第5話


「暗くならない…」


ドラマではもう少し暗かったような…これぐらいだったら大丈夫そう。


「実は俺、暗いところ苦手でさ。まぁ、プロジェクターの都合上多少は暗くしないと見れないんだけどね」


全部、私のために、


私が…人が多いのが苦手だと言うと分かっていて、貸切にしたり


私に気を使わせないように、知らないふりして、わざと嘘を…


私の夢を叶えるために…どうして私にここまで尽くしてくれるんだろう。



私は社長に何もしてあげられないのに…それどころか素直じゃなくて困らせてばかりなのに。



このままじゃ私は、ほんとに社長のことを好きに…いや、もう好きになってる。


離れられそうにないほどに。


…いや、それだけは駄目。



偽りの恋が実るはずなんてないんだから。





「面白かったね」


正直内容なんて入ってこなった。だって…


「ドキドキした」

「え、」


「…え!あ、いや、映画…素敵だったから」

「あぁ、気に入ってもらえて良かった」


ディナーを食べてから帰る予定だった。けど、大雨が降ってきて帰れなくなりそうだったので、今より酷くなる前に帰ることになった。


「ディナー残念だなぁ。せっかく有名なところ予約したのに」


なんて、運転しながらボヤいてる。


「別に、」

また行く機会ある…なんて、何言ってるんだろう私。なるべく早く別れないといけないのに。


「また行けばいいか。なんてね。」

「っ、」


びっくりした見透かされたのかと思った。


「あー、着いちゃった。はぁ、帰らせたくないなぁ」


「…送ってくれてありがとう」


私もまだ一緒にいたいなんて言えるわけな…まって、…璦だ。


雨で前が見えにくいけど、分かる。前から傘をさして歩いてきているのは本物の璦だ。


「璦…?」

「…」

どうしよう。璦に見られたらきっと…


あの子は私の好きなものを欲しがる子だから、彼氏なんて捨ててでも、奪いに来る。元々私のものではないんだけど、でも、


「璦?…っ、」


璦に社長を見られたくない。社長にも璦を見せたくない。私なんかよりもかわいいから。きっと好きになる。



社長の頬を両手で包み込み、顔を私の方に引き寄せた。


「好き」


社長の瞳が私の瞳を捉え、彼の手がそっと私の頬に触れた。


その温もりが心の奥まで染み渡る。


「璦…俺も、愛してる」


瞬間、世界が静止したかのように感じた。


彼の息遣いが近くに感じられ、心臓が高鳴る。




好き。


大好き。



私に尽くしてくれるところも。



私にだけ見せる笑顔も。



ふとした仕草も。



全部。愛おしい。




あぁ、私は社長のことが好きなんだ。








もう、離れられない。

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