第8話

今から何年も前の話。



6歳の頃から私と蓮は何をするにもずっと一緒で、親友だった。大きくなってもそれは変わらないと思ってた。


だけど、蓮は私のことを友達とは思っていなかった。異性として私の事を好きだったみたいで、中学生になると、蓮は毎日のように私に告白するようになった。


「今日もかわいいね」

「ありがとう、」


「好きだよ」

「ありがとう、、」


最初は、ただからかってるだけなんだと思った。


だけど、違った。そして、 前々から璦が蓮に好意を持っていたのは知ってた。


いつ蓮が遊びに来るんだって何度も聞かれたから。それに、蓮を見る目が完璧に恋する乙女の目だった。


私は蓮のことを大切な友達だと思っていた。それなのに、付き合うなんて考えられなかった。


それなのに、いつまでもちゃんと返事をしないのは、蓮にも、璦にも失礼だと思った。


「蓮とは付き合えない」

「なんで、」


「友達にしかみれないの」

「必ず振り向かせてみせるから…!諦めろなんていわないで、」


そう言われて、拒否できなかった。



そして、人生で一番最悪な日が訪れることになる。


「蓮くんが好きです。私と付き合ってください」

「…ごめん。ずっと可愛い妹だと思ってたのに、今更そんな目で見れない」


「だけど、一度付き合ってみれば、」

「ごめん。他に好きな人がいるんだ」


「そ、っか。私の知ってる人…?」


「由莉だよ」


「お姉ちゃん…?」

「うん」


「そっか、分かった」

「ごめんね、」


「全然大丈夫!気にしないで」


璦が蓮に振られてからだった。


私のことをお姉ちゃんと呼ばなくなったのは。私と口を聞いてくれなくなったのは。



そして、影で私をいじめ始めたのは。


「璦おかえり、遅かったね」

「…」


聞こえなかったのかな、何か様子がおかしい…


「璦?どうしたの?」


「…い、」

「え?」

「うるさいっ!」


私に声を上げたのは初めてだった。


「璦…?」


「あんたなんかに私の何が分かるのよ!顔を見るのもムカつくのに、話しかけて来ないで!」


何か嫌なことがあってイライラしてるのに、私がしつこく話しかけたからいけなかったんだって、深く考えなかった。


明日になれば元通りになる。


だけど何日経っても昔の璦は戻ってこなかった。


「っ、なにこれ、」


トイレに行って部屋に戻ってくると、机の上に置いてあったノートや教科書がビリビリに破られていることが何度もあった。


もちろん璦の仕業だったんだけど、その時の私は信じる事が出来なかった。


信じたくなかった。


可愛い妹がそんな事をするはずがない。何かの間違いだって。目の前の現実を受け止めることが出来なかった。


もちろん、相談なんて誰にもできなかった。


「由莉、大丈夫?」

「え?」

「疲れてるように見える」

「そう?そんなことないと思うけど…」


毎日悩んで、寝付けない日々が続いた。

睡眠不足で顔色が悪かったのかも。


「…もしかして璦のせい?」


蓮は時々鋭い。


「璦…?どうしてここで璦がでてくるの?」


「この前、璦に告白たんだ。その時に、俺は由莉が好きだから付き合えないって断ったんだ」


そういうことか。

「そうだったんだ、」


「あの時の璦の顔が忘れられなくて。傷ついてると言うよりも、…なんて言えばいいか分からないけど、とにかく怖かった。由莉の名前は出さなかったら良かった。ごめんな。何されたか分からないけど、俺のせいで辛かっただろ」


だから私に嫌がらせを…


「しょうがないよ、」

「しょうがないって事はやっぱり璦に何かされたんだよな」


「あっ、」

ほんとに馬鹿だ。

「やっぱり…」


「ち、違う私は何もされてない」

「はぁ、あいつ…」

「璦に何も言わないでね」


これ以上嫌われたくない。


「…」


何も言わないから分かってくれたんだと思った。



蓮はただ、拒否も承諾もしなかった。




「あんた蓮くんにチクったでしょ!」

「え?」

「とぼけても無駄よ!由莉に嫌がらせせるなって言われたのよ!」


「蓮…」


言わないでってお願いしたのに、

「許さない…!」


「え、ちょ、」


怒りで理性を失った璦は私を離れの物置に閉じ込めた。


「ここで一日反省しなさい」


「出して…!出してよ!」

「うるさい!」

「どうしてこんなことするの?元の璦に戻ってよ!」


「先に裏切ったのはあんたでしょ!都合のいいこと言わないで!あんたなんて一生そこにいたっていいぐらいなのに…!」


裏切ったって…私別に何もしてないのに、

「お願いっ、ここから出して」


ここは昔から嫌いだった。昼でも光が入ってこないから薄暗くて、夜なんてきっと真っ暗だよ。そうなる前に早くここから出して貰わないと、


「出してあげるわよ」

「璦…ありがとう」



やっぱり璦はそこまで酷い子じゃない







「もちろん。明日の昼にね」

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