第6話 焼死体の検屍 その1
夏の朝日がまぶしく輝く中、美月は商店が立ち並ぶ大きな通りを歩いていた。
朝早くだというのに活気のある声が飛び交っている。
臨安に住み始めて早1週間が過ぎた。
女真族に攻められ遷都を余儀なくされたとはいえ、この中原に君臨する宋の都である臨安は驚くほどに広く、そして区画がきれいに整備されている。
軍にいたときも何度か訪れたことがあったが、隅々まで歩くことはできなかった。
美月は吸い込まれるように道端の店に立ち寄った。
看板には福と大きく書かれている。
店先には何段にもせいろが積み上げられている。
「美月さんおはよう。いつものやつね」
奥から出てきた娘はそういうと手際よくせいろをひとつとった。
小柄な彼女の背よりもずいぶんと高いせいろを起用に取るものだといつも感心する。
「いつも悪いな。
美月はせいろを受け取りながら言った。
「何言ってるの。常連さんなんだから気にしないでよ」
汐はまぶしい笑顔を美月に向けた。
美月がお金を渡すとちょっとまってといって汐は奥の大きなせいろを開けて、肉まんを2つ持ってきた。
「これおまけ。小籠包だけじゃたりないでしょ」
「いや、受け取れない」
汐は美月の言葉を無視して空いている方の手に肉まんを乗せた。
「お・ま・け」
汐は困ったように肉まんを見つめる美月の顔を覗き込みはじけるような笑顔を見せた。
その後あきらめた美月は再び職場を目指し通りを歩き始めた。
「せいろは帰りに店に戻してね」
背中に汐の声が届く。
道中何人かにあいさつされた。
まだ臨安に来て1週間しかたっていないのに、ずいぶんと顔を覚えられたものだ。
まぁ、こんなに背丈が大きく顔に傷のある女が毎日歩いていたら目立ちもするかと、すこし自虐的な考えが浮かんだ。
しばらくして通りを抜け、宮廷の近くにある平屋の建物の前まで来た。
両手がふさがっていたので、美月は足を使ってドアを開けようとした。
建付けがいまいちな扉が思うように開かなかったので、すこし力をこめたとこと、今度は勢いよく扉が勢いよく開き大きな音が鳴った。
それと同時に扉の奥で大きな音が鳴る。
しまったと思い中を覗き込むと机がと椅子が倒れ、その上をひらひらと何枚かの紙が舞っていた。
そして人が一人仰向けに倒れている。
「大丈夫か」
バツが悪そうに美月が声をかけると、頭をさすりながらその人物は状態を起こした。
幼い顔に二つにくくられた髪、そして小柄な背丈。
十代半ばのつやのある肌にピンク色の頬にかわいらしい顔をした少女がそこにはいた。
「だ、大丈夫です。驚いただけなので」
その少女は慌てて机といすを起こし、散らばった紙を集め始めた。
「すまない
そう言いながらせいろを静の机の隣の机の上に置き、その上に肉まんを並べ、すぐさま美月は紙を拾うのを手伝った。
紙を集め終わり、整えてから静の机に置く。
彼女は丁寧に深々と頭を下げお礼を言った。
「そうだ、朝ごはん食べたか。肉まんもらったんだ。食べるか」
美月はバツの悪さを払しょくするように早口で言った。
「食べました。食べます」
静はぱっと表情を明るくしてそう答えた。
しかし、美月の頭には疑問符が浮かんだ。
「うん、食べたんだよな」
美月は自分の疑問を解決しようとそう言った。
「はい。でも食べます。」
「そ、そうか」
静の満面の笑みに押されながら美月は肉まんを渡した。
お礼を言い、すぐさま静は肉まんにかぶりついた。
小さい顔が肉まんに埋もれているように見える。
一生懸命肉まんを食べる姿がほほえましく、美月の表情は自然と和らいだ。
美月には姉妹がいなかった。
兄と弟がいたが、病気や戦争のせいで失ってしまった。
そんな彼女にとって、仕事仲間ではあるが素直な表情を見せ人懐っこい静は、妹のような存在に思えた。
一つ目の肉まんをぺろりと平らげた静にもう一つの肉まんをあげる。
静はすぐさま二個目の肉まんにかぶりついた。
それを見て美月は自分も朝食を取ろうとせいろを開けた。
中には小籠包が8個入っている。
唐突に静がせいろの中を覗き込んだ。
そして美月の顔と小籠包を交互に見た。
口を一文字に結び悲しそうな眼で肉まんを見つめた後、二つに割って、食べかけじゃない方を美月に差し出した。
「い、いや、遠慮するな。私はこれで足りるんだ」
美月は小籠包を指さし言った。
「でも、美月さん体大きいし……」
そういう静の言葉を遮るように美月は頭をなでた。
「気にするな。それはお前の分だ」
静はしぶしぶではあったが再び肉まんにかじりついた。
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