇って言ってるわけじゃないよね」
「まさか…」
蓮とこれ以上目を合わせられない。目が泳ぐ。
「ま、いいや。璦に聞けばいいし。答えなかったら…今度はどうしようかな」
どうしようかなって、何するつもり、
「だ、、駄目…!」
「やっぱり今日の朝じゃないよね」
「えっと、」
バレてる。どうしよう、正直に言っても言わなくても璦が怒られる。
「由莉」
「…昨日の夜から」
「俺の目を見て言って」
目を見たら嘘つけないよ
「うぅ、本当は…昨日の昼からです。学校から帰ってきてちょっと経ったあとに、、」
私が怒らせたから。私の責任。
「という事は、丸一日ここにいたってこと…ね」
怒ってる。それも、すごく。蓮は手を挙げたりする人じゃないって分かってるけど、今の蓮なら…
「そうだけど、蓮…?ま、さか璦を殴ったりしないよね?」
「こんな汗かいて。ずっとここにいたんだよね。暑いのに水も飲めずに。ご飯も食べれずに。真っ暗なこの場所で」
どうして否定しないの、
「そ、うだけど、」
「それなのに、璦は来なかった」
「うん、そうなんだけどさ、蓮」
駄目だ。今の蓮に何を言っても止められない。
「それなのに、由莉は璦を庇うんだね」
「可愛い妹に変わりないし」
璦が私を嫌いでも、私は嫌いになれない。
「こんな事されてもまだ可愛いなんて言えるんだ」
「だって…」
「蓮くん…!」
「ちょうどいいところに…お前、由莉に何したんだよ」
「だ、だってこいつが、」
「こいつって、まさか由莉の事か」
「そうだけど…」
蓮は璦が私のことをこいつ呼ばわりしてたことは知らなかったみたい
「お前、由莉の事こいつって呼んでんの」
「だったら何」
「前まではお姉ちゃんって呼んでただろ」
「私にお姉ちゃんはいないわ」
薄々気づいてはいたけど、はっきり言葉にされるとやっぱり悲しい。
「は…?じゃあ由莉は」
「…ただの裏切り者よ」
「…ごめん由莉」
「え?」
どうして急に謝るの。
「由莉の妹だからって手加減できそうにない」
それってつまり、
「駄目!暴力だけは駄目!お願いやめて」
私は蓮の手を掴んで必死に抵抗した。
「…はぁ、裏切り者って由莉がお前に何したんだよ。何もしてないだろ」
「こいつは…!私が蓮くんを好きなこと知ってながら、責任も取れないくせに、蓮くんを落としたんだよ!?蓮くんは何も思わないわけ!?」
私が思わせぶりな行動をしてしまったんだろうか、
「俺が勝手に好きになっただけ。由莉は何も悪くない」
「…私が蓮くんの事好きだって分かってたのに、身を引いたりしなかった。そうしなかったのは気持ちには答えられないくせに、私には取られたくなかったからだよ。蓮くん!こいつはそんなやつなんだよ!騙されないで!」
違う。蓮と璦が付き合ったらどれほどお似合いだろうって何度思ったことか。
でも、私は、璦よりもずっと前から蓮と仲良かったのに、どうしてここまで言われないといけないんだろう。
流石に自分勝手すぎる。
私は今まで、どうしてこんな奴を庇ってたんだろう。
なんかもう…
吹っ切れた。
「…黙れ。次由莉の事こいつなんて言ったらタダじゃおかないからな」
「…」
「こんな奴ほっといて行こう由莉」
「うん、」
「ま、待ってよ…!」
「…放せ」
何十年も一緒にいたけど、こんな低い声聞いたことない。
「っ…」
蓮が璦に何をしたのか分からないけど、その後から璦は私の事をこいつと呼ばなくなった。
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