第6話
「…社長、」
「何、乗らないの」
「の、乗ります」
次会う時、どんな顔して会おうって昨日あれほど悩んだのに、会社で社長とばったり会うなんて。
社長を好きだと確信したからだろうか、昨日キスをしたからだろうか、それとも璦じゃなくて私として会っているからだろうか、かなり気まずい。
その上、エレベーターの中で二人きりだから耐えられない。
「…この前はありがとう」
「え?」
「映画館。喜んでくれた」
「それは、良かったで…っ、」
エレベーターが突然止まった。
「…故障か、」
このまま2人きり…
いや、想像しただけで気まずい
「そうみたいですね…」
バチッ
なんの音…何だか、嫌な予感が…っ、
「今度は停電か」
怖くない。怖くない。怖くな…もう、だめだ、
「はぁっ、はっ、…っ、」
「おい、大丈夫か」
「っ、は、」
だめだ上手く呼吸出来ない。呼吸、どうするんだっけ。
「おい、しっかりしろ!」
「しゃ、社長っ、」
「大丈夫、すぐに助けが来るから」
「迷惑かけて、ごめんなさ、」
…視界がぼやける
「迷惑だなんて思ってないし喋らなくていいから。今は自分のことに集中して」
ドアの向こう側で音がする…
「大丈夫ですか!」
「俺は大丈夫だから彼女を医務室まで『由莉!?大丈夫か!!』」
「蓮…?」
顔はぼやけて見えてないけど、この声は確かに蓮だ。
「エレベーターの中で一体なにが、」
「停電したんだ。そしたら彼女が呼吸困難に」
「暗所恐怖症なのに…怖かったな由莉。よく頑張った」
社長が支えてくれてたから何とか耐えれてるけど、足がもう限界…
「彼女が暗所恐怖症…?なら璦は、」
「璦?由莉の妹のことですか?社長がどうして璦を?というか、璦が暗所恐怖症なわけないじゃないですか。由莉をこんなふうにさせたのもあいつのせいなのに」
社長と蓮が何か話してるみたいだけど、何も聞こえない。これは確実に意識が遠のいてる。
「何?どうい『おい!由莉!』っ、しっかりしろ!」
駄目だ…もう限界。
──────────
「あ、由莉。気がついた?」
「蓮…?」
どこ、ここ…あ、そうだ私、倒れて…
「由莉が倒れた後、俺がここまで運んだんだよ」
「ありがとう」
「辛かったね。昔のこと思い出しちゃった?」
「うん、」
思い出さないようにすればするほど、
「そっか…」
「私、エレベーターから救出されたんだね」
「もしかして覚えてない?」
「あんまり…蓮が来て…私が、倒れる直前に、社長が私の名前を何度も呼んでたことぐらいしか…」
社長に由莉さんって呼ばれて嬉しかった。
「俺も呼んでたのに…社長に負けた」
「何言ってるのよ、もう」
「あ、社長に由莉が目覚めたら、帰らせてって言われてたんだった」
「え、でも私まだ仕事残ってるし、」
「とにかく安静にってさ」
「なんともないのに、」
「あの、さ、もしかして、社長と付き合ってる?」
ん…?今なんて?私の聞き間違い?
「誰と、誰が?」
「由莉と社長が」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
何を見てそう言っているのか知らないけど、社長が好きなのは私じゃなくて璦なんだから。
「だって普通、部下にこんな優しくする?由莉が倒れて、すーっごく心配してたんだよ。由莉がまた倒れないように、家までしっかり見送るようにって命令まで下されたんだから」
「それだけ社長が優しいってことでしょ?」
私が璦の姉だからっていうのもあるだろうけど。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。というか、ごめんね。私のせいで蓮まで帰らされることになって。仕事もまだ残ってただろうに」
「そんなの気にしないでよ。てか、ほんとに付き合ってないの?」
「付き合ってないってば。もしも社長が私の彼氏なら、蓮に頼まずに自分が見送るはずでしょ?でもそうしないの。だって私は社長の彼女じゃないから」
「それはそうだけど…」
まだ納得していないみたい。何をそんなに疑うことがあるんだ?
「もう帰ろうよ。送ってくれるんでしょ?」
「うん!待ってて荷物持ってくるから!」
「分かった」
って言ったものの来る気配がない。どこほっつき歩いてるんだか。しょうがない、私が呼びに行くか。
「あ、社長…」
今日はほんとよく会う
「体調はもう大丈夫なのか?」
「はい。先程はご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした」
「迷惑なんて思ってないけど、…どうして暗所恐怖症のこと黙ってた」
別に黙ってた訳じゃないけど、そもそも私の事なんて興味ないじゃないですか、
「聞かれなかったので」
「ところで、璦のせ『もう由莉!先に行かないでって言ったの…あ、社長、お疲れ様です』お疲れ様、」
「邪魔しちゃいましたか、」
あちゃ…これは、また疑われるよ。
「いや、何でもない」
社長、何を言いかけたんだろう…璦って言ってたけど、また聞きたいことがあったのかな。
「では…失礼します」
「何を話してたの?」
聞かれると思った。
「体調はもう大丈夫かって」
「やっぱり付き合ってるんじゃん」
「付き合ってないってば!」
もしも私が璦のふりをして社長と付き合ってるって言ったらどんな反応するかな。
きっと大騒ぎするだろうから言わないけどね。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。今日は安静にするんだよ」
ほんと、過保護なんだから
「分かってるよ。」
「明日迎えに来ようか?」
「そこまでしなくても大丈夫。子供じゃないんだから」
「心配だから言ってんの」
「大丈夫だから心配し「あ、蓮だ!」璦...」
最悪のタイミングだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます