第5話 蠅が犯人を教える その後

次の日、美月は臨安に向かう馬車の隣を歩いていた。

甲はその日のうちに犯行を自白したそうだ。

取り調べに対して素直に事の顛末を話したと細い男が言っていた。

犯行の主な動機は金銭トラブルだった。

梅梅が言っていたように、借金の申し出を断られたことが事の発端だった。

その他にも梅梅の証言からは出ない情報がいくつかあった。

梅梅に恋心を抱いていたとか。

日頃から慕われている平に対して嫉妬心があったとか。

どれもそれ単体では相手を殺したいと思うほどの動機には思えなかったが、つもりつもった憎しみがあふれ出てしまったのだろう。

だからといって人を殺していい理由になどならないが。

今回、美月は不本意ながら宋慈とともに犯人を暴くことができた。

しかし、失われた平の命は戻ってくることはない。

梅梅もあの楽観的な性格では今後の生活が心配だ。

確かに事件を解決に導くことはできたが、関わった人間は不幸のままだ。

美月の胸の中にはやるせない思いが広がっていた。

だが、すべての希望を失い、無気力な人生を消費していた美月にとって、それは久々に感じる大きな感覚だった。

だから、彼女は宋慈についていくことを決めた。


「ねぇ、小月。君も馬車に乗ったらいいのに。臨安まで歩くのは大変だと思うけど」


宋慈が馬車の小窓を開け、そこから乗り出しながらそう言った。


「いえ、この程度問題ありません」


美月は、つんと前を向いたままそう答えた。


「そういわないでさぁ。一緒に乗ろうよ。結構広いんだよこの馬車。美月が入っても十分広いしさぁ」


まるで駄々をこねる赤子のように、小窓から腕をだらんとたらしふてくされながら宋慈がいう。


「結構です」


確かに宋慈についていくとは決めたが、この男と臨安まで馬車の中で二人きりは正直きつい。

こんな子供みたいな男と一緒なのは嫌だ。


「それにしても、よくあの男の名前わかったね」


宋慈が体勢を直しながらいった。

得られた情報がそれしかなく、ほとんどあてずっぽうだったとは言えなかった。


「小月が思った以上に働いてくれそうでよかったよ」


宋慈は満足そうな顔をして馬車のなかに戻っていった。

果たしてこの臨安に続く道が美月にとってどのような未来をもたらすのか。

今はまだわからなかったが、少しでも良い変化があればと、青空を見上げながら美月は思った。

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